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 「広大君は中2だっけな。」

山奥に進むにつれ港の景色も見えなくなって、周りが緑の景色になった頃に忠司が口を開いた。

後部座席にいた広大には忠司の表情が見えずどんな顔で話かけられているのか少し気になったが広大はただ、はい、そうです。とだけ答えた。忠司もそれに対し、ああそうか、じゃあ受験までに友達が出来るといいね。と言ってそこで一旦会話が途切れた。

広大はしばらく窓の外を、見るでもなくただ眺めていた。すごいスピードで緑が流れてゆく。しだいに緑が野生的な表情を見せるようになってきて、一体僕は何処へ連れていかれるんダロウ。と広大は小さく胸で呟いた。

 

 寒い。何処へ行っても寒い、暗い。そんな時、決まって僕の手には飴玉があった。赤い、その頃の僕には大きな一粒。寒い、暗い。甘い―

 

 いつの間にか車は止まっていた。広大は眠っていたみたいで気付けば運転席に忠司の姿はなかった。広大は慌てて窓の外に目をやるとすぐそこに忠司はいた。周りは相変わらず野生的な緑がいっぱいで、まだ目的地についていない事は分かった。忠司は外でタバコを吸っていて、休憩をしているようだった。その様子を見ると広大はまた眠くなって目を閉じようとしたが、そこに見知らぬ人がいつの間にかひょっこり現われ、忠司と話をしているのが目に入り思わず窓に張り付いてしまった。忠司はこちらに背中を向けて相手と話しているようで表情はまた分からないが、相手はよく見えた。相手は広大と同じくらいの少年で、適当に伸ばした髪の毛が笑うたんびに細かく揺れている。何を話しているのだろう、広大は気になって耳を澄ませたが距離が少し遠くて聞こえなかった。と、その時忠司がくるりと体を車の方へ向けた。広大は思わず身をかがめ反対の方向に顔を向けた。すると後ろから車の窓を二回叩く音が聞こえた。広大は振り返ると窓だけをボタンを押して開けた。

「広大君、ここでお別れだ。」

忠司はただそう言うと広大のいる座席のドアをガパっと開いた。

「さぁさ荷物持って外に出た出た。忘れ物はないかい。」

広大は慌てて横に置いていた手荷物を引きずり出すと、忠司が勢いよくドアを閉めた。それと同時に広大はそこに立っている少年と目が合い、少年は広大に優しい微笑みを見せた。適当な髪の毛のくせに顔は整っている、その顔はずっと広大に笑いかけていて広大は何故かその顔を見たまま声が出なかった。

「彼の名前は榎波健君、広大君と同じ中2だよ。これから彼が君を目的地である高明村まで案内してくれるそうだよ。なに、近道をすればここからすぐのところに村はあるんだと。」

忠司はただそう言うと、大きな荷物は後宅配で届くから、と広大に別れを告げていつの間にかその場からいなくなっていた。

広大は我に返ると、少年は広大のすぐ傍まで来ていた。

「さっきも聞いたと思うけど、僕はタケル。気軽に呼んで。よろしく。」

健はそう言うともう一度広大に微笑んだ。

「ああ、僕はコウダイ。柏崎広大っていいます。よろしく。」

広大は健に対し返事をすると地面に置いたままの荷物をグイと持ち上げベルトを肩へと回し荷物を背負った。その様子を見てから健は、じゃあ行こうか。とだけ言うと緑の中の道無き道へと足を運んだ。

 

 しばらくすると次第に足元に道が出来始めた。やっと少しはまともな道へと出たらしい。広大はただ黙って健の後をひたすらついて行った。

「君、広大君だっけ?」

「あ。広大でいいよ。」

突然の声に驚きながらも広大はしっかりした口調で答えた。

「じゃあ広大。僕も健でいいから。」

健はそう言うとしばらく間をおいてからまた口を開いた。

「広大は今までずっとどこにいたの?」

「東京だよ。東京の郊外にじいちゃんと一緒に住んでた。」

広大がそこまで言うと健はまた間を置いてから口を開いた。

「楽しかった?」

その問いは広大にとって予想外のものでとっさには答えられなかった。

「楽しい、かどうかはよく分からなかったけど。別に嫌いじゃなかったよ。じいちゃんはいい人だし、学校も普通だった。」

そこまで答えて広大はしばらく黙った。それから健の背中に向かってまた口を開いた。

「健はどう、ここでの生活は楽しい?」

その言葉を聞いた途端、突然健は立ち止まった。広大も慌てて足を止めると、森の静けさが耳にしみた。そこに風が吹き、目の前にいる健の髪が少し揺れた。健が振り返ると、その整った顔が口だけ笑ってこちらを見つめた。

「楽しんでいるよ。」


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