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〜月下の呼び出し〜

 その日の夜、龍は麗音に呼び出されて洞窟の外へ出た。

「うわぁ、綺麗な満月だなぁ」

ブラッドフットと二人で来るように言われた。

 濃紺の夜空には大きな満月が浮かんでいる。ここの月は一晩に新月から三日月、満月、そしてまた新月と変わってゆく。

 洞窟の外に来いと言われたのだが麗音の姿は無い。

「来たけどいないね」

「そうだな」

 そう話しながらうろうろしていると、岩の陰から狼姿の仁が現れた。

「仁!ちょっとビックリした」

「ユラっと出て来ないでくれよ」

 二人で抗議したが仁はそれには応じずこっちだと言うように首を動かしてから今来た道を戻りはじめた。

 龍はブラッドフットの方を見た。ブラッドフットもこちらを見ている。

「ついて来い、って事だよね?」

「って事だろ」

 二人は仁を追って歩き出した洞窟の傍の細い道を登って行く。結局頂上の岩場まで来た。

 先を歩いていた仁がトッと駆け出す。

 駆け出した先を見ると岩の上に麗音が立っていた。月を背にした彼女は岩に飛び乗った仁の首筋に手を置いた。

「ご苦労、仁。龍、これを」

 そう言ってなにかを放ってきた。

 龍がそれを受け止めて見ると、一センチ四方くらいの大きさのバッジだった。二つある。アルファベットの“S”に一個は上からもう一個は下から羽が生えているデザインだ。

「これは?」

「羽が上から生えているのがお前の、下からのがブラッドフットのだ」

「いや、そうじゃなくて…」

 なんのバッジなんだ?と訊こうとした時、麗音の外見が変わりはじめた。

 どちらも濃い茶色だった髪と瞳が、髪は漆黒に瞳は深い金色に代わっていく。いつも彼女から感じる力も強くなった。

「言っただろ?あたしはハーフヴァンパイアだ。ダンピールとは少し違うんだが説明は今度。で、ヴァンパイアの血のせいで他の魔物同様、満月には敏感なんだよ」

 話す度に鋭く伸びた犬歯が見え隠れする。

 龍は声も出せなかった。

 驚いたというのもある。しかし、白銀の月の前に立つ彼女は…とても綺麗だった。

「戦場をる紅い風、血の嵐を呼ぶ突風。戦いに於いて常に最前線に立つ我らは血肉を求め猛る獣と同類だ」

 絶句しながら見惚れていた龍はハッとした。

「‥初代リーダーの言葉だ。今日、今この瞬間からお前らは正式にスカーレット・ウィンドに入ることになる。そのバッジはスカーレット・ウィンドの証しだ。戦場での活躍を期待する。存分に暴れろ」

 麗音の姿が元に戻りはじめた。

「明日から戦か…」

 ブラッドフットが呟く。

「開戦は明後日だ。明日一日は明後日に向けての準備期間になる。各自しっかり準備すること」

「そんなに言わなくてもキチンと準備するよ」

 “各自”と言った麗音に応えて、背後の岩陰から煌と昴が現れた。

「なんでいんの?」

 ブラッドフットが訊くとそれに煌が答えた。

「いやぁ、久し振りの麗音ちゃんのヴァンパイア化が見たくでバッ」

 次の瞬間、煌は数メートル先まで宙を飛んだ。

 岩の上にスタッと着地する。

 さっき煌がいたところに視線を戻すと麗音が拳を突き上げた状態で止まっていた。

 煌は麗音に殴られたのだ。

_よく飽きないなぁ。…違った。よく死なないなぁ…

「ほら、今日はもう帰れよ。明日は忙しいんだ」

「はいはい」

 煌達は山を降りはじめた。

 麗音と仁も歩き出す。

 龍は空を見上げた。

 満月だった月がまた欠けはじめていた。

「龍さっき麗音に見惚れてただろ?」

「んな!?痛゛っ‼」

 急にブラッドフットの方を向いたせいで首の筋がちがった。

「見惚れてない」

 かろうじてそれだけ言う。

「首、今ゴキっていった?」

「…いった」

「麗音、凄かっただろ?」

 龍は輝く月を背にした麗音を思い出した。

「ああ…綺麗だったな…‥」

「……」

 ブラッドフットが黙った。

 こちらを見るとじーっと見つめてきている。

「ん?どうした?」

「綺麗だと思ったんだ」

_あ…しまった?

「やっぱ見惚れてたんだー」

「いや、別に綺麗だと思っただけで見と_」

「見惚れてたんだーっ!!」

「だから違_」

 ブラッドフットはパッと狼型に変身すると逃げ出した。

「って人の話し聞けよっっ」

 ブラッドフットは17歳のくせにやることがたまに子供っぽいのだ。

 龍はしょうがなく後を追いかける。がすぐに見失ってしまった。

「あいつ、何処行った!?」

 呟いた時、いきなり横から飛びつかれた。

「っつあっ!ブラッドフット!」

 暫く取っ組み合う。

 もし誰かが見ていたら必ずこう言うだろう。 “岩場でじゃれるなよ。危ねえなあ”と。


-☆-☆-☆-


 龍はさっき麗音が立っていた岩の上に座った。

 ブラッドフットがその横に座る。

 月は半月から三日月に近づき、遠い星の光もだいぶ見えるようになってきた。

「綺麗だね」

「そうだな」

「………龍」

「なんだ?」

「…戦っていうのは必ず血が流れる。人が死ぬ」

 少しの沈黙の後ブラッドフットは話し出した。

「どうしたんだよ?急に」

「心配なんだ。龍は人を斬った事が無いから。戦の戦いは誰も死なない訓練とは違うから」

「そうか。でもさブラッドフット、訓練でも刃が当たるなんていつもの事だぜ?」

「それとこれは違うんだ…相手を殺すことになるんだから」

「でももうどうにもなんねえだろ?俺達も戦に出ることになった。それに_」

「それに?」

「翼は小さい時からの友達だ。助けるのが当たり前だろ?」

「…そうか。当たり前だね」

 また少し静寂が訪れた。

「ブラッドフット。ブラッドフットって愛称無いのか?ブラッドフットって長いじゃん」

「あー、たまにブラッディって呼ばれるけど」

「あるんだ。じゃあ俺もそうよぼうかな」

「えー!」

「なんだよ。イヤか?」

「うん、なんかね、すっごい変な感じ」

「そ、そうか…まあいいや。そろそろ行くか?明日って忙しいんだろ?」

「うん。多分忙しい」

「明日は忙しいぞ。というか、もう今日だけど」

 突然後ろで声がした。

 振り向くと麗音がなにやら沢山荷物を抱えて立っていた。

「うおっ、麗音!ってか、なんだよ?その荷物」

「これはお前らの分だ」

「俺らの分?」

「そうよ」

 麗音の後ろから女の人が歩いて来た。

「はじめまして。私は鳶尾イチハツ 葵咲キサキ。よろしくね」

「あ、葵咲さん。帰って来たんだ」

 ブラッドフットがニコニコと言う。

「ブラッドフット、パートナーができて良かったわね」

「うん!」

「それで、この荷物がなぜあなた達のかだけど、これからヴァンネスタヴァリに行くからよ」

「ヴァンネスタヴァリ?」

「あたしの姉さん達のところだ。応援を頼みに行く」

「麗音、姉さんいたのか?」

「わるいか?」

「いや別に。一人っ子に見えたから…」

「ちょっとまって!麗音、姉さん達ってまさか」

 ブラッドフットが怯えた声を出した。

「その通り。あたしの姉さん達は純血のヴァンパイアだ」

 麗音が自慢げに言った。

「へ~」

「……」

 龍は周りの沈黙に気付いた。

原因を考える。

「………って…えーっ!!?」

_ちょっと待て、純血のヴァンパイアって、ヴァンパイア?

「うん。ナイスタイムラグ、龍」

 ブラッドフットが面白そうに言う。

「とにかく、お前らも行くことになったから。ほら、荷物もここまで運んでやったんだぞ?いつまでもあたしに持たせてないで受け取れ」

「お、ああ。ごめん」

 龍は荷物を受け取った。

「ってか、応援要請にしては荷物多くねえか?」

「姉さん達へのお土産だよ」

「なるほど」

 龍が荷物の多さに納得しているところに仁と見知らぬ狼がやって来た。毛色は黒だが、背中に白い羽のような模様がある。

「私のパートナーのブロワハイよ」

「よろしく。ついでに好きな食べ物はクリーム系のアイスだ」

「ブロワハイ、お前と葵咲さんも行くのか?」

「そうだが__」

「何やってんだ?早く行くぞ」

 少々イライラしている麗音が歩き出した。

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