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異宗教の彼女  作者: 大塚ケンジ
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出会い

ふきつける風が冷たい。3月だというのにまるで真冬のようだ。僕をベンチに残して早20分。健太はいったい何をやっているのだろうか。

ここはB教の施設の敷地内にある屋外ベンチ。急にこの施設に用事ができた健太に待っているように言われたのだ。


僕は時任真也。19才大学1回生である。生まれたときからA教の信者である。というのも親も祖父母もA教であるからだ。

僕を待たせている寺本健太は大学の軽音サークルの同級生である。学部は違うが、同じバンドが好きで意気投合した。健太は熱心なB教の信者である。しかし、お互いに異宗教であることを認め合っており、勧誘したりはしない。宗教友だちとしても付き合っている状態である。

まあ、そのせいで、健太に出会ってからもB教の施設に行ったことなどなかった。今日は初めて施設に来たのだ。

だが、それにしても遅い。早く帰ってこないだろうか。ああ暇だ。カバンの中には・・・あ、そうだ、昔のアルバムが入っていたか。実家に行ったからそのときに持ち出してきたんだった。

まあ、他に何もないし、久々に眺めてみるか。


「隣いいですか?」

突然左上のほうから女の人の声がした。見上げると同い年くらいの女性がいた。

「あ、どうぞ」

恐らく、いや確実にB教の信者だろう。少し右により、座る場所をあけた。そして僕は、眺めていたアルバムをカバンにしまった。

「アルバム、しまっちゃうんですか?」

え?突然女性が話しかけてきた

「あ・・・え、まあ・・・」

「アルバム見るの、好きなんですか?」

「いえ、たまたま・・・」

「私も写真好きなんです」

「あ・・・そうなんですか・・・」

なんだなんだこの流れ。なんでこの女性はこんなに話しかけてくるんだ?

「あ、突然話しかけてしまってすみません。私、中村恵美といいます」

「あ、時任真也です」

「B教の信者さんですか?」

「あ、いえ、友だちを待っているだけで・・・」

「・・・そうなんですね」

少し悲しそうな表情になったように見えた。

よく見ると綺麗な顔立ちである。


その後、恵美といろいろな話をした。年齢はやはり同い年で、近くの大学に通う大学生であった。僕と同じく、B教には生まれたときから入っているようで、熱心な信者のようだ。健太のことを聞いてみたが、面識はないようである。

「あ、そろそろ行かないと…」

時計を見た恵美が立ち上がった。長い時間に感じたが5分少々しか経っていなかった。

「じゃあ、もう行きますね」

恵美が僕に背を向けたとき、思わず

「待って!」

と叫んでしまった。少し周りからの視線を感じた。

「いいの?俺ももう行っちゃうよ…」

恵美がゆっくり振り返った。僕は驚いた。恵美は目から涙を流していた。

「いやだよ。いやだよ、もう会えないなんて…」

僕は少しオーバーだなと感じながらも

「連絡先だけでも、交換しませんか?」

と言った。恵美は応じてくれ、LINEを交換した。

「ありがとう」

恵美に可愛らしい笑顔が戻った。

「それじゃあ、本当にもう行くね。またね」

恵美はそう言って急ぎ足で敷地から出ていった。

「可愛いらしい子だったな…」

小さく呟いた。


「ごめん、受付が混んでてなかなか手続きが進まなくて…」

あの出来事の直後、健太は帰ってきた。

「あ、全然いいよ」

僕はむしろ感謝していた。お陰で恵美に出会え、連絡先まで交換できたのだから。まあでも、健太にはしばらく黙っていよう。

僕らはとりあえずゲーセンによったりしたあと、別れた。少し急ぎ足で家へと帰り着いた。


部屋でよくよく考えてみた。そういえば今まで彼女なんていた試しがなかったな。というか女の子と絡むこともほとんどなかった。

中学受験をし、男子校へ6年間通った後、大学では理系の学部に進んだため、接する機会があまりなかったのだ。

恵美からのLINEはまだ来ない。まあ、僕も送っていないから、お互い様子をうかがってしまっている状態なのかもしれない。

ダメだ、恵美のことが気になって仕方がない。これって恋なのだろうか。今夜はあまり眠れそうにない。

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