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コセイ

 教室には僕や健、それにさっきの女の子を含めて5人しかいなかった。僕ら以外の二人は机についてそれぞれの事をしている。机は普通の教室と同じように沢山あり、その手前側には縁の無い眼鏡をつけ静かに読書をしている切れ目の男の子が座っている。奥の窓際には大きなヘッドフォンを頭に、音に乗りながら体を小さく上下させている薄い金髪の男の子がいた。

 二人ともこちらに気付いていないのか(眼鏡の子は無視をしているようにも思えるが)ずっとそれぞれのことを続けていた。と、金髪の少年はいきなりぱちりと目を開きくるっと顔をこちらに、というよりむしろ広大一人に向けて表情が固まった。広大はその突然の視線の強さに圧倒されじりっと半歩ほど後ろに下がった。金髪の少年は頭のヘッドフォンを外すとそれを机にコトンっと置いてその場で立ち上がった。そして再びこちらへ顔を向けたときにはものすごい輝く笑顔でニパっと笑った。

「初めまして!僕の名前は住本Jonathan。住まう本に英語でジョナサンです!」

突然少年は広大にそう大きく自己紹介をするとそのまま広大の方へスタスタとやってきて、手を差し出し、ドーモよろしくさん。と不思議な挨拶をして握手を求めた。広大は戸惑いながらも握手を交わし、その際に向こうからこれから気軽にジョンって呼んで。といわれて少し照れくさくなり顔をしたに向けて小さくうん、とだけ言って手を外した。ジョンはまたハハっと笑うと今度は健と、さっきからずーっと傍に立っていたあの女の子の方に顔を向けた。

「この子が新しく来るって言ってたコーダイだね。」

どうやら一応広大の情報は子供達にも知らされてはいるようだった。すると、それにすぐ言葉を返したのは女の子だった。

「私聞いてな〜い。そんなの知らないよ。」

「有希はいつも人の話を聞いていないなぁ。僕ちゃんと三日ほど前に皆に伝えたはずだけど。」

健はその有希という女の子に対してそう返すと。少しふくれて、だって聞いてなかったんだもん。と低い声で呟いた。

「ユキちゃんはタケルのことにしかキョーミないもんね。」

すかさずジョンが突っ込むと有希は顔を赤くして走り去ろうとするジョンを追いかけた。そんな様子をぼぅっと見ていた広大に健が振り向いた。

「と、まぁこんな人達がいるんだけど。どう?」

どう。と聞かれても一体何と返せばいいのかよく分からないが、とにかく騒がしそうだなぁ、と思い。そしてふと眼鏡の少年に振り向いた。彼とはまだ一度も話していない。と、いうかこの状況でもまだ本を読んでいると言うことは明らかにこちらを無視をしているに近い。その広大の気持ちを察したのか健もその眼鏡の少年へ顔を向けて広大に口を開いた。

「彼は藤原恭一郎君。いつも本を読んでいるようだから本に関しては誰よりも詳しいと思うよ。彼と積極的に会話をすることはないけど、別に悪いやつじゃないからさ。」

そういった言葉も聞こえているのかいないのか彼の反応は無い。

「でもさ、なんだか仲よさそうだね、雰囲気。」

僕も早く馴染めたらいいんだけど。と、広大が健に向かってそう呟くと同時に、パタンと本を閉じる音がした。その音に広大は恭一郎を振り返ると、恭一郎は閉じた本の上に右手を添えた状態でそこに視線を落とし、抑揚の無い小さな声で呟いた。

「馴染んでどうなる。」

意識しなければ聞き取れそうもないその小さな声は、ただでさえ人の少なく音の無いこの教室に不気味に広がった。しばらく沈黙の後、恭一郎は何も言わず席を立って本を片手にそのまま教室から出て行った。ドアを閉める音の後に広大はドアの方向に顔を向けた。

何か、悪いことを言ってしまっただろうか。とそんなことが胸をよぎった時、誰かの両手がスッポリと広大の両目を覆いかぶさった。

「キョウちゃんいっつもあんなんだから一々気にしない方がいーよ。」

そう言って目から手を退けたのはジョンだった。それに続くように、一々気にしてたら身が持たないよ、と有希が軽く笑い。健も、個性ってやつだと思って。と言って微笑んだ。そんな中でつられて広大も軽く笑った。

 本当に個性だらけだ。ここにいる人を見ながらまた笑えてきた。


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