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キボウ

「ねぇ。あいつ遅くない?」

校舎の15階で壁にもたれて面倒くさそうにそう言ったのは有希だった。有希のその言葉に傍で陽気に鼻歌を歌っていたジョンは思い出したようにソウいえば!と驚いた風に声を出した。

「ねぇ、そう思わない健。」

有希はそう言って窓際にずっと立って窓から外を見ている健の方に顔を向けた。しかしその言葉が聞こえてないのか健は外に顔を向けたままピクリともせず、そんな健に有希は近くまで歩み寄り健の耳元で声を張り上げ健の名前を呼んだ。すると健は意識がどこかへと飛んでいたのかその有希の声に、え?と返して振り向いた。

「だ〜か〜らぁ〜。コウが遅いって話し。」

「ああ、そうだね。もう戻ってきてもいい時間だよね。」

健は有希の言葉で思い出したようにそう言うとゆっくりとエレベーターの方に歩き出した。

「タケルどこに行くノ?」

エレベーターへと歩き出した健にジョンが不思議そうに声をかけると、健は頭だけ二人の方に向けた。

「コウを探しに行こうと思ってね。」

「え!健が行っちゃうの。じゃあ待って、私も行くよ!」

有希がそう言って健へと走り寄って腕に抱きつくと、じゃあ僕も。とジョンも勢いよく走ってもう片方の健の腕へ抱きついた。それに対し健は「分かったからまずは二人とも僕から離れようね。」と呆れたように両サイドにくっ付く二人に言いながら、エレベーターへと向かっていった。


 「まずは、カフェテラスへと行きますか。」

校庭へ出るなり有希はそう言ってカフェテラスの方に向かって走り出すと、ジョンもそれに続くように、突撃でありマス!と有希について行った。その後からやっと自由になった両腕の感覚を確かめるようにパタパタと腕を動かしながら校庭へ出てきた健の目に、ある人物の姿が止まった。その人物も健に気づき、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。そしてその人物の口元は静かに笑っていた。健は動かしていた腕を止めるとその手をそっとズボンの両ポケットに入れて相手と同じように、いやそれ以上に口元で静かに微笑んだ。

相手の足が目の前で止まる。そしてお互いの目がしっかりと合った。

「さっきのやりとり、上から見てましたよ。歩さん。」

健と向かい合った人物は歩だった。歩はその言葉を聞くと今度は目を細めてニコリと微笑んだ。

「見てたのなら止めてあげればよかったのに。あの転校生君、頑張って平常心保とうとしてたよ。」

その言葉に健は小さく笑うと、頭を上げてまた歩へと目線を合わせた。

「何で僕が止めるんですか。あなたも分かっていてそんな事を。」

健の言葉を歩は笑顔のまま聞いていた。

「アイツにとってのあなたの口から紡ぎ出すその絶望こそが僕にとっての。」

健の瞳に、昼に近づき真上に昇った日の光が映る。


 

 希望なんだから。


 


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