友達
ガコンッ。
そんな鈍い音を立てて自動販売機からジュースの缶が落ちてきた。その缶を自販機に手を入れ取り上げていたのは広大だった。
「すっかり遅くなったけど、一応飲み物は買っておかないと、いけないだろうな。」
広大はそう言いながら取り上げた缶を腕の中で他の缶と一緒にさせていた。するとどこからかタカタカと忙しない音が聞こえてきたかと思うと、カフェテラスの端の方から有希とジョンが走ってやって来くるのが見えた。そしてその勢いのまま有希が広大めがけて走って来て、急ブレーキをかけたかのように広大の目の前で止まった。と、その瞬間。
「ぁいでぇ!」
と、広大の悲痛な叫びが響いて、ジョンの痛々しい表情が広大の足元に向けられる。そこには広大の左足の上に有希の右足のかかとがねじ込むように乗っかっていた。
「あんたねぇ。一体いつまで人待たせりゃ気がすむのよ。」
有希の表情が見る見る怒りに満ちていくのが分かる。ジョンは危険を察知したのか静かにその場から離れて行くのが見えた。そんなジョンの背中を絶望の眼差しで見ていると有希の手によって顔をグルリと真正面に戻されてしまった。
「何?そんなに飲むもの迷いましたか。」
そりゃご苦労なこったぁ!と、その勢いで広大は一瞬宙に浮いて後ろへと倒れこんだ。その瞬間広大の鈍い呻き声が出た。
これは ヤバイ!
ぼやけた意識の中で広大の思考がそう叫び、うっすら見える視界に有希の次なるパンチが飛び込んでくるのが見えた。ああ、もうダメだ。
パンッ!
突然、この空間に一つの乾いた高い音が響いた。何か、手を叩いたような音。広大がうっすらと強く閉じていた目を開くと、有希のゲンコツが止まり、また有希の顔が何処かよそを向いているのが見えた。その視線の先に、誰かが。
「そこらへんにしておこうか。ね、有希。」
と、カフェテラスの端に立っていたのは健だった。後ろにはジョンの姿も見える。どうやらさっきの手打ち音も健のものらしい。そこまで思考が回った時にはもうここに有希の姿は無く、本人は既に健の隣に立っていた。
「健〜!でもね。喉渇いてたから力全然出なかったし、ちょっと小突いただけだよ。」
どこが!
心の叫びがもう少しで口から出そうになったが、その瞬間また悪夢を見そうでグッとこらえた。そして立ち上がろうと体勢を整えていると、広大の目の前に手がスッと差し出されていた。
「大丈夫?」
差し出された手は健のものだった。その手に広大は安堵の表情で手を伸ばすと健の手によってグイと持ち上げられた。
「あの、ありがとう。」
いや。何もお礼を言われる事はしてないよ。と健はニコリと広大に笑った。
「友達、なんだから。」
笑顔がまた、笑う。