生まれたときから
幼少期 続きます
リディが産まれてから3度目の春。
3歳になったリディは年の離れた兄弟の中で育ったためか、
普通よりも早く言葉と覚えていた。
『お母さん、これ!』と小さな体をすっぽりと覆う洗濯物を担ぎ、リディは家の中へと入ってくる。
『洗濯を畳んだら裏に行って水を汲んできなよ!!』
リディの顔を見ることなく、母親は棘のある言い方でリディに命じる。
いつからだろう?リディは産まれて2歳くらいまでは両親から最低限かわいがられ、
兄弟からも面倒を見てもらえていた。
しかし、人間というのは変わっていくもので、大金を手にしたはじめこそ感謝をするものの、一定日数が経つとそれが当たり前になってします。
次第に散財をするようになり、リディを健康に育てるためという名目でもらっている、特別手当ですら自分たち夫婦のため、3兄弟のために消えていった。
リディがしゃべるようになってからはどうせ売る子なんだからと最低限の食事だけ与えられ、
可愛がるどころか、できることはすべてやらせるようになった。
2歳そこそこましてやこれまで可愛がられてきたリディが家族の急な変化に対応できるはずもなく、はじめは泣いて甘えついては両親からぶたれ兄弟にも足蹴にされ引き離されていた。
家族は体に傷が残らない程度にでもリディからしたら激痛を帯びる仕打ちを与えた。
ぶたれ、足蹴にされることが怖くなったリディは、
次第に甘えることをやめ、ただただ言われたことだけをする。
何も言われないときは黙って家に隅にいるようになった。
幼いながらにこうしていれば両親や兄弟はぶってくることも怒鳴ることも蹴られることもないと悟ったからである。
3歳になったリディは掃除、洗濯、水汲みと小さい身体を何度も往復させながら行い、
怒られることはあっても、褒められることのない、毎日を送っていた。
日中は小さいながらも自制心が働き泣くことはなかったが、
最近までは夜中癇癪を起すことが度々あり、その度に母親に叩き起こされて外に出されていた。
家の密集していないこの部落の外は真っ暗で天気のいい日こと夜空が照らしてくれていたが、
雲のかかる日は一寸先は闇状態であった。
怖くてたまらない、でも泣けばまた叱られる。
小さい身体をさらに小さくし、リディが外で夜明けを迎えることは度々だった。
家の中でガタガタっと起床を知らせる音なるとリディはゆっくりと戸を開け、
『ごめんなさい』とつぶやき家へと入る。
そんなリディを家族はちらっと見るだけで、
何も言わない。
リディを除けば夫婦、兄弟、家族5人はとても仲が良く会話も多い。
まるでリディだけいないかのように家族は食事をし会話し、生活をする。
『かーさん、そういえば、明日学校で絵具を使うんだけど、青色がもうないから帰りに買ってきたいんだ…』
3兄弟はリディが産まれてから入ってくる給付金のおかげで、その年から学校へ通うようになった。
隣町になる学校は周辺の部落の子供が集まってくるところではあるが、
ある一定の収入がなければ通えない。
これまで3兄弟は学校へ通わせてもらえる程の収入が父親になかったため、
家の手伝いをしていたが、生活保護が入ってからは、学校へ通えるようになっていた。
『絵具ね、、わかったは、そしたら200J渡すからこれで帰りに買ってきなさい。』
母親は優しく長男に微笑みながらお金を渡した。
両親は3兄弟のためなら何でもする。
長男が絵具がほしいといえば絵具代より少し多いだけの金額を渡し、
次男が少しでも体調が悪いといえば医者に連れていき、
三男が一緒に寝たいと言えば両親の間で寝かせた。
リディがそんなことをすればすべてを無視されるか罵倒されるだけだ。
そこまでにこの数年…いや1年足らずでこの家族は変わってしまったのである。
これから売られる人間にお金をかけても仕方がない。
今ここにいさせるのはお金のため。
両親、兄弟どちらもがリディをそう視ていた。