宇宙の旅
類は、隣に居た自分と同じ年くらいの少女に声を掛け、車両の奥の方へ歩いた。そして、少女はシャワー室で未緒の身体を洗い、新しい服を着せる。
その少女の名前は寺田萌香と言った。どうやら、類と同じように銀河鉄道に乗っていたらしい。
「出発したのって十日前よね?その間ずっと眠っていたの?」
「はい…、しかも地上に居た頃の記憶を失っているらしく、一言も話せません。」
類は動かない未緒を抱え上げた。
そして二人は未緒を連れて食堂車にやって来た。人は居なかったが、車両に積んでいる簡単な食事は出せるそうだった。未緒は数日振りの食事を食べる。保存食用のパンで、味気があるものとは到底思えなかったが、今はこれぐらいしか食料はない。類と萌香も同じようにパンを食べる。
その後、類は未緒に言葉と文字を教えた。まるで、未緒よりも小さな子供に教えるように、手取り足取り伝えた。私も同じ事をかつて未緒にした。懐かしかった。
未緒の勉強は十日程続いた。朧気な記憶を少しずつ思い出したのだろうか、未緒は人並みに話せるようになり、類と萌香の事も認識した。そして、自分が旅をしている理由を思い出した未緒は、二人にこう伝えた。
「自分の半身、もう一人の自分を探しているの、その為に銀河鉄道に乗ったんだと思う。」
そう伝える未緒だったが、未だ地上に居た頃の記憶を思い出せない。自分はどこで何をしていたのか。家族は居たのか、地球に居た他の人はどうなったのか、全く分からないのだ。
未緒はそれを不安に思っていたが、類はちっとも気にしていないようだった。類は、これから向かおうとしている理想郷とも呼ばれる『終着駅』に期待を寄せている。そこに向かう間に、いくつもの惑星に途中停車するようだ。
「『オールトの雲』からは抜け出したようですね。この銀河鉄道は見た目こそ古ぼけていますが、ワープ装置と重力発生装置を積んでいます。」
「私達が行こうとする場所は太陽系、いや、銀河系の外側にあるんだ。楽しみだな…」
車両が大きく揺れた。どうやら、ワープ装置を使ったらしい。この銀河鉄道は誰か運転しているのだろうか、時々車内が大きく揺れる。
「次の惑星はどんな惑星なのでしょうか」
類は地球がどうなったというよりも、この列車が向かう『終着駅』についてずっと考えていた。




