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〜ヴァンパイアの谷〜

「俺は人型にはならないぞ」

「そりゃモチ。俺も絶対にならない」

 ヴァンネスタヴァリに向かう道中、ブロワハイとブラッドフットが何やら断言しあっているので、龍は気になった。

「ああ、あのな、龍。純血のヴァンパイアって、女ばっかりなんだよ」

「…で?」

「“で?”じゃないよ。龍、覚悟しといた方が良い」

「なんで?」

「それは、そ_痛っ!?」

 ブラッドフットが理由を言いかけた時、いきなり何かがブラッドフットの側頭部に激突した。

[リョウ!]

 羽が四枚ある赤い鳥がブラッドフットの側頭部から離れて龍の方に飛んで来た。

「やあホムラ。暗いのに飛んで大丈夫なのか?」

[う~ん…だいじょうぶじゃないからぶつかっちゃったの]

「じゃ飛ぶなよ!」

 ホムラがぶつかった部分を押さえてブラッドフットは立ち上がる。

「痛かっだっ!?」

 さっきホムラがぶつかったところに、今度はもっと大きいものがぶつかった。

 ドッゴロゴロベシャッ

 ブラッドフットは吹っ飛んだ。

「いてて。今度はなんだ?」

[よう!ブラッドフット!すまんけど、どいてくれへんか?]

 どこからか声が聞こえる。

 この声にこのしゃべり方はカイだ。

「ごめんごめん」

 ブラッドフットが立ち上がるとその下からカイが出て来た。

[すまんな。くらくてよくみえんさかい、ぶつかってしもた]

「見えないなら飛ぶなって」

[だからすまんて]

 カイが謝る。

 あまりすまなく思っていなさそうに聞こえるのは関西弁のせいだ。

「ほらそこ、急いでるんだからじゃれんな」

 麗音がこちらを指差す。

「ここだ」

 そして一本の木を曲った。龍も続いて曲がるとその木とその隣の木の間に大きな扉、キンクアイルの入り口があった。

「あれ?」

 龍は今来た道を戻って木を反対側から回ってみた。

 なにも無い。麗音達もいない。

 龍はブラッドフット達の方へ戻った。

「どうなってんだ?これ」

「さあな。なんでこうなのかはまだ分かってないんだ」

 麗音が扉を開く。

 ホムラ達が飛び立つ。

 龍は葵咲が通行鳥を連れていないのに気付いた。

「葵咲さんは通行鳥いないのか?」

「ええ。私は必要無いの」

「葵咲はキンクアイルを守護してる一族の一人だから」

 麗音は説明してキンクアイルに入った。

 龍も後に続き、キンクアイルの中を抜ける。今回のは結構短かかった。

 靄から出た先には、また靄。

ただし今抜けて来た方は暗い灰色の靄、前にあるのは真っ白な靄だ。白い方はどうやら霧らしい。

 周りは視界が悪くて殆ど見えない。

「はぐれんなよ?特に龍。お前、はぐれたら死ぬぞ」

 脅しに近いことを言って麗音は歩き出した。

 よく見ると細い道が霧の奥へ続いている。

 今立っている場所は少し高い所らしく、その細道は緩やかな下り坂になっていた。その坂道を下って行くと、だんだん霧が晴れて周りが見えるようになって来た。高い山が両側に聳え、その裾野に上から家、畑、田んぼそして川の順に並んでいる。

 麗音は畑を抜け田んぼを抜け川を渡って、また田んぼを抜け畑を抜け一軒の民家に入って行った。昔の萱葺屋根の家に似た家だ。

麗華レイカ姉!ただいまー」

 ズカズカと上がり込んで行ってしまった。

「意外といい感じの家だね」

 龍達が仕方なく玄関に立ち尽くしていると、後ろの、つまり龍達が入って来た玄関の戸が開いた。

「お客さん?麗音の声がした気がするんだけど…」

 長い茶髪を背中に流した女性が入って来た。

「あ、麗華さん…」

ブロワハイが消え入りそうな声を出す。

 麗華はぐるっとそこにいる全員の顔を見渡して龍に目を止めた。

「あらあら」

 歩み寄って来る。深紅の瞳に見据えられて身体が思うように動かなくなった。


-☆-☆-☆-


「男の身でここに来るなんて、勇気あるわね」

 どんどん近寄って来る。

 龍はその異様な雰囲気に後ずさった。

 周りに目で助けを求めたが、ブラッドフットとブロワハイは玄関の隅で縮こまっている。

一応心配そうな顔でこちらを見てはいるが。

 そこで葵咲の方を向く。

_って、いなくなってる!?

「あなた、ここがどういうところか分かってる?」

 鋭い犬歯が見えた。

 トンッ

 背後の壁に突き当たる。しかし、麗華は止まらない。

 もう少しで麗華の手が龍にとどきそうになったその時、

麗華姉レイカねえ、ストップ!」

麗音が帰って来た。

 もうちょい早く助けに来て下さい。

「そいつはあたしのだよ!」

_って…はい!?何故そのセリフ?

「ちぇ、なーんだ。麗音のか」

 パッと雰囲気が変わった。

_そして納得してる!?

「お前ら、龍に説明しなかったのか?」

 麗音が隅の狼二人組に呆れたように聞いた。

「言いかけて忘れてたんだよ」

 ブラッドフットが代表で答える。

_忘れたって、もしかしてさっき覚悟しといた方がいいって言ったのこの事?あの時はホムラがぶつかって話せなかったけど、その後話す時間十分あったよな?というか、そもそも麗音はなんで俺を連れて来たんだ!?

「麗華姉、連絡届いてるだろ?」

「ええ。来てるわ。お昼に広場に集合する事になってるの。それまで…散歩がてら皆に会って来たら?」

「そうする」

 麗音は靴を履いて出て行った。

「あなた、お名前は?」

 突然訊かれた。

「…魅神 龍です」

「そう。もう知っていると思うけど、あたしは麗華レイカ。龍、あなた麗音について行った方がいいわよ」

「…何故ですか?」

「ここの決まりに“他人の獲物は取らない”っていうのがあるの。本当はあの子には獲物とかはいらないんだけどね」

「はあ…」

 よくわからない。

「つまり、襲われるわよ。後ろから。あたし達ヴァンパイアが吸う血は、人間の男のものなの。あなたは格好の獲物って事になるわ」

 恐ろしい事を聞いてしまった。

_なんで俺を連れて来たんだよ麗音!

 龍は麗音を追いかけた。狼二人組もついて来る。

 家を飛び出して麗音を捜す。

_よーし、いた。

 段々畑を二三個越した所を歩いている。ついでに、仁も一緒だ。

「麗お____」

 呼び止めかけてなにかぞくっとした。横を向くと、少し先に黒髪をツインテールにした女の子が立っていて、その子と目があった。

 その瞬間女の子の雰囲気が豹変する。

_うわ、なんか嫌な予感…

「ヤバイ。龍、俺に乗れ」

 ブラッドフットが言う。

_言われなくても!

 龍はブラッドフットに飛び乗った。

 ブラッドフットは麗音めがけて走る。もちろん風渡りだ。

 麗音のちょっと前に着地した。

 龍はブラッドフットから降りるとさっきいたところを見た。女の子はいない。

「つっかまーえたぁ♪」

 ぽんと肩を叩かれた。

 くるっとそちらを向くとさっきのツインテールの女の子がいた。

_し、瞬間移動した!?

 ニコーっと笑う。

 やはり鋭い犬歯が見えた。

 さっきと同じパターン?

香月カルナ!それ、あたしの」

「えーっ、麗音のぉ?だってさっき一人でいたもん」

 龍がブラッドフットの方を向くと、ブロワハイと俺たちもいたじゃんと顔を見合わせている。

「でもあたしのってことに変わりは無い」

「ちぇっ、人間の男、久しぶりなのにな」

_もうなんなんだよこの会話は?俺、帰りたい…

 何故帰らないのかというと、帰り道に自信がない。

 ブラッドフットはどうかというと、実は龍より方向感覚が無いので当てにならない。狼なんだから野生の勘とかは無いのだろうか?と思うが、以前それで迷ったことがある。

 そしてなんと言っても一番は今麗音から離れたら100%の確率で死ぬと。

_だってさっきの、えーと香月だっけ?って子の速さ、ブラッドフットに匹敵するぞ?

 そんなこんなでお昼に麗音が集まった仲間に紹介してくれるまでざっと十回近く同じようなことがおこった。

 広場に集まったヴァンパイア達は総勢約百人。

 皆見た目の年齢は絶対30を越していない。下は10歳位だろう。

 で、さっきからその10歳位の子が二人、つきまとって離れない。非常に動き憎い。

 ブラッドフットとブロワハイが人間型になってくれればまだいいのだが、めっちゃ嫌がってるし。

襲われる心配は一応なくなったんだからそんなにビクビクしなくてもいいものを…

「おい、お前らそろそろ帰るぞ」

 麗音がやって来た。

「おう、分かった」

 龍は立ち上がろうとした。が女の子二人のせいで動けない。

星夜ノエル瑠璃ルリ少し離れてくれるか?」

 麗音が二人に言った。

「なんでー」

 首にしがみついている瑠璃が口を尖らせた。

「あたし達帰るから」

「龍も?」

 膝に乗っている星夜が聞く。

「そうだ」

「えーーっ、やだやだやだぁ!」

 二人が大音量で叫ぶ。正直鼓膜が破れそうだ。

「そう言われてもなぁ…」

 麗音は困ったように頭を掻いた後こう提案した。

「そうだ、今日は帰るけど、また連れて来てやるよ」

「本当!?」

「やったーっ!」

_俺の意志ははなから無視かいっ!

 二人はキンクアイルの入り口までついて来た。

「絶対また来てね」

「来なかったら殺すから!」

_そのセリフを笑顔で言いますか。

 一日ここにいて分かった。さすがヴァンパイアというか麗音の知り合いというか、言うことが物騒だ。

_でも男口調の人はいないよな。麗音の口調は誰譲り?

「何見つめてんだよ、気持ち悪い」

「いや、なんでもない。というか見つめてない」

 考え事してたらどうやら無意識に麗音を目で追っていたらしい。でも気持ち悪いはひどい。

「じゃあな」

 星夜と瑠璃に手を振って、龍はキンクアイルに入った。


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