朝に
僕は壁に掛けられていた制服を着てドアに向かった。ドアは全て自動のものらしく近づいたら勝手にスライドして道を開けてくれた。出た先には壁があり、向かって左手の方に階段が見えた。僕がその階段へと向かい進むとまたその左手に部屋があるのが見えた。どうやら僕のいた部屋とその部屋が隣どうしになっているらしい。もう一つその奥にも部屋があり、それはこちらにドアが向いている。
そんなこの家の造りを見ながら僕は足元を一歩一歩確かめるようにして階段を降りていった。降りた先には広く空間の取られたリビングルームがあり。奥にはキッチン、その横の方にいくと洗面所のようだった。広いリビングにはこれはまた大きな窓ガラスから朝日が差し込んでいて全体的に柔らかい空気を漂わせていた。
広大はまだぼぅとする頭でゆっくりと前に進んでリビングの真ん中にあるガラス張りのテーブルと平行に置かれた大きなソファーを目指した。テーブルには飲みかけらしい紅茶が置かれている。まだ湯気が上がっている所からみるとさっきまでここに人がいたようだ。
あのインテリメガネの人だろうか。ふとそんなことを考えていると頭上から何か音が聞こえた、かと思うとその当の本人のインテリの女性が階段の端から突然ひょいと顔を覗かせた。
「何だ、熱引いたんだね。待っててね、今ごはん用意するから。」
というとその人は顔を引っ込めてまた2階へと姿を消した。また頭上に音が響く、なんとも激しい足音だ。
僕はとりあえず何か食べられるのだろうと思いソファーに深く腰を下ろした。その間僕は目の前の飲みかけの紅茶に目を向けてふと、じいちゃんは今どうしているだろう。なんて事を考えた。それと同時に今、現在までに自分に起こった出来事が脳裏を横切った。
僕は、何故ここに来たんだっけ。
女性は堀内純さんというそうだ。純さんは先ほどの飲みかけの紅茶を優雅に啜りながら、僕が純さんお手製の半分焦げた目玉焼きを口に運ぶのを見ていた。ただでさえ食べにくいものをさらに食べにくくさせてくれる。
純さんは僕が聞く前に色んなことを教えてくれた。純さんはこの村の全体的な均衡を保つために人気の離れた大きな研究施設で働いているらしい。だからか僕は初めに出会ってからこの人の白衣を着た姿しか見ていない。言われなくても分かるだろうが、この村は外にはあまり公開されていない最先端技術を駆使して作られた実験的な村なのだという。ではなぜ僕がこの村に来なくていけなかったのかというと、純さん曰くただ僕の親戚と純さんが親しかったから、だという。
僕はそれらに頷いた。頷いて納得しようとした。なのに、なぜかそのたんびに浮び上がってくるのが山の中で見た、健の僕に振り返るあの口元で笑う笑顔だった。
邪念を振りはらうように僕は目玉焼きを一気に口に押し込んだ。純さんはただ、そんな僕を見て微笑んでいた。