車掌さん
類と萌香は、その車掌に驚きながらも切符を手渡した。車掌は影のような黒い手でそれを切り、二人に手渡す。
「この列車にはまさか車掌さんがいらっしゃったとは存じませんでした。」
「そうね、何日も乗ってるはずなのに知らなかったわ」
車掌は未緒の方を見た。どうやら、未緒の分も切符を手渡さないとならないらしい。
「未緒さんも列車の切符をお持ちなのでしょうか。」
類は、眠っている未緒を起こしてカバンの中を開けた。
「類さん、どうしましたか?」
「未緒さん、切符を車掌さんに手渡してください。」
未緒は、眠い目を擦って切符を車掌に手渡した。車掌は、それを切って未緒に返す。車掌は、未緒のような幼い子供が一人で銀河鉄道に乗っている事に驚きを隠せないようだった。
「君は一人でここに乗ってきたのかい?」
未緒が頷くと、車掌は文字通り目を丸くした。
「そうか…」
車掌は影のような手をコートの中に突っ込んだ。
「そうだ、良かったらこれ」
そう言って車掌が手渡したのは、瓶の中に入った星屑のようなキャンディだった。銀河鉄道では食料は貴重だ。何故車掌がこれを持っているのか分からないが、未緒はそれを嬉しそうに受け取る。
「ありがとうございます、車掌さん」
車掌は頭を掻きながらその場を去ってしまった。
そして、車掌が居なくなってから、未緒は類に次に向かう星の事について聞いていた。
「類さん、次はどんな星に向かうのですか?」
類は宇宙地図を広げて未緒に見せた。その地図は紙のように折り畳めるが、よく見ると銀河鉄道の運行に合わせて場所が動いている。
「地球に居た人類は、生き残る為に宇宙にある様々な星に移り住みました。僕達もそうです。次に向かうのは『機械の星』と呼ばれる惑星で、人類と機械が共に働いております。」
類はそう言って地図を折り畳んでカバンの中にしまった。
類が言う『機械の星』とはどういう星なのだろうか、未緒は期待を寄せながら窓の外を眺める。
重力発生装置が働いているとはいえ、銀河鉄道の中は宇宙空間に投げ出されているも同然だ。未緒にとっては二十日振りの地上、『機械の星』とはどのような星なのだろうか。ひょっとしたら未緒が探しているものがそこで見つかるかもしれない。
銀河鉄道はスピードを落としていった。もうすぐ次の目的地へ辿り着くのだろうか。車内が大きく揺れて、目の前の星に突っ込んでいった。




