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七、心の故郷

| 電化されていない日田英彦山線沿いは、きれいに植林された杉林の中に炭鉱跡とぼた山が散在し、ところどころ開けた場所に田畑とさびれた町や村が存在していた。二両編成のディーゼル車は、筑豊の山中を少しづつ高度を上げながら走っていった。

なつ都は盆、正月になると、よく母に連れられて、この列車に乗った。そして、次から次へと変わる景色を、いつも飽きもせず眺めていた。各駅停車でゆっくり走る列車であったのだが、当時は、とても大きく早く走ったように感じていた。夏には窓も開けていたので、自然の風が入り、外を見つつ、わくわくしながら乗っていた。しかし、最近は帰省することも少なくなり、たまに帰るときも遠回りだが早く着く新幹線と特急を利用して、景色を楽しむような余裕はなくなっていた。

「おばあちゃん、今、小倉なんだけど、久し振りに日田英彦山線で帰るから・・・。光岡てるおか駅に一五時三二分着でお迎えをお願いね。それから、突然なんだけど、友達が一緒なんだけど、いいかなあ?」


「夏都、おかえり」

無人の光岡駅舎の中で、梶原敦子かじわらあつこは待っていた。

「おばあちゃん、ただいま。やっぱり日田は熱いね」

日田市では全国の猛暑日連続記録を更新し、ついに気温が三九度を記録するまでになっていた。

「それで、こちらが友達のアルク ハイネンさん」

「初めまして。アルク ハイネンと言います。本日はお世話になります」

敦子はまさか夏都が男性の友達を、しかも外国人を連れてくるとは思いもよらなかったので、突然現れた金髪の若者に驚きを隠せなかった。

「ほえ、夏都、こりゃ、どげんしたと?」

「おばあちゃん、突然でごめんね。まあ、後でゆっくり説明するから」

「えーと、私は夏都のおばあちゃんの梶原敦子でございます。どうぞよろしゅうに」

自己紹介を終えると敦子の軽ワゴンに荷物を詰め込み、少し山合いに入った集落にある敦子の家に向かった。そして敦子は、前にもこんなふうに驚いたことがあったなあと思い出していた。

(・・・あれは終戦の日やったやろか?)


 駅から一五分ほど走るだけで、景色は街から少し開けた田畑に小川、神社やお寺に迫る里山の風景に変わっていた。

「ね、いいでしょう。私、ここが好きなんだ。それにさっきより涼しくなったでしょ」

確かに車の開けた窓から入ってくる風は、小川や田畑、林を抜けてきて、明らかに気温が下がっているようだった。

「もうちょっと前だったら、蛍が乱舞してきれいだったんだけどなあ・・・見せてあげたかったなあ」

残念そうに、夏都が振り返り、言った。

「私の生まれは岩国市だから、そこが故郷なのかもしれないけど、私の心の中では、ここが故郷なんだ。おばあちゃんが住んでるこの風景が大好きなの。・・・小さい頃は伯父さんと従兄弟達も帰省してたから、一緒にいろんなことをして遊んだわ。・・・後でこの辺りをちょこっと案内してあげるね」

風に髪をなびかせ、無邪気に語る夏都をアルクは(本当にかわいい子だなあ)と思った。そして、子供の頃に見た日本アニメ映画「トトロ」に出てくる主人公の女の子とその風景を思い浮かべていた。


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