五、別れ
|「サンゴ、愛琳、結婚式には必ず出るから早めにしろよ! それから陽鵬、お前も早くいい女、見つけろよ!」
戦況が緊迫感を増す中、ハルクはアメリカに旅立った。
昭和十八年になると日本軍の情勢は悪化の一途をたどっていった。満州国内ではまだ平穏が保たれていたが、抗日戦争が激化し、中国各地で関東軍や共産党軍との戦闘が増え続けていた。そして、内地だけでなく満州でも、学徒動員や追加徴兵が増えていった。
「署長、お呼びでしょうか?」
「姫山君、すまない・・・実は昨日、これが来たんだ」
署長は、三五に赤紙(召集令状)を見せた。
「君は必要な人材だから、何とか免れるように動いてみたんだが・・・だめだったよ」
署長は残念そうに言った。
「そうですか、たぶん来るだろうと予想はしていました。ご配慮いただき、どうもありがとうございました」
「うん・・・名誉なことだとは思うが、私としては非常に残念だ・・・。 姫山君・・・いいか、死んではいかんぞ!」
親のように泣いてくれる署長に深々と一礼をして三五は署を後にした。そして、心の中で(愛琳!)と叫んでいた。
その夜、三五は愛琳と陽鵬を呼び出した。
「やっぱりこれが来たよ」
三五は二人の前に赤紙を差し出した。
「たぶん日本は負ける・・・きっと俺は帰ってこられないだろう・・・」
三五は交流のあった英国人達から、日本の戦況が窮地に陥っていることを知らされていた。そして、そう遠くないうちに日本は負けるだろうと確信していた。
「いやー!」
「サンゴさん!」
泣き出す愛琳と悲壮な顔をしている陽鵬に、三五は静かに語りかけた。
「俺は、みんなと仲良く暮らすのが好きだ。戦争なんて大嫌いだ。でも内地の家族のために俺は行かなくてはならない・・・愛琳、すまない、君を幸せにしたかった。内地の家族にも会わせたかった・・・でもこうなっては、もう無理だ。そこでお願いだ。陽鵬、愛琳を頼む、俺の代わりに幸せにしてやってくれ。そして愛琳、俺は陽鵬が大好きだ、陽鵬にならお前を任せられるし、お前も陽鵬を頼む!・・そうすれば俺は思い残すことなく戦地に行ける・・・、ハルクには、このことを手紙に書いて送っておいたよ。もし、届かないようだったら、いつか伝えてほしい。お前の期待に応えられなくて申し訳ないと・・・」