11階の人
「コウ。そうだ、コウがいい!」
そういったのはジョンだった。そうだその方が呼びやすいし簡単デショ?ジョンのその問いかけに健も笑顔で同意した。おのずと有希も賛同する。
「よし、今日から広大はコウになった。改めてヨロシク、コウ。」
ジョンはそういうと、またにこりと笑った。広大はもうされるがままに苦笑いをした。そしてやはりさっき教室を出ていった少年が気になった。
「さっきの、フジワラ君。だっけ?出て行っちゃったけどいのかな、授業とか。」
それを聞くと有希は何か思いついたように表情を明るくさせてここにいる皆に、ねぇと呼びかけた。
「今日は新顔も来たことだし学校案内を兼ねて恭一探ししようよ。」
広大は一人、ええ!と声を上げて後ろにのけぞったがその両側から健とジョンがそれはイイアイディアだとすぐさま賛同して計画は実行された。全くもって広大の意思はそっちのけだ。
20階から上、つまりこの階から25階までは関係者以外立ち入り禁止となっているので広大たちはエレベーターに乗って20階から1階ずつカウントして下へ下がって行く事になった。19階から15階まではなんら変わりない学校施設がそれぞれの階に納まっていた。ただやたらとここの施設は中学生にとっては勿体無いほどのハイテクノロジーで全てが新品かのように輝いていた。果たしてしっかり活用されているのだろうか。
15階は職員室と図書室、それから多目的教室から成っている。そこを一通り周ってみてもどこにも恭一郎の姿は無かった。
「なんだ図書室にもいないのか〜。」
有希は腕を頭の後ろで組み口を尖らせて廊下をグルグルと回っていた。ジョンは口笛を吹きながら窓の外を眺め、健は壁にもたれてジョンの様子をさらに眺めている。広大はその3人をそれぞれに眺めながら今更に授業のことが気になりだした。
あまりにも勝手に全員で授業放棄をしているけど、先生は怒らないのだろうか。それ以前に職員らしい人の気配がないのは何故だろう?そんな思考を巡らすうちに歩きつかれていたのか自然と、喉、渇いたな。と言葉がもれていた。
「じゃあジュース買ってきなよ。今日は僕がおごるから。」
広大の言葉に健がそう言って人差し指をエレベーターの方へ向けた。どうやらこの階にはその自販機は無いらしい。
広大は言われるがままにエレベーターに乗って一階まで降りていた。自販機は学校玄関を出て壁にそった道を進んだ先のカフェテラスの端に幾つか設置してあるらしい。その説明を思い返しながら広大は右手に握られた幾つもの小銭に目をやった。やけに親切に皆が教えてくれると思ったら、結局パシリか。
そんな不満を抱きながらも広大は早く喉を潤したい気持ちでエレベーター内にある電光表示板をはやる気持ちで見つめていた。するとエレベーターは一階につく前にぐうっと勢いを落として十一階で止まった。誰かが入ってくるのだろうか。それはこの学校の先生なのか?
広大は体を少し奥へと寄せた。人の入る空間を開けるためというより、入ってくるであろう人間を警戒して身を引いた形だった。扉がゆっくり両サイドへ開いてゆく。逆行で上手く顔が見えないが、背が高い。目が慣れて目の前の人間の表情が確かめられた時には既に、向こうの目はこちらを見下ろして間の抜けた顔で目をパチクリさせていた。
大人の男だ。が、教師には見えない。180は越す身長に面長な顔、高い鼻にはシンプルな丸眼鏡が乗っている。
広大がその様子に唖然と男を見返すと、向こうからひょうきんな声が聞こえた。
「ハハ、君。だれだ?」
そのセリフを返したい。