1〜20の間
選ばれた子供とは、コーメイ村チルドレンとは一体何なのか。その意味を知りたくは無いのかと突然問われ、広大は焦点の合わない視線を落としていた床から、チラリと健の背に目をやりためらいながらゆっくりと口を開いた。
「それは、僕は知っておく事なのかな。」
その言葉に横を向いていた健の瞳がくりっと広大の顔へと向けられた。かと思うとその瞳はまたすぐにもとの位置に戻り、少し俯いた目になった。
「いや、あれ以来このことに関して何も聞こうとしてこないからさ。気にならないのかなって思ったんだけど――」
本当、あまり気にしてなさそうだね。と健は続けた。
正直、気にはなっていた。ずっとその言葉が頭から離れないでいるし。自分がそれと関わっているのならなおさらそうだった。けど、知らないなら知らないでも、それでいいかとも実際思っていた。何となくだが広大は、そういったややこしく面倒くさそうな事柄を自然と避けるようになっていた。自分から首を突っ込んだ所で何が変わるでもなく、むしろその無駄な好奇心のお陰で変な厄介事に巻き込まれたり勝手な責任を押し付けられたりと決まっていいことだけは起こらない。ならばその無駄な好奇心を抑えているほうがまだずいぶんと楽に過ごせると。
広大は黙って床へ視線を落とした。すると健は横を向いた顔を前に戻しゆっくりと息を吐いた。
「まぁ、知った所でいいことは無いだろうね。正解だ、けど――」
健がそこまで言うとエレベーターの速度がぐぅっとゆるくなり、角の電光表示版が20の数字を差した。すると健の目の前の扉がゆっくりと両側へ開き向こうの光がこの小さな箱に差し込んできた。健が前に足を出す。
「君は『広大』だから。特にこの事実からは目を背けられないね。」
エレベーターから出た健は光の中でこちらに振り向いた。逆光が強くて全体の輪郭がぼやけてよく見えない。でも、多分笑っている。
「残念。」
教室はエレベーターのすぐ近くにあった。そこには一般的な学校と同じようにドアの上に2―1と書かれたプレートがあった。とは言っても全校生徒九人のこの学校に他にクラスがあるわけでもなく、周りを見渡しても2組や3組など何処にもなかった。なのにいちいち1組と分類する必要はあるのだろうかとも思ったがあまり気にしないことにした。教室の前で健は何故か一旦止まり、少し考えたようにスッと扉の前からずれて僕を見た。そしてまた微笑んでから、さぁ広大、開けるがいい。なんて言ってニコニコしている。何か嫌な予感がする。が、開けないわけにはいかないようだ。
広大は意を決して引き戸に手をかけ、思い切りそれをグイと横に引いた。
と、同時に突然何か大きなものがその向こうから飛び出し広大の顔を覆った。ものスゴイ衝撃が広大の全身に走る。どうやらぶつかって・・・、いや飛びついてきたのは人間のようだった。
「タケル〜!おはよう〜・・・・・ん。」
その飛びついていてきた子は自分が抱きついているモノの傍で優雅にこちらに向かって手をひらひらさせながら快くおはようを言っている健をみつけて言動と思考が止まった。
タケルがそこにいる。と、いう事は。これは一体ナンダ!?
広大の目の前がやっと開けた。と、そこに立ってこちらを不信物のようにしげしげと見つめていたのは女の子だった。第一印象で言えば、キレイだ。目は大きいし鼻も筋が通って全体的にバランスのよい、以前健にも言ったが、整った顔だ。そしてしげしげと見つめながら歩くたびに長く伸ばし紐のリボンで結ばれたツインテールがゆさゆさと揺れた。
ここの生徒だろうか、最初は驚いたが確かにカワイイ。出来れば仲良くな――
「タケル、何このひょろい凡人。」
――れる自信は、あまりないかもしれない。