昨日
「どう、学校には馴染めそう?」
土曜の朝、広大は今はもう自分の家となっている純の自宅のリビングで紅茶を飲んでいた。向かいの大きなガラス張りの窓から柔らかい朝日が差し込み広大を照らしている。リビングの隅に置かれた大型のテレビにはこの村の不自然さとは違い、ちゃんとした普通のニュース番組が流れていて、広大はそれを横目に紅茶を少しずつ口に運んだ。
そこに朝食の皿を二つ手に持った純が広大にそう声をかけた。
「はい、皆、悪い人じゃないみたいです。」
広大はテレビに目をやったままそう答えた。そしてまた少し紅茶をすする。
純は、そう。とだけ言って二つの皿を広大の腰掛けているソファーの前にあるテーブルの上にそれぞれ置いた。その皿に目をやるとそこには以前食べた焦げの凄い目玉焼きに並ぶか、またそれ以上の焦げ目をつけたトーストが置いてあった。
流して食べよう。広大はそう考えてテーブル上の紅茶のポットに手を伸ばした。すると純は広大より先に紅茶のポットに手を伸ばしそれをひょいと持ち上げ何も言わずに広大の持っている空のカップに紅茶を注いだ。広大もその行動にじっと応じる。
「皆いい子よ。この村の子供達は。」
純の言葉に広大はカップから純に視線を移した。それだけ言うと純はポットをテーブルに戻し、トーストを持ち上げマーガリンを塗りだした。その様子を目で追っていた広大は我に返り自分もまたトーストに手を伸ばした。そしてまた広大はテレビに目を向けゆっくり口を開いた。
「昨日教室には僕を含めて五人しか来ませんでした。健が全校生徒は九人だって言ってたんですが。つまりそれは一、二三年を総合して九人。僕ら二年が五人という事なんでしょうか。」
テレビに目を向けたままの広大の後ろからトーストをかじるサクっといい音がした。広大もかじる。やはり、苦い。
「そのことは健君に聞かなかったの?」
「なんだか聞きそびれちゃったんです、色々あって。」
それを聞くと純はトーストの手を一旦止めて、色々って、何かあったの?と興味を示して顔を広大の方に向けた。
広大も苦いトーストを口から離し、口の中のトーストを紅茶でグイと流し込んだ。
昨日はあれから色々あった。そう、色々。