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少女と「WWM」

 前略

 お母さんお父さん、お元気ですか。

 私は元気に封印されています。


 あるオンラインゲームで2日徹夜していた私は、

 お風呂に入ろうとして一階に下る階段で転んで死にました。

 享年13歳です。


 自分でもアホな死に方だなと思いました。


 身体をゴロゴロと段に打ち付けながら落ち、凄く痛かったので死ぬ間際の事はよく覚えています。


 身体が動かず、なんだか瞼が重くなった私。

 次の瞬間には何故か別の世界で封印されていました。


 何を言っているのか問うのはやめてください。

 本当に気が付いたら封印されていて、それ以上の説明は出来ないんですから。


 向こうの世界については後々。


 またお手紙書きますね。

 あらあらかしこ







 上を向いても下を向いても赤味がかったなにかで満たされた無重力の空間。

 それがこの世界の全てでした。


「ああー…暇ですね」


 私がここに来てからどのくらいの時間が経ったのか、見当も付きません。

 最初の数年は泣いたり叫んだりしていたような気がしますが、現在では何もせず寝てばかりいます。住めば都ですね。


「はい皆様ごきげんよう、初めましての方は初めましてかしら」

「皆様わたくしです。あの籠内朱里かごうち あかりですわ!」


 私はコメントを確認するように目線を少し下げます。


「え?知らないって?なんて事おっしゃるの…無知を恥じなさい。反省して右上のボタンからチャンネル登録をしておくのよ!…ふう」


 ……はぁ虚しい。不毛なお嬢様系YouTuberごっこも飽きてきました。

 私しか居ない空間で私は足を投げ出します。



 さて、膨大な時間の中で私はここがどのような場所なのかを理解しています。

 ここは宗教的な部屋にある空間のようで、時折人の物音や会話が僅かに聞こえてくるのです。お陰で私はロマなんとか教の祭壇で飾られている宝杖とやらの宝石の中に居るという事がわかりました。

 また、会話を拾ってもどうも私が封印されているって事を誰も知らないようで、ここの人間が私を閉じ込めた訳では無いようです。


 声が聞こえるとはいえ、こちらから声は送れない。

 その上普段は誰も居ない部屋の絶対開かない箱の中にポツンと保管されているだけ。詰んでます。脱出はとうの昔に諦めました。


 明日はロボットダンスの練習でもしようかと考えていると、小さな音が聞こえてきました。どうやら扉がゆっくりと開かれたようです。

 どうにも様子が変だなと思っていると、唐突に周りが明るくなりました。なんと私の入ってる木箱が開かれたのです。


 これは私を盗みに来た賊に違いありませんね……。

前に信者の会話で聞いた【神器集め】って人間でしょうか?


ともかくお外に出られるチャンスです。やったー!







 盗賊さんは無能でした。

 建物から脱出する最中、タイミングが悪く居合わせた信者に見つかり、魔法をばかすか撃たれてどこかに吹き飛ばされてしまったのです。私はその時に投げ出されて、信者に回収されました。


 ところで、私は衝撃を受けていました。

 魔法のある世界なのは認識していましたが、実際に使っている場面を見て、ある事に気付いてしまったからです。


 信者が使っていた魔法【指定爆破魔法】は私の知っている魔法だったのでした。

 「…あのネトゲの世界なんでしょうか」


 あのネトゲ───「Withered Wizard Melody」、通称WWMは魔法使いであるプレイヤー達が世界中を周り、モンスターの蠢く世界を救うため元凶となる最古の魔女を倒す事を目指したMMORPGでした。


 このゲームの大きな特徴として、特筆すべきは魔法の詠唱方法でしょうか。詠唱は短いメロディを実際に音声入力する必要があったのです。

 一見不便だなと感じると思いますが、慣れてくると便利としか言いようがありません。手動入力で狙いをつけつつ、ハミングで魔法を放つ。私は生前それに大いにハマりました。


 ……しかし、【指定爆破魔法】ですか。

 この魔法は対人最強と言われていました。音声入力も4音と短く、相手から聞こえる声で魔法を予測し回避を行う「WWM」においては、いきなり中距離に回避不能の大ダメージを与えるクソ魔法でした。ゲームの方は即下方修正されギリギリ回避出来るようになりましたけど、ここでは修正前のようです。


 魔法は【指定爆破魔法】のような攻撃魔法だけではありません。

 「攻撃魔法」「補助魔法」「特殊魔法」と、全部で三つに分類されています。


 「補助魔法」はお決まりの回復魔法や、強化魔法等、戦闘補助に使う魔法です。

 「特殊魔法」は所謂デバフだったり、物語のキーとなるだけの役に立たない魔法など、他の分類に入らない魔法は全てこちらに入ります。



 と、まあ。長い説明をしましたが、肝心なのは私が魔法を使えるかどうかです。

 人差し指で杖の代用をし【指定崩壊魔法】を宝石の表層に向かって放ってみましょう。


「…【指定崩壊魔法】」


 ……ヒビさえ入りませんでしたが宝石の表面に薄いモヤが発生しました。魔法抵抗があるだけで、発動自体はしたという事です。

 つまり私も魔法を使うことが出来るって事で、これはかなり大きな収穫ですね。

 といっても、単純な攻撃魔法では脱出することは難しそうです。【指定光線大魔法】でも使えれば分かりませんが「いしのなかにいる」状態でそんなもの放てば宝石が私ごと粉々になりそうですしね。

 

 そうなると、他に有用そうな魔法は【相互転移魔法】くらいでしょうか。

 これは二人の立ち位置を交換するだけの撹乱用の魔法です。宝石に居る私でちゃんと作用するか分かりませんが、やってみる価値は十分にあります。


 ……まあ、代わりに閉じ込められる人は気の毒ですがね。

 成功した暁には後で開放してあげれば問題無いでしょう、無いよね?

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