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第3章 エールニルという男

「起きてください」


目を開けるとシイルが俺の顔を覗き込んでいた。

彼女の銀色の髪に太陽が当たってキラキラしている。

物語から出てきたヒロインのようである。


「おはよう、シイル」


「おはようございます、タチバナさん」


ベットから起き上がると俺は朝の身支度を整えることにする。歯ブラシにしろタオルにしろ驚くほど元の世界と似ている。


顔を洗っているとシイルが朝食を持って来てくれた。

メニューは恐らくパンのようなものとベーコンエッグ。


「これは何て言う果物?」


小さな皿に見慣れない抹茶色の果実が乗っている。


「アリエロという果物です。ほろ苦い風味がクセになりますよ。」


シイルは果物を一つ手に取ると皮を剥いてくれた。


「いただきます。」


口にほおばると確かに不思議な苦味がする。

これは…


「抹茶だ!」


「マッチャ?」


「俺の世界ではそう言うんだよ、お茶という葉っぱを加工してすり潰したものなんだ」


「葉っぱですか?タチバナさんの世界は変わってますね」


少しシイルが笑う。本当に変わった世界だ。


——————————


「おはよう。橘君」


ちょうどご飯を食べ終わった後、エールニルが入って来た。


シイルと2人並ぶと、絵に描いたようなお似合いのカップルになり少々居心地が悪い。


「ちょうど今食べ終わったところです。」


「味はいかがだったかね?」


「美味しかったです。まるでプロが作ったみたいですね。」


ベーコンエッグは、ベーコンは肉厚で焼き加減がベスト。卵もふわふわでちょっと変わった風味のアクセントもまたよかった。


「美味しいのは作り手がいいからだよ。」


エールニルはシイルを褒めるシイルは恥ずかしそうにうつむいた。

彼女の手料理だったのか。


「さぁ昨日の話の続きをしよう。」


エールニルに促されるまま、俺は部屋を出た。



昨日話をした部屋と違って、

今日の部屋は執務室みたいな所だ。


大量の書類棚と大きな机、ペン立てにハンコ。居心地のよさそうなイス。

エールニルはいつもここで政務を執っているのだろう。


「確か、昨日の話は日本とこの世界では、美的価値観が大きく違うという話まででしたね。」


「そうだね。私もにわかに信じ難いが、価値観が真逆のようだ。」


そういうとエールニルはふーっと息を吐くと、いまいましいといった顔で言葉を紡ぐ。


「私やシイル、お屋敷の人間はこの世界では対等に扱われない。中身は何も変わらないというのに。」


「ひどい話ですね見た目だけですべてを決めつけるなんて。」


そう言いながらも俺自身前の世界で、本当に人を中身で理解していたとは言い難い。

少し心が痛くなるのを感じた。


「私はね、そんな世界にこりごりして、ここまで逃げてきて領主になったんだ。」


「そうだったんですね。」


壮絶な話だ。俺とは歩んできた人生が違う。だからこそエールニルは全身から自信をみなぎらせて

いるのだろうか。


「もともとここら辺は人が住んでいなかったんだが、私の噂を聞きつけて差別を受けていた人が集まってきたいうわけだ。」


「シイルもその1人?」


たずねると彼女はこくりと頷く。彼女にも辛い過去があったのだ。


「ところで、君のいた世界との大きな違いは、実はそれだけじゃないんだ。」


エールニルの語りに力が入る。どうやら本題に入るらしい。


「この国の王はなぜ君のように他の世界からきた人々を捕らえようとすると思う?」


「新しい価値観を持ってきて、王国の秩序を乱してしまうからですか?」


「違う。それは君が、ひいては他の世界から来た人々はある特殊な能力を持っているからだ。」


「特殊な能力とはなんですか!?」


思わず勢い込んで聞いてしまう。特殊能力と聞いて心躍らせない男子はいないだろう。


「魔法だよ」


「魔法!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

こっちの世界はかなりファンタジックだったのだ。

ハ○ー・ポッターのような魔法なのだろうか


「なぜか異世界から来た人々は、この世界では特殊な魔法が使える。」


「ほう…。」


自分はこの世界特別な存在…厨二心がくすぐられる。

ただ、努力をなにもしていないのに、手に入れてしまえるのは背徳感があるが。


「その特別な君にして貰いたい仕事がある。」


きたぞ…。どんな無理難題だ?


「魔獣退治だよ。」


「へっ?」


「この世界には魔獣という、人間には御しきれない外敵がいるんだ。

 それに一番対抗しうるのは、”トラベラー”である異世界人になるんだ。」


いきなり何を言っているんだろうこの人は。違う世界から来て、右も左もわからない俺に

化け物と戦えというのか。


「無理です。戦い方も、魔法の使い方だって何も知らないんですよ?」


「大丈夫だ。魔獣の前に出たら自然とできるようになる。」


なんだよその根性論は。修○も真っ青になりそうだ。

そんな危険な事に関わるわけにはいかない。


「いやです。そんな危ない橋をわたることはできません。」


俺のその発言を聞いたとたん、エールニルの目の色が変わる。


「私の申し出を断ると?いいのか?」


言外に脅しをかけている。お前は明日からどうするつもりだ、と。

案外この人も食わせものだったのだ。


「僕はまだ死にたくないので。」


「交渉決裂……だな。」


冷たい目をした領主は僕をチラと見た後、興味がなさそうに外を見つめた。



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