とある少年の決意
見ないうちに色々と変わっていました。
形式を変更しようとコチャコチャしています。
それでは、夢の旅をご堪能ください!
月が雲で隠れてしまった夜――
城の庭で何かが動いた。
「誰だ!」
警備員がライトを向ける。
何かは驚いて逃げようとその姿を現す。
「またお前か!」
警備員たちは逃げようとしたその影を追いかけ、捕まえた。
「性懲りも無いやつだ! ご主人様は今日は居られないぞ! さあ、出てった出てった!」
捕まえられたもの――少年は激しく抵抗する。
「嘘つけ! 城の明かりがついていたのを、俺は見たんだ! お前らの方こそ、ここから出ていけ! この疫病神!」
「ご主人様が心優しい方だから今まで生きていられたというのに、なんて失礼なやつだ!さっさとどっかに行ってしまえ!」
警備員は手に持っていた警棒で少年を殴る。
少年も負けじと彼らを蹴ったり殴ったりする。
「お前たち、そんな貧相な者にあまり可哀想なことをするでない。」
その声と共に、いかにも金持ちと思わせるような男がやって来た。
「ご主人様、ですが……」
「いいから、放してやれい。」
その言葉で、警備員たちは少年を放した。
少年はキッと男を睨む。
「それにしても、流石は地元の者だ。どこに抜け道でもあるのか、教えてくれないか?」
「……出てけよ。」
少年は今までに、何度この言葉を言ったことか。
「お前らのせいで、俺たちの村はめちゃくちゃだ。さっさと出ていけ、この疫病神が!」
「何を言うんだね? ここはわしの家だ。わしが大金はたいて買った別荘だぞ?」
「違う! ここは俺たちの大切な家だ! お前らが無理矢理、俺たちや神父様たちを追い出したんじゃないか! この、卑怯者!」
「いい加減に––––」
怒った警備員を男は片手で制する。
「わしはきちんとお金を払うべきところに払った。なのに出ていかなかった、君たちがが悪いんだ。仕方ないことだろう?」
「でも––––」
「ここはもう君たちの家ではない。なんなら、わしが新しいものを建ててやろうか?」
わっはっはと笑われた。
「とにかく、もう夜遅い。親御さんが心配しているよ。気を付けてお帰り。」
「……嫌だ。お前が出ていけよ。」
「わしは生い先短いんだ。どうせ近いうちにいなくなるさ。それまでの辛抱だよ。」
「だから、お前が来たせいで、この村で変な病気が流行って、みんなは外へ出ていっちまったんだよ! お前さえ……お前さえいなければ……!」
「それは濡れ衣だ。わしとは関係ない。お前たち、この子を外まで連れて行きなさい。」
小さな小屋の戸が開かれた。
「ごめん……遅くなった。」
「ティル……! どこ行ってたの……? 心配したんだから……」
奥の部屋からか細い声がする。
ティルと呼ばれた少年は奥の部屋へ入る。
その部屋では、一人の少女がベッドで横たわっている。
少女はティルの顔を見て驚いた。
「どうしたの? その怪我……!」
「大したことねぇよ。」
「また……悪いことしたの?」
「お前には、関係ない。」
ティルは台所に行って、鍋に火をかける。
「ティル」
少女が呼ぶ。
「わたし……治るかな……?」
彼女は今、謎の病にかかっている。
二週間ほど前からこの村では流行り始め、あっという間に村全域に広がってしまった。
「城主様が、お怒りなのかな……?」
村の中央には古城がある。
そこには城主様がいて、村の人々は毎日お祈りを捧げていた。
ところが、1ヶ月ほど前だろうか、都市の大富豪が勝手にそこを別荘としてしまった。
村にはこんな言い伝えがある。
『城主様の眠りを妨げし時、村に厄、降りかからん』
村の人の中には、この謎の病によって命を落とすものも居れば、厄が怖くて出ていったものもいる。
「俺が何とかしてやるから、早く治してくれ。」
彼は彼女にリゾットを持ってきた。
「ティルは、食べないの?」
普段と違う彼に少女は優しく尋ねる。
「あぁ、悪いな。食べてきたから。」
と言うのは嘘で、本当は、なぜかここ2、3日は食欲が無いのだ。
––––––どうしてこんなことになったのだろう?
彼女がときどき咳き込みながらゆっくりと食べているのを、ぼーっと眺める。
お互い既に親を亡くしていた。だから、あの古城で神父様たちに育ててもらっていた。神父様は外へ医者を探しに行ってしまっている。シスターさんたちが毎日来てくれてはいるが、生活はどんどん苦しくなるばかりだ。
––––––あいつさえ……あいつさえ来なければ……!
「……ィル、ティル、どうしたの?」
はっとして、うつむいていた顔を上げる。
「大丈夫?」
不安そうに少女は彼を見る。
「たまにはベッドで寝た方がいいんじゃない?」
「馬鹿か。俺は病人じゃないんだから。お前が優先だろ。」
「……ごめんね。」
「もういいか? 片付けるぞ。」
ティルは皿を片付け始める。
その様子を彼女は見ていた。
「みんなは大丈夫かな……?」
彼らは他にも、身寄りのない子供たちと暮らしていた。彼女は、そんな仲間たちの身を案じていたのだ。
「あぁ、心配ない。みんな元気だ。人の心配するぐらいなら、早く寝な。」
「うん……おやすみ、ティル。」
ティルが片付け終えた時には、彼女はもう眠っていた。
彼は彼女に布団を掛けて明かりを消した。
外から僅かな電灯の明かりが差す。
ティルはしばらくの間、眠っている彼女の顔を見つめた。
そして、何かを決意したかのように、彼女から背を向けた。
––––––ごめん……もう、お前の元には戻れない。
上着の裏に隠し持っていた物を取り出す。僅かな光に黒光りするそれは、どんな善人でも、使えばたちまち悪人の烙印を押される、そんな代物だ。
––––––上等だ。俺以外のみんなが元に戻れるならば、悪人にでも何にでもなってやる。
それをポケットにしまうと、もう一度、少女の顔を見る。
目から涙がこぼれ落ちる。
ティルは逃げるように家から出ていった。
––––––ごめん……ソフィ……!