記憶を思い出す為
未緒達も銀河鉄道に戻って行った。そして、未緒は椅子に座って『死者の鏡』を取り出して見る。
「この鏡、壊れてなかったんだ」
「ええ、しかし未緒さんが記憶を思い出さないと鏡とは話せないのだとか」
未緒は、改めて『死者の鏡』を眺めた。一見古びた鏡に見えたが、未緒が使えるようになってから少しずつ輝きを取り戻したような気がする。
しかし、未緒が再び鏡を使おうとしても、莉緒の姿は映らなかった。諦めた未緒はカバンに鏡をしまって、椅子に座った。すると、デネブがその横に座って話をする。
「本当はね、僕もこの『死者の鏡』欲しかったんだ」
「そうなの?」
「うん、死んだお父さんがどんな姿だったのかって気になっていてね。」
「そっか…」
デネブ達は、産まれる前に亡くなった父親の顔を知らない。『宇宙の虚』に侵食されて亡くなった事しかデネブ達は知らなかった。
だが、デネブはそれを悲しんだり、父親に会いたいとは思っていなかった。自分達が産まれて今生きているだけでいいと思っているからだ。
「でも、未緒ちゃんが必要ならそれでいいんだ。早くその鏡使えるようになるといいね」
「でも、私は記憶を思い出せるのかな…」
「記憶を思いだしても思い出さなくても、未緒ちゃんは未緒ちゃんだよ」
「デネブ君…」
未緒はそう呟いてデネブの方を見た。
そして、未緒はデネブにこんな事を聞いた。
「デネブ君も、『終着駅』に行くの?」
「うん、その為に銀河鉄道に乗ったから」
「故郷を離れて、寂しくないの?」
「寂しいけど、その方が僕達にとっていいと思ったからね」
「私にとっても、いいのかな…」
「あの子は、一体なんだったんだろう」
「僕達三人は兄弟、一緒に産まれたから三つ子。未緒ちゃんとその子が家族だったのなら、女の子の兄弟だから姉妹、一緒に産まれたなら双子かな。」
「姉妹…、あの子は姉妹だったのかな…。」
「もしかしたら、大切な友達だったのかもしれないけど…」
未緒は改めて莉緒の事を考えた。地上から離れる直前に話した事以外は何も覚えていない。未緒はそれを思い出そうとしているのだが、なかなか思い出せないのだ。誰と、何処で暮らしていたのか、記憶にある莉緒は何者なのか、未緒は未だに思い出せなかった。
デネブは、目の前に居るゼットに対してこう言った。
「ゼットさん、次は何処へ向かうのですか?」
ゼットは窓の外を見て呟いた。
「『宇宙の虚』の故郷だ。」
「『宇宙の虚』の?それってどういう…」
「行けば分かる」
ゼットは窓の向こうから見える『宇宙の虚』の故郷の星を見ていた。『宇宙の虚』の故郷とはどんな星なのだろう、そんな事を考えながら未緒は二つのぬいぐるみを抱えて眠った。
その日の事だった。未緒はまた夢を見ていた。幼い頃の出来事だろうか、今よりも背の低い未緒と莉緒が一緒に居る。それを見守っているのは、私と柚紀、柚紀はあのウサギのぬいぐるみを抱えていた。
「未緒、莉緒、渡したいものがあるの。」
柚紀は二人にそれぞれぬいぐるみを手渡した。二人は一緒に目を輝かせて喜んでいた。
「ありがとう、お母さん!」
未緒と莉緒は二人でぬいぐるみを見て笑っていた。
その日の未緒は、いつまでもこの夢が覚めなければいいのにと考えていた。地上に居た頃の楽しい出来事が、いつまでも終わらなければいいのにと。だが、それはあくまで夢だ。夢なら、いつか覚めてしまう。過去の意識の外で私は、ずっとそんな未緒の事を見守っていた。




