幸か不幸か…
リディ5歳になりました。
リディがこの家で産声を上げ、最低限の人間として育てられて
早5年…リディ以外の家族にとっては【待ちに待ったこの日】が遂にやってきた。
リディが5歳の誕生日を迎えてすぐ、リディは記憶にないくらい久しぶりに
母親に抱かれ、父親に先導されながら住み慣れた家を後にした。
リディにとって久しぶりの母親の腕の中は何故か居心地が良いとは感じられず、
何か胸騒ぎに似た心の違和感を幼いながらに感じていた。
『お母さん・・・どこにいくの?』
リディは重い口を開け、俯きながら母親に問う。
母親もまたリディを見ることなく前にいる父親の背中を追いながら、
『これからあんたが生活するところだよ』と冷たげに答えた。
リディはこれから自分が売られるとはさすがに知らず、
生活することろとは何だろうか?
家族と新しい家で暮らすのか?
学校に行っている3兄弟は朝普通に家を出たけど、新しい家に戻ってくるのか?
と小さな頭の中は【?】で埋め尽くされた。
これからどうなるのかを考えているうちふと周りを見渡せば、
先ほどの獣道にも近い林道に反して人で溢れる港町へと変わっていた。
生まれて初めて見る、家族以外の人間、犬や馬といった動物、
何より一番目を惹いたのはリディの視界から溢れるくらい大きな船であった。
リディは絵本こそ読んでもらったこともなければ、
与えられることもなかったが3兄弟がよく絵を描いたり、
学校の宿題といって絵のついた本を持ってきていたので、
「船」というものを知っていた。
今までリディの頭の中にあるだけだった「船」が現実として目の前にあることに
久しぶりに興奮・歓喜という感情が揺さぶられた気がしていた。
目を輝かせながら更に街を見渡し、傍からみたら可愛らしい少女が母親に抱かれ、
キョロキョロとあたりをみているだけの幸せな光景。
ただ、そんな光景も領事館に到着するまでのほんの一瞬でしかなかった。
『さ、着いたよ…降りな!』と母親から離され、直ぐに手を引かれリディは
活気ある街並みには似つかわしくない重厚な創りをした建物の中へと引き込まれた。
―『あの、生活保護申請解除の手続きをしにきたのですが…』
いつも威厳のある父親がやけに縮こまり、カウンター奥の女性に声をかけた。
『いらっしゃいませ!…申請解除ですね。かしこまりました。それでは、以前お渡ししている書類の提出とお子様をお連れいただけますか?』
ニコリを笑いながら女性は父親へそう伝えた。
ちなみに申請解除ともっともらしい言い方をしているが、
それは表向きの表現であってつまりは人を売りに来ました。と言っているようなものだ。
父親は後ろを振り返り『おいっ!』と母親に声をかけながら胸ポケットに入っている、
時間が経ち折り目がしっかりと入ってしまった古びた紙を女性に差し出した。
それと同時に母親に手を引かれ連れてこられたリディもまた、彼女の視界に入る位置へ来た。
用紙に目を通しながらチラチラとリディを確認する女性。
何か別の紙にも時々記載をしている…。
書類の確認が終わると、カウンターから出てきてリディに『こんにちは。少し、体を診させてね』とニコリと笑いながら頭、首裏、腕、お腹周り、足など、入念に手と目で何かを確認した。
そして確認が終わるとゆっくりと立ち上がりながら、
先ほどのにこやから表情から険しい表情へと変わり両親を見た―…
多少誤字と追加説明文を加えました(/_;)