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短編集  作者: 坪山皆
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環境戦隊エコレンジャー

 私の名前はダイオキシン。地球制圧を目指す秘密組織「CO2」の幹部だ。


 大規模な宇宙戦争によって私の故郷は滅ぼされてしまった。難を逃れた私たち少数精鋭は移住する場所を探し求め、その末にたどり着いたのがこの青い星、地球。

 けれど地球は私たちが住むには空気が綺麗すぎる。だから住みやすいように浄化(原住民が言うにはその行為は大気汚染なのだそうだ)に必死だ。

 敬愛する司令官のプルトニウム閣下を筆頭に、組織の頭脳を担う光化学スモッグ博士、双子のおかまニコチン&タール、ライバルのアスベスト。そして紅一点の私、可憐な毒花ダイオキシン。

 それぞれが従える下僕に命じれば、地球制圧などお手の物。


 そう信じていた過去の私を鞭で打ってやりたい。


「ねえ一体どういうことなの闘鬼ちゃん。あなたが私のお仕置きを受けるのは何回目? どうして私はあなたの可愛らしくもない顔を踏まないといけないのかしら」


 私がとがった靴のつま先でぐりぐりと踏みにじっている先にいるのは忠実な下僕の一人、甲冑を全身にまとった不崩闘鬼ふほうとうき。彼は恍惚の表情で私に許しを請う。


「申し訳ありませんダイオキシンさま! すべてはにっくきエコレンジャーの仕業ではありますが、拙者の不徳のなすところも無きにしも非ず。どうかもっと存分に罵ってください!!」

「キモチ悪いわ」


 闘鬼ちゃんのこめかみを思いっきり蹴り上げると、彼は「ああっ」と歓喜の声をあげながら倒れ伏した。


「ねえ闘鬼ちゃん、そのエコレンジャーとかいう輩? あなたの話を聞いてから、私とっても興味が湧いてきたの。もちろん紹介してくれるわよね?」

「ぎょ、御意!」


 エコレンジャー。地球の環境保護なんていう自分勝手な正義をうたい、私たち「CO2」の地球制圧を邪魔する目障りな奴ら。彼らによって私たちの完璧な計画がほころびを見せていると言っても過言ではない。  


 エコレンジャーとやらは、わが組織の戦闘兵、ハウスダストたちが浄化活動中に現れることが多いらしい。

 面倒な浄化活動は闘鬼ちゃん以下、戦闘兵たちに任せて、私はエコレンジャーが現れるまで近くのカフェで高みの見物を気取るつもりだったのだけれど。


「そこまでだ、CO2!!」


 思っていたよりもずっと早くに奴らは現れた。

 赤と紫と桃色と黄色。それぞれが仮面とおそろいの全身タイツスーツを身に纏っている。見ようによってはおマヌケだけれどそのスーツは特別製なのか、闘鬼ちゃんをはじめとした「CO2」の誇り高き兵士たちをばったばったとなぎ倒している。

 この登場の早さ、私たちの浄化活動を察知するレーダーでもあるのだろうか。そしてこの戦闘力。いえ、むしろこれはハウスダストたちが奴らに比べてまだまだ弱い、ということなのかもしれない。早急に兵力の増強をしなければ。基地に帰ったら博士に相談しないといけないわね。


 でも、その前に 思い上がった愚かな地球人どもに、この私が絶対の恐怖を味あわせてあげようではないか!



「ふっ、貴様らがエコレンジャーか。そろいもそろって貧弱なこと」

 

 ばさり、とマントを振り払った私が、高笑いとともに参上すると、赤マスクが鼻の辺りを抑えてふらりとよろめいた。


「ボ、ボンデージ……。眼福……」

「ちょ、ちょっとレッド、見た目に惑わされないで!」


 地球に来て良かったとしみじみ思うのは、赤マスク曰く「ボンデージ衣装」なる存在だ。出るところは思いっきり出て、引っ込むべきところはこれでもかと引っ込んだ、私の超絶美しいボディをこの上なく引き立てる衣服、それこそすなわちボンデージ!


「そ、そうですよ。ちょっとスタイルがいいからって何その恰好、まるで露出狂じゃない。はずかしくないの?」


 あら? もしかして嫉妬、しているとか? たしかに私は必要最小限のところしか隠していないけれど。


「そんなこと、全身タイツのあなたたちに言われたくないわね」

「ぐうぅっ。た、たしかに!」


 何か思うところでもあるのか、ピンクは胸を押さえてよろめいた。こんなことで隙を見せるだなんて、あの戦闘力は確かに警戒すべきだけれど、まだまだつけ込む余地はありそうだ。


「わが名はダイオキシン。今日は目障りなあなたたちを潰しに来たの。さあ地球人どもよ、わが膝下にひれ伏せるがいい!」


 落ちてくる長い髪を振り払って、闘鬼ちゃんと夜更かしして考えた、私が一番魅力的に見えるポーズを決める。声を張り上げて名乗ると、エコレンジャーのみならず周囲の地球人たちもバタバタと倒れはじめた。どうやら私の美貌と迫力に気圧されたようだわ。愉快愉快。


「流石です、ダイオキシン様!」

「当然よ闘鬼ちゃん。こんな雑魚、私の手にかかればこんなものね。ほーほっほっほ!!」


 高笑いが止まらない。エコレンジャーどもが生まれたての小鹿のように、がくがくと膝を震わせて立とうとしてはくずれ落ちる。


「な、なんて臭気、もう耐えられないよ! うええっ」

「しっかりしてイエロー! それにしても、呼吸するだけでもこの臭い……まさか存在するだけで大気汚染してしまうとでも言うの? なんて恐ろしい。てかまじ口臭い! おええええええ」


 無様に地べたに這いつくばるその姿に嘲笑を浮かべてみせた。


「ふっ、なんて他愛のない。つまらなすぎて欠伸が出そうよ。どうやら私がこれ以上力を振る意味はなさそうね。あとは任せたぞ不崩闘鬼!」

「御意!!」


 深々と頭を下げる闘鬼ちゃんに背を向け、そそくさとその場を後にした。頬につたい落ちる熱い涙は、にっくきエコレンジャーに膝をつかせたという嬉し涙だ。そうに決まってる。


 


 私の名前はダイオキシン。花も盛りの二十二歳。

 生まれて初めて口臭を指摘され、心が折れました。

 しばらく旅に出ます。探さないでください。


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