第2章 美しい少女とこの世界のズレ
「!?」
ガバッとはね起きるとそこは
どこかの王宮のような豪華な部屋だった。
窓に駆け寄り外を眺めると
幾人かの子供たちが
草むらを駆け回っているのが見える。
辺り一面に田畑が広がり
まるで中世の農村のような光景だ。
「お目覚めですか?」
ガチャリと扉を開けて、1人の少女が入ってきた。
年は恐らく俺と同じ17前後で、美しく透き通った肌に澄んだ瞳、ほんのりと紅く色づいた唇
スラリと伸びた足。
服装はいわゆるメイド服だ。
眼を見張るような美しい少女だ。
思わず見惚れていると
少女はなぜか怪訝な顔で見つめ返してくる。
まるで、今までそんな見つめられたことが
ないかのように
「その、君綺麗だね。」
思わず普段は言わない様なセリフを
言ってしまう。と、
「!?!?!?」
なぜか少女は顔を真っ赤に染め
顔を隠す様にバタバタと飛び出していった。
「流石にいきなり失礼だったかな…」
慣れないことはするべきじゃないと反省していると
今度は王子然とした美青年が入ってくる。
「いきなりシイルを困らせるとは君もやるね」
彼からは全身から自信と威厳がただよっている。
例えるなら新進気鋭の若い政治家といった感じだ。
「素直に褒めたつもりだったんですが」
「彼女はそういう扱いされるのに慣れていないんだよ」
少し悲しそうな表情をした後、案内しようと青年は言い、2人で部屋を出た。
案内されたのは、広々と居心地の良さそうなリビングだ。 小さなテーブルを挟んで向かい合うと青年は話し始めた。
「私はこのあたりを治める領主、エレバンだ。」
「橘 海人です。」
軽く握手をすると、エールニルは少し考え込む
表情になる。
「橘くんか。その名前だと君は日本から喚び出さたのかな?」
「そうです。もしかして日本を知っているんですか?」
はじめて元の世界を知っている人がいた。
思わず俺は安堵の息をもらす。
「ああ、このセカイには日本からも多くの人が喚びだされているようだ。」
意外だ。俺の他にも日本人、ひいては地球人もいるかもしれないのだ。
あんなに嫌っていた世界なのに
自分と同種の人々がいると
いうことに安心してしまう自分がいる。
「喚びだしたのはあなたなんですか?」
「違う、私ならあんな危ないところに適当に喚びだしたりしない。」
そうかぶりを振って否定すると
エールニルは近くの机の中の引き出しの中から
1枚の紙を取り出した。
「それは…!」
まさにあの日のチラシと全く同じだった。
「これは霧の穴熊という、この国の秘密結社が作ったものだ。」
「ということは、喚び出したのはそいつらということになるんですね?」
「そうだ。もっともこの図式では、正しく召喚できる様になってないがね」
適当な召喚のせいで、あんな敵意丸出しの村の近くに召喚されてしまったのか…。 迷惑な話だ。
「そして、あの村の牢屋から助けてくれたのはあなたですか?」
「そうだ。実際助けたのはシイルだがね。
後で礼でも言っておきたまえ。彼女喜ぶぞ」
ニヤリとエールニルは笑う。
「一つ思ったんですけど、シイルさんもそうですが、この屋敷にいる人が美男美女ばかりなのはなぜなんですか?」
この問いかけにエールニルはギョッと驚いた顔をした。
「美男美女?皮肉ならやめたまえ」
「僕には本当にそう見えるのですが」
再び驚いた表情のエールニル。
「日本ひいては地球から喚びだされたものは
確かに価値観や美的感覚が違うというが…
本当だった様だね。」
「そうなると、この世界では失礼ですがあなたやシイルは美男美女として扱われない…と?」
「そうだ。君の感覚では美男美女の様だがこの世界では全く逆の意味になる。」
地球でも国によって美的感覚は違うが
ここまでキッパリと逆になることも
こういう遠い世界ではあるようだ。
と、突然グラァと頭が割れるような感覚がした。
「疲れたかね?じゃあ続きの話しはまた後だな。」
そう言うとエールニルはパチンと指を鳴らす。
来たのは先ほどの少女、シイルだ。
「お呼びですか?」
こんなに綺麗なのに、こちらの世界では意味は真逆、不思議な世界である。
「彼を部屋に戻してやってくれ」
「かしこまりました。こちらへ」
「ありがとうございます。ちょっと休ませてもらいます。」
エールニルにそう挨拶すると、俺とシイルは
ともに部屋から出た。
「…。」
お互いに無言で気まずい。
とりあえず俺は朝のお詫びをすることにした。
「いきなりあんなこと言ってごめん…失礼だったよね?」
俺がそう言うとシイルは慌てて大きく手を顔の前でふる。
「とんでもないです!ただ、お世辞でもあんなこと言われたら動揺してしまって…」
朝のように逃げなかったが、シイルの歩調は早くなった。と、ぎゅるぎゅると俺のお腹が大きく鳴る。
「お腹空きました?」
微妙に視線を逸らしながら、シイルが聞いてくる。
「昨日の夜以降食べてないんだ。」
「後でご用意しますね。」
言ってる間に部屋についた。改めて見ても部屋は豪華だ。こんな待遇をしてくれるのは裏がありそうだが、ひとまず今は甘んじるとしよう。
シイルが食べ物を持って来てくれるようなので、テーブルの椅子に腰掛ける。
こっちの世界に飛ばされて散々だったが
ひとまず落ち着けそうだ。
「お待たせしました。」
シイルが食事を持ってきてくれた。
「ありがとう。助かるよ。」
机に食事を置いて、失礼しますとそのまま出て行こうとするシイルに俺は声をかける。
「シイル、助けてくれてありがとう。」
シイルはちょっと驚いた顔をした後、今度は可憐な笑みでニッコリ笑いかけてくれた。自信なさげな暗い顔よりも、彼女にはそういう表情がふさわしい。