表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鼠の馭者(三十と一夜の短篇第26回)

作者: 錫 蒔隆

なんとも、むごいことをなさる。

この声も、ちゅうちゅうという鳴き声でしかない。

魔法つかいさま、あなたにとってはほんの気まぐれ。

たまたまえらばれた、私たちと南瓜であったのだろう。

せめて六匹の仲間のように、馬に変えられただけであれば。

私だけがたまたま馬車の馭者に仕たてられ、人の心を知った。


恋を知った。

おお、麗しき灰かむりの君。

あなたの気まぐれな魔法は解ける。

夜の十二時、私たちはもとの姿にもどった。

仲間六匹と南瓜はぼりぼりと、食物連鎖の相関をなした。

私だけがぶざまに泣きわめき、あなたの気まぐれを憎んだのだ。


ちゅうちゅうと鳴くだけ。

人にしてくれとも言えない。

あなたは私のことを忘れている。

鼠は鼠らしく生きていくしかない。

これから私は、眠るあなたの足首に噛みつく。

ただ噛みつくだけ、鼠に人が喰えるはずもない。

不浄のこの口中には、あまたの黴菌ばいきんを培養している。

この黴菌をあなたの傷口から、あなたに分けあたえる。

気まぐれなあなたは、鼠の心など知りようもないだろう。

だからせめて、この不浄をあなたと分かちあいたいだけだ。

私たちの位置にまで、あなたたちの価値を落としてくれよう。


あなただけでなく、灰かむりの君にも。

王候貴族にも、市井の人々にもかじりつく。

噛みついて噛みついて是が非でも、この不浄をひろめたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  たまたま見付けた鼠を馬やら馭者に変えてしまうのですから、魔法使い(仙女)には小娘を貴婦人に仕立ててやるのと同じなのでしょう。鼠たちと小娘のその後があまりに違い過ぎ、ああ、そうだったわと、…
[一言] ぺ、ペスト……!( ; ゜д゜)ヒエー いえ、調べたら噛む経由は「鼠咬病」と出てきました。読めなかったので「ねずみかむ病」と勝手に命名します。怖いです。 ああ、ネズミが主人公なんですね。…
[一言] うわあ! 好きです。 鼠にまで思いを馳せる事は考えつきませんでした。 もの凄く残酷です。「アルジャーノンに花束を」を連想させました。残酷な結果に対する鼠の導きだした答えが良かったです。みじ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ