前編
卒業式に女子から第二ボタンを求められる。
第2ボタンが、心臓に最も近いということから来ているようだが、高校生活の三年間で、彼女の一人もいなかった僕にとっては、縁のない話だ。
少なくても、ついさっきまではそう思っていた。
しかし、卒業式という学生生活のラストに女神は僕に微笑んだようだ。
そう、僕の目の前にも、第二ボタンを欲しがる女子が、ついに現れてくれたのだ。それも、この平凡な学校にいたのかと思わせるくらいの、すごい美少女だ。下手なアイドルよりもずっと可愛い。色は白く、顔は小さく、目は大きく、瞳は澄んでいて、長い黒髪は艶がある。
少女は照れくさそうに僕から視線を逸らしながらも、「先輩の第二ボタン、いただけませんか?」と尋ねる。そして、決心をしたように顔を上げ、僕の目をジッと見て微笑んだ。
僕は本当の女神の微笑を見ていた。一瞬、そう思った。
しかし、よく考えると、僕は彼女の名前も知らない。顔も見たことはない。こんな可愛い子がいたら、噂にはなりそうだが、そのような話も全く聞かない。だが、この学校の制服を着ている以上は、ここの生徒であるはずだ。
「やっぱり、ダメですよね。私じゃあ・・・」少女はそう言って、俯く。僕は慌てた。せっかくのチャンスなのに、ここで棒に振るつもりか?こんなチャンスは二度とないかもしれないのに。
「僕ので、よければ、ど、・・・どうぞ・・・」
我ながら、情けない。動揺が声をかすれさせ、言葉を詰まらせる。語尾も不明瞭だ。しかし、彼女に僕の想いは伝わったようで、目一杯の明るい表情で喜びを露わにした。
「それじゃあ、遠慮なく、いただきます」少女はそう言った。
「ああ、それじゃあ、今、外すから」僕は自分の胸の第二ボタンを外そうとする。
その瞬間、少女の手が僕の手を払った。そして彼女の細く白い手は、僕の胸の第二ボタンを掴んだ。何て、積極的な娘なんだ?
しかし、何かおかしい。