こぼれ落ちた本音
「Gプロの社員! ほほ~」
再びの進路指導室で、机に肘をついた向井が感心したように声を上げた。
「さすが一流どころ。タレントじゃなくて、マネージャーとしてスカウトとは目の付け所が違うぜ。確かにあの〈タクミ〉を世話してきたおまえなら、誰を担当させたって動じなさそうだ」
感心する向井を僕は待ての仕草で止めた。
「他人事だと思ってテキトーなこと言わないでください。こっちは最後までヒヤヒヤだったんです」
「他人事のわけがないだろう。大事な飯の種の生徒様に対して。けどなんでヒヤヒヤ? その社長さんが言った『才能の両立』ってやつは、まさしく俺の示した『急がば回れ』論の実施版じゃないか。しかも最悪、こっちからタクミやマースに切り出さにゃならなかった進路の選択まで言及してくれたんだろ?」
「だからです。進路の変更については夏まで引き伸ばすつもりだったので、まだ前振りすらしていませんでした。いきなり言われて危なかったんです……」
話を終え、「では、よく見当してくれ」と席を立った後藤社長と沖田さんを複雑な気持ちで見送っていると、ドアの手前のところで社長がこちらを振り返って付け足しのように言った。
「因みに大学進学の予定なら学部は経済あたりがお勧めだよ。まあ、どの学部でもうちの基本姿勢はかわらないがね」
文系なら、今の業務ペースに亜美君の仕事を入れても十分やっていけるんだがなぁ、と沖田さんに語りかけながら社長が姿を消したあとには、なんともいえない危険な空気が僕の右横あたりから漂った。
「………」
なんで最後に爆弾落としていくんだ……。
そちら側を見る勇気もなく途方に暮れていると、真嶋さんの声が場の空気を和らげた。
「なんだか疲れたね。もう遅いから、今夜は部屋に引き取ろうか」
手招きとともに「和巳、おいで」と声をかけられ、僕はホッとして椅子から腰を浮かした。綾瀬伯母の心遣いで、この面々が呼ばれたときは大抵、ホテルに部屋が取ってある。しかもここ一年は僕と俊くんがツイン、拓巳くんと真嶋さんと祐さんがトリプルの部屋割りが多かったのが、今夜は拓巳くんの『久しぶりだから』という主張で僕と祐さんが入れ替わっていた。
「そうだな」と祐さんや拓巳くんが椅子から立ち上がると、少し遅れて席を立った俊くんがテーブルの斜め向かいに呼びかけた。
「祐司。悪いが和巳と話がしたい。部屋割りをいつものようにしてもらっていいか」
それは祐さんに僕と入れ替わってほしいということだ。
きっと進路について問いただしてくる。特に、絵で身を立てるつもりはないと言い切ったことを……。
うまく答えられるのか心許なく思いながら、自分の座っていた椅子をテーブルへと押し込んでいると、祐さんが歩み寄る俊くんを見下ろすようにして答えた。
「話がしたいなら明日の夜にしろ。今夜はやめておけ」
「なんで……」
「おまえが和巳と冷静に話ができるのかを危ぶんでいるからだ。いくら和巳の懐が深くても、今夜は色々ありすぎておまえの感情まで受け止め切れんぞ」
「………」
「大事な話なら、後悔したくはないだろう?」
さぁ、行くぞ、と促され、俊くんは僕を振り向いた。そして何か言いかけてから、思い直したように「じゃあ、おやすみ」とだけ言った。僕は精一杯の労いを込めて「おやすみなさい」と返し、会議室から去る彼を見送ったのだった。
「祐司さんがいてくれたから昨夜はそれで済みましたけど、今夜は目黒に戻るのでそうはいきません。雅俊さんとどう向き合えばいいのか……」
それを考えていてどうにも煮詰まった挙げ句、昼休みの向井に泣きを入れ、なんとか放課後に相談の時間を取り付けたのが、この臨時進路指導の正体だ。
「簡単に誤魔化せる相手じゃないんです」
ハーッとため息を吐くと、向井は「心配するなよ」と笑った。
「策はある。マースに付き人の件は気が進まないと言えばいい」
「そんなことを言って、もし雅俊さんが社長に直訴したらどうするんですか」
それで揉めたりしたらと身震いしていると、向井は頬杖を解いた。
「じゃあ聞くがな。もしおまえに関係なく柳沢亜美が移籍してきたとしたら、おまえは付き人に立候補するか?」
「それはありません」
「ホントか? 今をときめくアイドル、しかも歌の才能は本物だぞ?」
「知ったように言いますね。まさか先生もファンですか?」
「バカ言うな。俺の趣味じゃない。バンドの関係で所属事務所のことを多少、知ってるだけだ」
向井は鼻で笑った。
「ま、ようするにおまえの心は定まってるだろ。だから問題はそれをどう伝えるかなんだよ」
そして左手の指先で机をトンッと叩いた。
「いいか。おまえの話を聞いた限りでは、マースが気にしてるポイントはひとつ、おまえが弟子でなくなることだ」
「僕が弟子でなくなる?」
「そうだ。それを恐れている節さえある。自宅に寝泊まりさせ、私生活の世話も許す内弟子というのは、ある意味、身内を凌ぐ存在だというから、繋がりを絶たれるのが怖いんだろう」
よほど気に入られてるんだな、とつぶやかれ、火照りそうになるのをグッとこらえる。
「実の父親の付き人でいるのが気に食わないのも、他のタレントなんて論外なのも根っこはそこにある」
だからな、と向井は指をこちらに向けた。
「ようはおまえから『絵を休んでいても、父親の付き人に精を出していても、他のタレントの手伝いをしていても、あなたの弟子であることはやめません』という決意が伝わればいいんだ」
もちろん僕だってそのつもりだ。けど。
「今の段階で『僕も他の人の手伝いは乗り気じゃないです』なんて伝えたって、移籍にあんな条件があるんじゃ断れるかどうかわかりません。そんなあやふやな立場でそれを伝える意味があるんですか」
断りきれなかったら余計、波風が立ってしまうんじゃないのか。
しかし向井は「違うな」と指先を左右に振った。
「おまえの気持ちが伝われば、マースの心にゆとりができるだろうが。(弟子を失うことにはならないんだ)って」
いわば恋人同士と同じパターンだ、と言われて心臓が跳ねるのを必死に押さえる。
「おまえが離れてしまうんじゃないかと不安だから反対するのであって、どこに出しても帰ってくるとわかれば、案外、寛大に承知してくれるもんだ。そのくらいの度量はマースにあると思うぜ?」
不安だから反対すると言われ、ふと確認する。
「今の僕の態度では心許なくて、雅俊さんが不安がっていると」
「そりゃあ……」
向井は少し上体を引き、指先で鼻の頭を掻いた。
「相手は直感勝負の芸術家だ。いくら描けないことを隠していたって、おまえの様子がどこか普段と違うことくらいは察しているさ。それが仕事の増加に対する過剰反応に繋がってるんだろうし」
「………」
「おっと、そこで落ち込むなよ。それは間違いだぞ?」
僕の顔を見た向井は、鼻から外した指を再び左右に振った。
「おまえが今、それを隠しているのは彼のために必要な措置なんだ。だからこそ他で挽回するんだよ。『自分は柳沢亜美なんかに時間取られたくありません。師匠の作品に触れてるときが一番幸せでーす』ってさ」
実際、そうだろ? と聞かれて素直に頷く。
アトリエで俊くんと彼の作品に囲まれている時間は本当に幸せだった。前の自分に戻れるのなら、今すぐに飛んでいってあの世界に浸りたい。作業する姿を時々眺めながら製作を手伝って……。
「泣くなよ」
「泣いてません」
目に力を入れて机を睨んでいると、向井は背もたれに体を引いた。
「とにかくだ。体が動かないなら心を伝える。手足を失っても人間には言葉があるんだ。大いに活用するべきだぜ」
彼は再び机に肘をつくと、僕の頭をポンポン叩き、僕が顔を上げるまで待っていてくれた。
だからといって、本当にこれでよかったのだろうか。
その夜、先にマンションに着いた僕が夕食の用意(といっても作り置きしたものを温めただけだ)をしながら心を落ち着かせていると、足音も乱れた様子の俊くんが、リビングのドアをズバッと開けて現れた。
「和巳!」
「俊く……うわっ!」
テーブルにお皿を置いて振り返った途端、体当たりのように抱きつかれ、さらには横にあるソファーへなだれ込むように背中から沈められて息が詰まる。
お、お皿を置いたあとでよかった……。
そう思った次の瞬間、左右の頬がグイッと両手に挟まれ、頭ごとソファーの上に押さえつけられた。
「いつからGプロに入社なんて! おれに黙って!」
いきなりの曲解に思考がフリーズしそうになりながらもどうにか答える。
「待って俊くん! そんなわけないでしょ!」
必死でもがくも押さえつけてくる力が半端ない。
「じゃあ、あの話はなんだ! おまえを指名して移籍って! しかも拓巳のヤツが連れてきたって……!」
頬を挟む指先の爪が立てられ、僕は両腕を掴んで抵抗した。
「仕事先で偶然、一人でいるのを見つけたから、拓巳くんがパーティーで見せびらかそうとしたんだよ! もともとは俊くんの作戦でしょっ!」
指の力が少し緩む。僕はすかさず言葉を連ねた。
「僕が止めて綾瀬さんに預けたあと、マネージャーさんに迎えに来てもらったんだよ。まさか社長と内々であんな話をしていたなんて知らなかったからっ」
俊くんは据わった目で顔を近づけた。
「知らなかった?」
「あたりまえだよ。だいたい拓巳くんや俊くん以外の人の付き人をやりたいなんて思ったこと、僕は一度もないからね!」
『俊くん』のところを強調すると、彼の手からフッと力が抜けた。
「そっか。そうだよな、いくら柳沢亜美が可愛くたって、和巳が浮気なんて……」
いやそれ、浮気じゃないから。
なんだか言動がおかしいぞと思っていると、俊くんはハッとして再び顔を上げた。
「じゃ、進路の話はどうなんだ。おまえにはもう、おれはいらないのか」
「い、いらないって……」
のしかかるように問いただされて言葉を途切らせると、こちらを凝視する彼の目が歪んだ。
「……ああ、違う。こんな言い方じゃダメだ。和巳はおれを嫌いなわけじゃなくて……」
「嫌い?!」
思いもよらぬセリフをこぼされて小作りな顔を見返す。よく見ると、目元がほんわり朱に染まっていた。
……こ、これはまさか。
「俊くん。飲んだ?」
そこはかとなくお酒の匂いもするような。
聞こえているのかいないのか、彼は再び僕を見据えると、片手を頬から襟元に下ろしてシャツのボタンをまさぐった。
「おれの絵を嫌いになったんであって、おれを嫌いなんじゃないよな?」
「絵を嫌い?!」
この支離滅裂っぷりは一体。
僕はするりとボタンを外して忍び込んできた手のひらごと彼を腕の中に抱き込むと、勢いをつけて起き上がった。
「何を言ってるんだ、あなたはっ!」
そしてシャツ越しの体温が少し高いのを感じ取り、引き剥がす真似をしてヒシッとしがみついてきたのを確認したところで状況を把握した。
これはもう間違いない。かなり飲んでいる。
俊くんはお酒(特にテキーラ)が好きだが、けして強くはない。
「じゃ、今日の話し合いはなし……?」
認識した途端、全身から力が抜け、僕は自分がかなり緊張していたことに気がついた。
ひとつ深呼吸し、改めて細い体を抱き直す。引き剥がされるのではないとわかるのか、今度はされるがままだった。
背もたれの隅に背中を当ててソファーの上に足を伸ばし、こちらに預けてくる体温を感じ取りながら背中をなで、頭をなでる。こんな風にリラックスして触れ合えるのは久しぶりな気がして、僕は深く息を吐いた。
まさか。だから飲んできたとか……?
緊張を読み取られていたのだろうか。
いやでも今日は事務所で一回挨拶を交わしただけだったし、と胸に伏せたままの頭を見下ろすと、いつの間にかソファーに落ちたらしい彼の黒いマートフォンがすぐそばで鳴っていた。見ると、相手は祐さんだ。
ひとまず片腕を伸ばしてスマホを取り上げ、通話に切り替える。
「あの、祐さん」
『和巳か』
あらかじめ僕が出ると予想していたようだ。
「ごめんなさい、俊くん今」
『ああ、見ればわかるだろうが、ちょっと二人で引っかけてきた。悪いが介抱してやってくれ』
「祐さんと……」
彼は底のない桶との異名を持つ酒豪である。
まだ仕事が終わってから一時間も経ってないはずなのに、どんだけ飲んだんだと戦慄していると、祐さんが付け足すように言った。
『雅俊は酔ったときに結構な本音が出る。よかったら色々聞いてみてくれ』
じゃ、よろしくなと通話は切れ、僕はこの状況の理由を悟った。
きっと祐さんが僕たちを心配して判断した結果なんだ。
誘われた俊くんにも思うところがあったのかもしれない。いずれにせよ、僕のために彼は飲んだのだ。
その成果があの『おまえにはもう、おれはいらないのか』であり『絵を嫌いになったんであっておれを嫌いになったんじゃないよな』に違いない。
そうか。これはこの人の心に溜まっていたものだ。向井先生が言っていた『恐れ』の正体なんだ。
いつの何を見てそんな勘違いをしてしまったのか見当はつかないが、僕がそう思わせたことは間違いない。
やっぱり本当のことを隠してるのがよくないんだろうな。
(手足を失っても、人間には言葉があるんだ)
伝えないと。せめて気持ちだけは。
「そんなこと思うわけないよ。今日だって、アトリエでの二人の時間が恋しくて、みっともなく泣いちゃったくらいなのに……」
本音をつぶやくと、胸に伏せていた巻き毛の頭がモソリと動いて少し横を向いた。
「泣いたって、いつ」
「今日。放課後に、アトリエで俊くんと描いてたときを思い出して」
なんのてらいもなく彼の作品に触れ、手伝い、隣り合って描いていた頃を。
「……なんで」
それは、今は言えない。
返事をためらうと、俊くんはサッとまた顔を伏せた。
「わかってる。無理しなくていいんだ。人は、人の好みは変わる。わかってるから……」
あっ。
その瞬間、答えが閃いた。
僕の態度から何か嘘をついてると感じて、自分で推測したんだ。本当はもう彼の描く作品に興味がなくなって、描くことへの情熱も失せてしまったのに、そのことを申し訳なく思って隠しているのだと。
僕が、彼の作品を。なんでそんな風に?
その疑問は、しかし次のつぶやきですぐに明かされた。
「アトリエにだって、無理して行くことはないんだ……」
そうか――。
アトリエに行く頻度を気にしていたのだ。ここ数ヵ月、忙しいのを言い訳にして、あまり足を運ばなかったから。
「誤解だよ。僕が俊……雅俊さんの作品を嫌う日なんて、天地がひっくり返ったって来ないよ」
背中をなでながら名前を呼ぶと、俊くんはグッと頭を持ち上げた。
「じゃあなんで、リビング置いてあったおれの作品を全部倉庫にしまったんだ。残したのは小夜子のばっかりで、俺のは三つしかない!」
「………」
そこ……?
僕は俊くんを抱いたまま、片手で額を押さえた。
作品を倉庫に移動した理由。それは額装のない木製パネルのせいだ。
最後に二人で行ったとき、作業スペースにはたくさんの木製パネルが、そしてリビングスペースには複数の作品が額装のない状態で床に直置きされていた。画家のアトリエにはよくある光景だ。しかしもちろん今の僕には厳しい光景で、徐々に震えと吐き気が襲ってきた。目を逸らすことでその日はなんとか凌ぎ、後日、管理の名目で地下倉庫にしまったのだ。
もちろん俊くんには承諾を得、移動はギャラリー柏原のスタッフの手を借りた。けれど木製パネルのすべてをしまうことは伝えていなかった。だからあのリビングを見て、そこに疑問を持たれるかもしれないとは覚悟したが、まさか今は亡き俊くんの師匠、小夜子さんの作品の数と比べるとは……。
「あのね雅俊さん。それはまったくの誤解です。ちゃんと額装された作品が三つしかなかっただけで、小夜子さんのはもともと額装つきであちこちに飾ってあった、それだけです。それに小夜子さんのは小さな作品が多いから、インパクトは俊くんの絵のほうが強いよ」
三部作『花』。あれは僕への想いを描いてくれた作品だ。華やかな彫刻が施された額装を解かずに壁に取り付けてくれたお陰で、今までどおりに見られる貴重なものなのだ。
「だったら……なにもおれのものをあんなにしまわなくても……」
なかなか信じようとしない俊くんを、僕は粘り腰で説明した。
ここが正念場。どうにか納得してもらなくては。
「何を言ってるの。描いたご本人様は気にならないんだろうけど、パネルのままの重ね置きや床への直置きなんて、専門家に言わせればとんでもない扱いなんだよ」
これは〈ギャラリー・柏原〉のスタッフからお小言として言われた事実である。
「本来はちゃんと手入れして、布袋にしまって保管するべきものなんだ。主の留守を任されたんだから、ちゃんと管理しないと柏原社長に刺されちゃうよ」
「本当に? 見る気がなくなったわけじゃなくて?」
「そんなこと、未来永劫ありえない」
「でも、じゃあなんで……」
どんなに考えても、他に和巳がアトリエに行かない理由なんて考えつかなかったとつぶやかれ、胸の奥が痛んだ。
でも今はだめだ。作品が嫌われたと思っただけでこれなのに、本当の理由を知ったらどれだけ自分を責めるだろう。
僕はまだ少し熱を持った体を胸に抱きしめ直した。
「ごめん。確かに僕はアトリエにはあんまり行けてない。でもそれはあなたの作品が嫌いになったとか興味が失せたとかじゃないんだ」
俊くんが頭をもたげる。僕は滑らかな頬に手を添えた。
「あなたのいないアトリエは寂しくて、一人だと落ち着かないんだよ」
それも事実。第一の理由は言えないけれど、これは嘘じゃない。
「大切な空間だから、一人のときに万が一のことがあったら怖いし。だからあそこを使わないのは僕の我が儘」
笑いを交えて言うと、しばらく僕の顔をじっと見た俊くんは、再びパフッと胸に顔を伏せ、全身から力を抜いた。
「……誤解ならいいんだ。最近、なんだかおまえがおれの目を見なかったり、アトリエを避けてるような気がしたから……」
動揺しそうになるのを必死に押さえる。
「僕がいけないんだ。せっかくの申し出を、こんな情けない理由で使う気になれないなんて言ったら、きっと嫌われちゃうと思って黙ってたから」
ごめんね、と伝えると彼は顔を寄せてきた。
「おれがおまえを嫌うことも、未来永劫、ない」
そして僕の頭を持ち上げ、唇を重ねた。
「――、……」
いつもより熱い感触が背筋を甘く痺れさせる。けれど、それはどこか苦味も含んでいる気がしてならなかった。