年下な兄貴
「ってのが俺と力斗が始めてあったとき」
「…へ〜。なんてゆうか…え?ちょっと待てよ」
ただいま、昼食中。
屋上に居るんだが、もう11月だ。少し肌寒い。
今は俺の兄弟力斗との出会いについて友達に説明している。
「なんで兄弟なのに出会ったのが7歳のときなんだよ!?」
「え〜?生命の神秘?」
「面倒だからって説明端折るな……!てかまずお前孤児院に友達でも居たのかよ!?『同じ孤児院の子供の声でも無い』とか考えてたんだろ、何それ!?」
あ〜。今日は静かな友人のキャラが壊れる日みたいだ。これはこれで面白いけど。
「だ〜か〜ら〜!落ち着けって」
ったく。こいつが、「なぁ、前から思ってたんだけど…力斗はが前のこと弟としてみるのはなんでだ?」って、聞くから律儀に説明してるのに。
「つまり、『同じ孤児院の子供の声でも無い』っていうのは俺が孤児院の出だからだ。お前知らなかったっけ?」
「……」
知るかんなモン。っていう目で見られても困るんですけど。
「まぁいいや。で、俺は7歳のときちょうどおれを引き取りたいって行ってくれる人が見つかって。…母さんの親友だったんだと。で、俺はの名前は『三科 氷澄』から『本城 氷澄』に変わったってこと」
「そんなさらっと話すけどよ、結構シビアな話だぞ。お前何?実はそんな優しそうな顔して薄情なのか?」
まぁね。と答えて笑っておく。そりゃ7年前の話だ、もう吹っ切れていておかしくはない。
てか、いまさら悲しめとか言われても困る。薄情とか言われても困るもんは困るんだ。
「で、なんで力斗が俺を弟としてみてるかっていうと、
本人曰く、『この家に最初から居たのは僕。この家にいた時間は僕の方が長いの。だから僕の方があにきなんだからね!君はおとうとだから。』何だってさ。多分あいつ弟がほしかったんだろうなぁ。」
「………そいつの頭の中解剖してみたいな、意味分からないぞ…」
「あぁ。つまりな、道場とかでも後から入ったやつは歳がいくら上でも『弟弟子』だ。んで先に入ってたやつは10歳くらい年下でも『兄弟子』になるってことだ。」
「お前の頭の中も解剖させろ!なんで理解できるんだ!?」
「……兄弟だから」
俺は少し考える間をおいた後、楽しそうな笑みを浮かべた。
「ひ〜ず〜みぃ〜!!」
放課後の帰り道、すっかり暗くなってしまった空を眺めていたら後ろから元気な声がかかった。
俺は振り向く。笑う。
「力斗」
そこには、力斗が居た。
大きく手を振って。
街灯の下だからか、暗闇の中やけにあいつだけくっきりとしていて。
楽しそうに笑って。
「む、いつになったら兄貴って呼ぶのさ」
すこしむくれる所がやけに弟っぽくてなんか笑えた。
自分では兄貴って言ってるくせにまるで子供っぽいんだからな、こいつ。
「お前が俺の身長抜かしたら言ってあげるよ」
1.5頭身ぐらい下にある俺の兄貴の頭をワシャワシャとなでた。
「この!いつか二倍くらい大きくなって握りつぶしてやるから!んでおんぶでも肩車でも何でもしてやる!」
「…力斗君?俺は5歳の子供には戻れないよ?」
◆ ◆ ◆
少し肌寒くなってきた。
やっといくらかの動物が眠りに入って静かになってきた。
うちでは父さんがそれにあたる。別にワンシーズンずっとは眠ってないけど、せめて半月ぐらい?いや、仕事どうするんだって話だね。
家にもやっとコタツとストーブが活用されてきて、母さんが電気代の心配をし始めるころだ。うちの母さんは節約が生きがいなのかってほどそのところには五月蠅いからまったく、こっちの身にもなってよね。
僕は手の平で包んでいるカップを見つめる。中ではココアが黒い水面に波紋を描いている。さっき氷澄が入れてくれた。…僕としてはもうちょっと(いや、かなり)砂糖が入ってた方が好みなんでけどなぁ、まぁそこら辺は兄貴として我慢してやろう。ってそこ、お前年下だろって思ったやつはブラックホールにでも飲まれてしまえ!
そういえばもうすぐドッキリ…じゃなくて氷澄の誕生日だっけ。
(今年はなにしよ〜かな?)
僕は楽しそうな笑みを浮かべる。というよりいたずらっ子の笑み?何だよ僕だってそのくらいは自覚あるんだぞ!
そういえば…
「とーさん」
僕は眠そうにしている冬眠途中のクマ…じゃなくて父・俊太郎を呼び止める。
「ん〜?どうした力斗。またテレビの分解でもやるのか?」
「やだよ。あの後もんのすっごい大変だったんだから。父さん忘れたの?」
あのときは、後で母さんにものすごい怒られて……思い出したくない。まぁ若気の至りやつ?
「あ〜。鬼が光臨したっけな。でも禁止されるとやりたくなるのが俺の性だぜ」
「てか父さんまだ懲りてなかったんだね。困った父親だ。やれやれ」
「おめぇが言うなおめぇが。よろしく俺の血をちゃんと引きやがっていたずらに育ってくれちゃって」
そう言って俊太郎はタバコをふかす。
「で、本題だけどさぁ。
氷澄の両親の顔ってどんなのだっけ?写真ないの?」
「………迷信を信じる阿保なやつらだったからなぁ」
「へ?迷信?」
ん?あれ?なんでそこでそんな言葉が出できちゃうんですかマイファザー?
「『たましー抜かれちゃう〜』だっていって騒いでたわよねぇ」
そこで台所から我が家の元締めならず母・春日会話に乱入。
「…明治の人だったんだね」
「んなわけあるか」
だって、この平成の時代に『写真で魂抜かれる』なんて信じている阿呆はいないだろう。おそらく…写真写りが悪いのを面白おかしく冗談で誤魔化したのではないのだろうか?む、なんか僕探偵っぽいね。僕が探偵になったら難事件をズバズバ解決して金田一君より優れた名探偵に…
「力斗〜!ちょっと来てくれ」
あ、氷澄がよんでる。
「ココア飲んでから行く」
「…はいはい」
もちろんココアが最優先だけどね。
◆ ◆ ◆
か〜ごめ、か〜ごめ
が〜ごのな〜かのと〜りは〜
あるときのある公園の中央で、子供たちが遊んでいた。
公園の中でおれは、篭目遊びをしている子供たちとその周りを囲んで微笑ましげに見ている親たちを一歩下がったとことろで無感動に眺めていた。
い〜つ、い〜つ、で〜や〜る
よ〜あ〜け〜のば〜んに
ぽんっ…ぽんっ…とおれがリフティングしていたサッカーボールが、自然と篭目のメロディに合って、重なって。
つ〜るとか〜めがす〜べった
『うしろのしょ〜めんだ〜ぁれ?』
後ろから、前で遊んでる子供たちの歌に被るように唐突に聞こえた【篭目】の唄に、おれはびっくっとしてサッカーボールを落としてしまった。
テン……コロコロコロ ボールの転がる音。唄のリズムと狂ってしまったボールの声。
ギィ、ギィ、 いつの間にか動いていたブランコの錆付いてきしむ音。【篭目】を唄った人を乗せている乗り物の声。
振り返ろうとした。
でも出来なかった。
「あ!鬼は後ろ向いちゃいけないんだよ!ほんとぉは目も開けちゃいけないんだから!」
子供っぽい怒った声。
「あ、…え、うん」
それにおれはしどろもどろに為りながら答える。そして必死に考えた。
この声の主は誰なのだろう?何をやりたいのだろう?
雰囲気的にはおれより年下。でも、この声ははじめて聞いた。学校の子でも、同じ孤児院の子供の声でも無い。
「もー1回ゆーよ?『うしろのしょ〜めんだ〜あれ?』」
後ろのやつが鬱陶しくなってなんとなく直感に任せて適当に言ってみた。
そんなはずはないと思いつつ、そうだったら笑えるなと思いつつ。
そうだったら良かったなと思いつつ。
「……おれの親」
ボソッと、聞こえるか聞こえないかの声で。
「あぁ〜〜!!おっしい!」
へ?予想外の答えにおれは驚いて、とっさに【篭目】のルールを破った。
後ろを向いてしまったのだ。
そいつはぴょンっと、ブランコから飛び降りて仁王立ちしなから言った。
「正解は……おまえの、あにき!」
天真爛漫なほど傲慢な声で。
「は?」
そいつはどう見たっておれより2歳は年下で、背だって10センチは低いのに?
(こいつがおれの兄貴って……!?)
―――そんなちょっとヘンな出会いから始まった力斗との関係は、やっぱりちょっと以上、ヘンで面白かった。
読んでくださった方々ありがとうございます!
初めて載せた小説なのでまだまだ未熟な所があるのですが、温かい目で見てやってください!(笑
これからの小説作りの参考にするので感想・評価を書いてくれるとうれしいです。