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えっパーティ追放?~今更戻ってきてくれと言われてももう遅い。20年も経ってるんだぞ! 遅すぎるだろ!? そもそもお前の息子にお義父さんと呼ばれる筋合いはねえ!!~

作者: 中年だんご

 扉を開けて一秒、20年前に俺を追放したクソ勇者がそこにいたから、


「お父さん、娘さんを僕にぐぼぁ!?」


 思わず殴り飛ばしたくなるの星屑ロンリネス。


「ちょっとお父さん、何やってんの!? 勇者くん死んじゃったらどうするの!!」


 そしたら娘がクソ勇者をかばいやがった。お父さん、3年前に「あたしの服、お父さんと一緒に洗濯しないで!」って言われた時よりもショックなんだが。


 だが、娘がそういうのも致し方あるまい。というのも俺は20年前、当時最強の【格闘家】として、勇者パーティの物理アタッカーを担当していたのだ。俺の拳は大抵のものは砕ける。勇者の聖剣だってうっかり殴り砕いてしまったし(幸いにも自動修復機能があったので首の皮一枚つながった)耐久力強化のエンチャントを施した、王城建設に使われる最高級レンガですら余裕で一発粉砕だ。おかげで会場の修理費が馬鹿にならないと、武闘大会では一回出場しただけで出禁になる始末である。そしてその技は、老いてなお未だに衰えてはいない。


 20年前、そこのクソ勇者に「殴るしか能がない脳筋は俺のパーティには不要だ」なんて理由で追放されたが。ああクソッ! 思い出したらまた腹が立ってきた!


「おうクソ野郎……。てめえ、俺を20年前にパーティから追放しただけじゃ飽き足らず、娘に色目を使うたぁいい度胸だ……! 【聖女】のヒールでも元に戻らねえくれえ顔面整形してやるよ。サービスで麻酔は無しにしといてやる」


 指をボキボキと鳴らしながら近付くと、クソ勇者は手をこちらに向けてくる。お、なんだ? ファイヤーボールでも使おうってのか? 俺の拳はランクSSSの広域殲滅魔法だって殴り飛ばせるシロモノだぞ。20年ぶりで耄碌したか?


「ま、待ってください! それは父です! あなたを追放したのは僕じゃありません!!」


「あぁ……?」


 さっきぶん殴ったクソ勇者の顔をよく見てみれば、真っ赤に腫れた頬を除いて20年前にソックリだった。全く年を取った様子がない。


「……【勇者】ってのは、不老の加護も付与されてるのか?」


「ですから、僕はあなたの仲間だった勇者の息子です!」


 あのクソ勇者の、息子ぉ?


「あいつにガキが生まれたなんて話、聞いたことねえぞ」


「いやそれお父さんの勇者嫌いのせいじゃん。勇者の話を全然聞きたがらないんだから。ていうか【勇者】は去年に代替わりしてるよ」


「むぅ……」


 そう言えば娘が生まれて町の神父に祝福を貰った時、勇者にも子供が生まれたって話をしていたかもしれん。仕方がない。娘の手前だし、少し人間的に寛容なところをみせるか。


 そう思った直後、玄関扉が荒々しく開かれ、


「ちょっとアンタ! 何玄関先でくっちゃべってんだい!! とっとと仕事に行っとくれ!」


「あっ、もしかしてお母さんですか? 僕はごぼぅ!!!」


 家内が小僧の肩に手を置いた直後、小僧が土の中に埋まった。頭を下に、足を地面から生やすような形で。新種のマンドラゴラかな?


「フンッ!」


 扉が音を立てて閉められる。家内の気配が玄関から消えるのを待ち、俺は地面から生える足を掴んで引っこ抜いてやった。


「小僧、一ついいことを教えておいてやる。……ウチの家内、俺より強ぇぞ」


 また家内にやってこられては堪ったもんじゃない。小僧をぶら下げたまま、先ほどより小声でしゃべりながら移動する。


「ええ、存じ上げております。……実は、父があなたをパーティから追放したのも、それが理由なのです」


「何? どういうことだそいつは!?」


「ちょっとお父さん声大きいって……!」


「おっと、いかんいかん」


「あなたがいない時に、父が恐ろしい実力の女性に脅されたそうなのです。あなたをパーティメンバーから追放しろ、と。それがあなたの奥さんです」


「なん、だと……!?」


 20年越しに明かされる、パーティ追放の真実―――!


 だが、まさか、そんな……。信じられん。パーティを追放されて失意に沈んでいた俺を慰めてくれた彼女が……!



 いやウチの家内ならやるわ。



 いかんいかん。20年前の記憶だから美化してしまった。当時の俺なら信じなかっただろうが、家内と20年を共にした今の俺なら理解できる。あの女は、それくらいのことは平気でする。


「父は、あなたを追放したことをずっと後悔していました。いつかまた、パーティに復帰してほしいとずっと言っていたんです。ですが先日、あなたの居場所が判明したので、こうして迎えに来たというわけです!」


「なるほど、話は分かった。だがよぉ、その当の勇者、手前の父親はどこだ? あいつ本人の口から伝えるのが筋ってもんじゃあねえのか?」


 俺がそう言うと、未だに足を掴まれ俺にぶら下がったままの勇者は、静かに首を横に振った。


「……父は、死にました」


「……そう、か」


「直後に母の蘇生魔法で生き返りましたが」


「本当【勇者】ってやつは何でもありだな!?」


「まぁそれとは別に、移動できない理由があるのです。実は、父がやってしまいまして」


 やった……殺った!?


「だ、誰を!? 村人か? どこぞの貴族か? まさか、王族なんて言わねえよな!?」


「いえ、腰です」


「腰」


「母の、元【聖女】の見立てによると、ギックリ腰とのことです」


「ギックリ腰」


「お父さん、ギックリ腰って、確か」


「ああ。治癒魔法でも治せない特殊大病の一つだ」


 治癒魔法というのは()()万能だ。病気も治すし怪我も治す。虫歯の治療なんてのも朝飯前。さすがに死者の蘇生には色々と制限があるが、それだって不可能って訳じゃない。だが、そんな治癒魔法でも治せないものが、僅かにだが存在する。


 その一つが、ギックリ腰である。あと結石も無理。


「そうか。ギックリ腰じゃ、来れなくてもしょうがねえよなぁ」


「あの、ところでそろそろ下ろしてくれませんか? さすがに頭に血が上ってきていまして」


 放してやった。上半身を土で汚した小僧は立ち上がり、真剣な目で俺を見てくる。


「あの、ところでお父さん。一つご相談があるのですが」


「おう、なんだ。言ってみろ」


「娘さんを僕に下さい」


 俺はにっこりと笑い、ここまでご足労頂いた旧友の息子の両肩に手をかけ、


「あいつの息子にお義父さんと呼ばれる筋合いはねえ!!!」


「ぐわぁああああ!!!」


 そのまま地面に埋めた。ところで、日本の足で立っている状態で上から押して地面に埋めるとどうなるかをご存知だろうか? まず、二本の足が穴を掘り進めるわけだが、当然足と足の間には土が残ることになる。そして生まれた人口の山は、いずれ終点へと激突する。


 すなわち、地面による金的である。それも一撃では終わらない。押し付ける力がなくなるまで、金的をされ続けるのだ。そう、名付けてスリップ金的……!


「ゆ、勇者くーん!?」


 青い顔で白目を剥いて泡を吹いている小僧を尻目に、これからのことを考えた。


 俺は懐の広い男だ。これまでは違ったのだが、これからはそうなる。だから過去のことは水に長そう。あいつが会いに来れないってんなら、俺から会いに行ってやるしかねえじゃねえか。


 そうと決まれば話は早い。俺は埋まったままの小僧の頭を掴んで地面から引き抜いた。上も下も土色で汚れた若造に対し、何度か手を振って気付けする。


「で、坊主。おめえの親父はどこにいるんだ?」


「お、王都で治療を受けています……」


「そうか」


 顔を上げれば、雲一つない青空が広がっている。朝日は燦然と輝き、まるで俺のことを祝福してくれているようだ。


 旅に出よう。そう思った。思い立ったが吉日、ならぬ吉瞬だ。家内に見つかる前にここから


「ちょいとアンタ! まだそんなところにいて! 今日の仕事はどうしたんだい!?」



 小僧を置いて、娘も置いて、脱兎のごとく逃げ出した。



「ちょっと待ってよお父さん!」


 そしたら娘が追いかけてきた。さすがは俺と家内の子だけあり、俺の全力疾走にすらも付いてこれる。


「ヒール! ヒール! ヒール!」


 小僧は股間に手を当て股間を光らせ股間に治癒魔法を連発し、金的の痛みを癒しながら走っている。


「おう小僧! 移動しながら無詠唱で魔法が使えるたぁ大したもんだな!」


「母に鍛えられましたからね! ところでここに治癒魔法を使うと別の意味で元気になって走り辛くなるのですが、」



「まあああああてええええええ!!!!!」



 遠くから、地響きと共に家内の叫び声が聞こえてくる。


「こうも恐怖を覚えると一瞬で引っ込みますね!!」


「うわちょっとお母さんドンドン近付いて来てるよ! 勇者くん妨害とか出来ないの!?」


「すいません! 僕は【勇者】なので妨害魔法は全然使えないんです!! 民間人に攻撃魔法をぶっ放すわけにも行きませんし!!」


「家内は魔法を反射するから使うな! ところで娘よ! お母さんと一緒にお父さんの帰りを待っててくれ!!」


「いやだよそれお母さんを足止めしろってことじゃん!」


「妻と娘を危険な旅に付き合わせたくないって言う親心だよ!!」


「それお父さんが自由になりたいってだけでしょ! そもそもお母さんと二人で暮らすのより危険な旅なんてあるの!?」


「ないな!!!」


 一瞬も考えずに断言した。



「とおおおおまああああれえええええ!!!!!」



 地響きが、声が、先ほどよりも近付いて来ているのを察する。


「うおおおおおおお走れ走れ走れえええええ!!! 捕まったら旅なんて出れるわけねえぞおおおおお!!!」



 これは、元最強の【格闘家】と、現最恐の【格闘家】による夫婦が、世界を救う旅の物語……なのかも知れない。


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