十二.リエルの客
段々と暑い日が続く季節になった。
相変わらず本殿の掃除をしていた。
午前中いっぱいをかけてピカピカになった。
掃除を終え、昼にしようと住宅に戻った時。
「すみませーん。リエルはいますかぁ?」
「ん? リエルは僕ですけど?」
そう言って振り返る。
すると、何時ぞやの放火青年がいた。
「あぁー! 来たの?」
指を指して聞く。
「人を指さすなや! いつでも来いって行ったのはお前だろ!」
「うん。確かに言った! よく来たね! 後で話聞くよ!」
「後で?」
「そっ。とりあえず昼ご飯食べよう?」
「えんじいぃぃーーー! もう1人お昼追加ぁーーー!」
「何じゃとぉ!?」
驚いた声が台所から聞こえたが。
「何か人数が増えたらまずい昼ご飯だったかなぁ?」
心配してちょっと顔を出す。
「えんじい、ごめん。知り合いが来たんだ。お昼大丈夫?」
「大丈夫じゃ。麺を間違って多く買っててよかったわい」
「今日は何?」
「特製味噌ラーメンじゃ」
「楽しみにしてる!」
ニコッと笑みを浮かべて戻る。
そのやり取りを見ていた渉。
「なぁ、そのニコッていうのわざとやってんのか?」
「ん? 何が?」
「あぁ。そういう感じ……」
天然というかこういう人なんだと。
そう納得した藤堂渉であった。
皆さんは覚えているだろうか。
放火犯で連行された彼を。
来ると言っていたので。
来たのだろう。
「結構早かったね? 罪は償ってきたの?」
「あぁ。まだ子供ってことと、死者が出なかったってことで、情状酌量の余地があるってなった。そんで、金で解決したんだ。だけど、親が暫く家から出さねぇって言うから、今まで来れなかった」
「あぁ。そういう事。よかったね? 重い罪にならなくて」
「……あの時は、本当に有難う!」
土下座をする渉。
それに、戸惑っているリエルであったが。
「あの時、リエルが止めてくれなかったら、取り返しがつかない事になっていたかもしれねぇ……感謝しても仕切れねぇ。俺の恩人だ。本当に有難う御座いました!」
「うん。あそこで止めてくれてよかったよ。頭を上げてよ? たまたま見つけて、話しただけだしさ」
「いや、これは俺なりのケジメだ! なんでも言ってくれ! 俺は、お前のためなら何でもする!」
「本当に気にしなくていいよ?」
「それは、無理だ!」
「んーーーー。じゃあ、貸し1つって言うのはどう? 僕が困った時に、助けてもらうって言うのはどう?」
「あぁ! それは、重くていいな! そうしよう!」
満足そうに頷く。
普通に胡座で座る。
戻ってよかった。
「ラーメンお待ちどうじゃ」
「ありがとう! えんじい!」
「有難う御座います。すみません。突然おじゃまして」
「リエルの客じゃろう? それなら、遠慮することは無い。家族みたいなもんじゃ」
そういうと台所に引っ込んでいく。
照れくさかったのだろう。
「えんじい……」
「いいお爺さんだな?」
目に涙を溜めていう渉。
「でしょ? 自慢の爺ちゃんなんだ!」
「いいなぁ」
「何時でも来るといいよ? 家族みたいなもんだし」
ニカッと笑うリエル。
そんな反則級の笑顔に。
顔を赤くする渉。
「ん? 大丈夫? 顔赤いよ?」
「だ! 大丈夫だよ! 何でもねぇよ! いただきます!」
無理に会話を終わらせてラーメンを食べる。
首を傾げながらリエルもラーメンをすする。
「んー! うまい!」
「あぁ。うまい」
そう言いながら食べる。
ズルズルと美味しそうにすする。
途中からえんじいも加わり、ラーメンをすする。
食べ終わると、本殿の方に案内した。
「ここだと落ち着くでしょ?」
「そうか? なんか神様に見られてる見てぇで落ち着かねぇけど?」
「見られてるんじゃないよ? 見守ってくれてるんだ」
「ふっ。そうか。なら、問題ねぇな」
「でしょ?」
ははは。と2人で並んで座って笑う。
突然真剣な顔になり、渉が話し始めた。
「俺さ、進学校に通っててさ、親から勉強しろ勉強しろって今まで言われて来たんだ。それが嫌で事件を起こしちまった」
「うん」
「捕まったあと、親が呼ばれて警察から俺がやった事を聞かされた母親と父親ははどうしたと思う? 俺は、ぶん殴られて家を追い出されると思った。見捨てられると思ったんだ」
「うん。でも、違かった?」
「そう。違かった。2人とも泣いて謝ってた。そして、俺の話を初めて聞いてくれたんだ」
「その時が初めてだったの?」
「そう。あの時が初めて俺の話を聞いてくれた。それまでは、聞く耳を持たなかった」
「そっか。皮肉な結果になっちゃったね?」
「そうだな。放火をしたことでようやく話を聞いてもらえるなんておかしな話だ。けど、その後、放火をした所に謝りに一緒に行ってくれた」
「そうなんだ。いいご両親じゃない。ケジメをつけさせてくれたんだ?」
「そういうことなんだと思ってんだ。俺に謝って罪を償って、ちゃんと進んでいけって。そういう意味だと思う。俺も、親の事を理解しようとしてなかった」
「それに気づけた。それは、いい事だね」
「んー。だなぁ。もう少し早く気付けば良かったんだろうけど……」
段々と傾いてきた日を眺めながら。
後悔をしているのだろう。
「うん。でもさ、そういうのタラレバって言うんでしょ?」
「そうなのか?」
「こうすれば良かった、こうしてたら良かったのに、そういうのをタラレバっていうんだって」
「へぇ。知らなかったわ」
「タラレバっていうのは、結局今更言ってもしょうがないじゃん? ってことなんだよ。あの時こうすればよかったとかはさ、反省じゃないんだよ。ただの後悔。反省はさ、次はこうしよう。なんだよね」
「前向きにって……ことか?」
「そう! 両親の気持ちがわかってなかった! あの時は、分かろうともしてなかったからだ。次は話し合って解決すればいいんだ。って言う事」
「後ろを振り返るんじゃなくて、前を見て歩くってことか?」
「そう! そういうことなんじゃないかな。後ろを見ることを悪いとは言わない。けど、後ろ向きに歩いてたんじゃ前が見えないじゃない? これからの事は前にあるんだから」
「確かにそうだな。後ろばっかり見てたら前に壁があったらぶつかっちまう」
はははっと口を大きく開けて笑う。
「その通りだね! だから、少しの間後ろは向くけど、1歩踏みだす時は、前を向いて歩こうってこと!」
「おう! まとまったな」
「だね! 渉でいい? 呼び方」
「今更だろ! 俺も、リエルって呼んでんだ」
「ふふっ。そうだね。渉は家族も同然。いつ来てもいいよ?」
「ありがとよ」
「うん!」
リエルは嬉しかった。
渉が訪ねてきてくれて。
来ないかと思ってたのだ。
しかも、ちゃんと色々話してくれた。
自分なりの考えもちゃんと持っていた。
放火をしたあの時とは違う。
あの時は、ただただ火をつけたい。
ストレスを発散したい。
そればかりだった。
それがどうだろう。
話を聞いてみれば物分りのいい青年ではないか。
しかし、こんないい青年が。
生きていてつらくなる世界。
そんな世界は、変えてやりたいなぁ。
そう思う。
リエルなのであった。
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