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〜刀〜


「だから、魔力で風作ったらそれに乗れるか?」

 ブラッドフットは驚いた。

「人工の風は…」

 渡れないと言おうとしてある事を思い出した。

 龍の魔力には、他人と違ったところがある。魔力の量が多いのもあるが、ブラッドフットが一番気になったのは、魔力から風の匂いがすることだった。

「普通人工の風には乗れないけど、龍のは乗れるかもしれない」

「なんで?」

「龍の魔力、風の匂いがするんだ」

 ブラッドフットは洞窟の入り口に向って歩き出した。

「風?」

 途中で武器庫(さっき見つけた)に寄って武器を調達する。

「個人で匂いが違うんだけど、風は珍しいと思う。自然界でも創り出す側に分けられる。神側に近いところに分類される力なんだ。で、その匂いがするからもしかしたら乗れるんじゃないかと思ったんだ」

「じゃ、やってみるしかないな」

ということで、ちょうど入り口にも着いたし、試してみることになった。

「龍、風飛ばしたらすぐに俺に乗って」

「最初から乗ってちゃいけないのか?」

「怪しまれるだろ?」

「あ、そうか。わかった」

 龍は水切りをするように風を飛ばし、サッと背に乗って来た。

 ブラッドフットは龍が飛ばした風を踏みしめて走り出した。

 乗れないことはない…ちょっと走りずらいだけだ。

 ブラッドフットは洞窟の入り口から見えない所まで走ると止まった。

「どうだった?」

 龍が背中から降りながら訊いてきた。

「ちょっと走りずらかった」

「ってことは、アレ全力じゃないのか?久しぶりに転げ落ちそうになったぞ」

 ブラッドフットは速さに慣れるまで龍に何度も転がり落ちられたのを思い出した。

「そうか。龍って風渡り初めてだったよなぁ、そういえば」

「あんなに速いと思わなかった」

「アレでだいたい7割だよ」

「すげえな」

_すごいって言われるとなんかテレるなぁ

「さあ、麗音を捜さなきゃ」

 ブラッドフットは龍に目的を思い出させた。

「おっと、そうだった」

 龍は振り返ると本部の方へ歩き始めた。


-☆-☆-☆-


「おーい、麗音ーっ居るかー?」

 ブラッドフットの声が遠くの山に跳ね返される。

 返事は無い。

 本部の建物の前を通り、訓練場の方へ向かいながら捜すが見つからない。

 第三訓練場にさしかかった時あり得ないものが目に入った。

 麗音と仁が血だらけで倒れている。

「麗音!仁!」

 隣でブラッドフットが叫ぶ。

 駆け寄って見てみる。

_まだ生きてる!

 麗音達の傷はかなり深かったが命に別状はなさそうだ。

「こっちは大丈夫そうだ…でもこのペアがやられたなんて」

 ブラッドフットが仁の様子を見ながら呟いた。

 その通りなのだ。

 これは重大な危機を意味している。このペアは組織の中でも最強クラスだ。そのペアがやられた。

 龍の頭の中を考えが廻る。

 もしこれをやったのが敵だったのなら、並みのペアじゃ相手にならないということになる。

「ギャンッ」

 突然ブラッドフットが痛そうな叫び声を上げた。

 龍が驚いて振り向くとブラッドフットが血飛沫と共に倒れるところだった。

「ブラッドフットっ!!」

 駆け寄って見ると右の脇腹をザックリと抉られていた。

「おい、ブラッドフットっしっかりしろっ!」

「う、龍…剣が…」

「剣?」

 ブラッドフットの言葉に龍は顔を上げた。

「剣がどうしたんだ?」

 またブラッドフットに視線を移してそう訊いた時、突然背筋にゾクリとするものを感じた。反射的に魔力を高め身に纏う。

 バンッ

 前方から数えきれない数の刃の攻撃受け、龍は後ろ向きに倒れこんだ。

 背後で木が削られる音が耳に入る。

 衝撃を受けた瞬間に魔力を盾のようにしたが、どうやら間に合わなかったらしい。右肩が少し斬れている。

 龍は立ち上がると攻撃が飛んで来た方向を見た。

「!!」

 ブラッドフット達を挟んだ向こう側に長くて黒いマントを着た人物が立っていた。顔は目深に被ったフードのせいで見えない。

 昴から、敵は皆黒いマントを着ていたと聞かされている。

 目の前の黒マントは同じ場所から一歩も動かない。

「あ…」

 龍はそいつを観察し、あることに気が付いた。

 たった今その人物が引き抜いた長剣。鍔の部分が羽を広げた燕のようなデザインをしている。それは翼がいつも使っている剣だった。

 龍はダガーナイフを二風抜いて構えた。

「お前は誰だ」

 黒マントに問いかける。

「………」

 答えは帰って来ない。

「それは翼の剣だ。翼をどうしたんだっ?」

 龍は敵に向かって走りだした。

_あの黒マントは絶対に何か知っているはず!

 キィンッ

 刃をあわせる。一合二合と打ち合わせ、再び交えて鍔迫り合う。

 おかしい。こいつからは全くと言っていいほど気配を感じない。

 ガカッ

 弱いのか?

 ギキキッ

 強いのか?

 ギャッッ

_それすらわからないのはなぜだ?

 龍は振りきられた剣を飛んで躱した。

 突き出したナイフが相手の頬を掠った。フードが裂け、顔が露わになる。

「え!!?」

 龍は相手の顔を見て驚いた。

 それが命取りになった。

 動きが止まったその一瞬を敵は見逃さなかったのだ。肩口から脇腹まで真っ直ぐに切り下げられた。

 斬られた痛みを感じるよりも先に剣腹で側頭部を殴られ龍の意識は飛んだ。


-☆-☆-☆-


 目を開けると高いゴツゴツした岩の天井が目に入った。

 目だけを横に動かして周りを見る。

 どうやら、洞窟の中のようだ。

_レアルの家か…?でも光が青白い…あそこは松明でオレンジ色だった…はず…

 頭がボーっとしていてなかなか考えがまとまらない。

_そうだ、ブラッドフットは…

…………!!!

 ガバッ

 龍は飛び起きた。

 一気に記憶が蘇る。

 麗音達が倒れてて、ブラッドフットが斬られた。そして黒マント…

「あの黒マント…翼、だった」

 独り呟く。

 そう、ついさっき戦った黒いマントを着た敵は行方不明の翼だったのだ。

「なんであいつが…?」

 そういえば、ライトニングクローがいなかった。

_それに…

 龍は裂けたフードから見えた翼の瞳を思い出した。生気がどこにも感じられなかったのだ。

_心を無理に殺している…?

「…わかんねぇ」

 ため息をつく。

 考えても分からないのでそれは、おいといて…

「ここは何処だよ?」

 とりあえず探索に出かけようと思う。

「普通もっと慎重に動くだろ、知らない場所だったら」

 突然頭上から声がした。

 驚いて見上げると男が一人、脇の大きな岩の上に座っていた。

 白銀の髪に紅い瞳。以前良く夢に出て来た男だった。

「よっと」

 龍の少し前にその男は飛び降りて来た。

「よう、龍。やっとまともに話しが出来るようになったなぁ」

 どんどん歩み寄って来る。

「お、お前は誰だ?」

「俺か?俺の名はキバ。お前の刀の本当の持ち主さ。ついでにここはお前の心の中だ」

「俺の刀の持ち主?心の中?」

_俺は刀なんか扱ったことないぞ?

「そうさ。何回か来た事あるだろ?俺にも会ってる。ただ、前は魔力が不安定で弱かったからこう自由に話せなかっただけだ」

「お前は…?」

「だから、お前の刀の本当の持ち主だって」

 そういうとキバは手を上から下に振り下ろした。手に刀が一風握られている。紅い柄の刀だ。柄頭からこれまた紅い飾り紐が垂れている。

「さて、ここからが大事な話だ」

 間髪を入れずに話す。

  “ここからが”っていままでのも結構重大な事を言ってた気がする。質問攻めにしたいところだが、その隙が無い。

「俺とお前の間にはまだ契約が成立していない。だから、俺の力も表面化したものにならないんだ」

「契約って?」

 龍はおもわずそう訊いてしまった。

「やり方はわかんないんだ。いくつかあるもんで。とにかく一度これを持って見てくれ」

 キバが刀を差し出して来た。

 龍はそれを受け取る。

 受け取った途端、ゾクゾクと歓喜のようなものを感じた。自然に魔力も高まる。

「どんな感じだ?」

「なんか、すげえ…」

「そうだろ。反応見てて分かるぜ」

 キバが刀を受け取った。

「強くなりたいか?」

 訊いてくる。

 龍は頷いた。

「これは双竜爪牙刀ソウリュウソウガトウ、銘は“逆鱗”だ」

 キバが話しながら龍の正面へ移動した。

「この刀は元々二刀一対。俺の刀だった。俺にはずっと戦っていた敵がいて、約千年位前にそいつと決着を着けた。結果は俺が勝ったが俺はあいつが再び戻って来ることが分かっていた。だから刀に自身を封印して機会を待ってたんだ」

 キバは刀を持ち上げた。

「でもなんで俺とそっくりなんだ?」

「さあな。多分身体をつくる時に魔力が足りなくてお前のを少し借りたからだろ。それにまだ完全な魂じゃないし」

 そして龍の目を真っ直ぐに見た。

 強い光を宿した深紅の瞳。不可視の力がそこから出ているようで目をそらせなくなる。

「こいつの相棒を見つけてやってくれ。そしてかつて俺が戦った敵を斃せ」

 グサッ

「ぐっ!!?」

 キバが持ち上げた刀をそのまま龍の腹に突き刺したのだ。

 足の力が抜けて膝を着く。

「な…にを…?」

 龍は目の前に立っているキバを見上げる。

 そのキバは唇の端を持ち上げて言った。

「契約、成立だ」

_契約…?

 急に腹に刺さった刀が光を放った。刀が金色の砂のようになって貌が変わる。それはサラサラと流れていって、左手の手首に巻きつくように黒い模様を刻み付けた。同時に腹の傷も治る。

「これは…?」

 自分の手首に現れたその模様に触れて龍は言った。

「その模様は刀との契約の印だ。反対の手で擦ると刀が出現するようになっている」

 龍は早速やってみた。

 模様が紅くなり、二風の刀が現れる。

「実体は一風だが、今は二風になるようにしてある。もう片方が見つかったらそれは一本の刀になる」

 キバが刀に触れた。

 刀はまた粒子になって龍の手首の模様も黒色に戻った。

「一つ訊きたい。なんでお前が戦った奴を斃さなきゃいけないんだ?」

「おそらく本部襲撃にそいつが関わっているからだ。あ、お前そろそろ戻った方が良い。じゃないとあの子達、死ぬぞ。お前の出血は少しの間だけ抑えておいてやるから」

「どうやって帰るんだよ?」

 龍の問いにキバは微笑んだ。

「望めばいい」


-☆-☆-☆-


「…ん…?」

 龍は目を開けた。

 自分は地面にうつぶせに倒れていた。

 ゆっくりと起きる。

 キバが言った通り確かに出血は止まっている。止まってはいるが……

_めっっっちゃ痛い!気を失いたいくらい痛い!!これを我慢しろと⁉

 龍は横を見た。

 ブラッドフットが倒れている。その向こうには麗音と仁が。

_我慢、するしか無いんだよな…

「はぁー…」

 ため息を一つつくと傷の痛みを無視して立ちあがった。ゆっくりながらも急いでブラッドフットのところまで行くと、ブラッドフットの脇腹の傷に手をかざした。

 魔力を集中させる。治癒はできないが圧迫したら止血するくらいはできるかもしれないと思ったのだ。

「ブラッドフット、起きろ」

 目を瞑っているブラッドフットに話しかけた。

 ブラッドフットの目がゆっくりと開く。

「よう、龍…大丈夫、か?」

「大丈夫じゃねえけど、行動はできる。ブラッドフット、立てるか?」

「…何とか」

 ブラッドフットは立ちあがった。

「じゃあレアルの洞窟まで行けるか?」

「頑張ってみる」

「先に歩いててくれ。俺は麗音達を運ぶ」

「分かった」

 龍はブラッドフットが歩き去るのをしばらく見守った。

 ふらふらして足取りが危ういので見ててとても心配なのだがどうしようもない。

 龍は麗音と仁の傷もブラッドフットにやったように止血した。

「…龍、か?」

 仁が目を覚ました。

「仁、歩けそうか?」

 龍が訊くと仁は無言で起き上がった。そのまま立ち上がろうとする。

「くっ」

 顔をしかめて片膝をついた。

「無理すんな」

 龍は麗音を担ごうとしながら仁に言う。

「麗音!」

 仁が麗音を見て叫んだ。あまり大きい声はでてないが。

「大丈夫だ。死んでないから」

 龍は麗音を担いだまま、仁を立たせた。支えて歩き出す。

「すまない…」

 仁は支えられながらも龍の負担を減らそうとしてくれた。


-☆-☆-☆-


 洞窟が見えてきた頃、龍は自分の傷口から静かに血が滴り始めた事に気づいた。

 そういえば、キバは出血を抑えるのは少しの時間みたいな事言ってたな。

 龍は自分の傷も魔力で止血した。これで良し。

 麗音をずり上げて歩き続けた。

仁も汗だくではあるが、歩みは止めない。

 だが洞窟はなかなか近くならない。

 龍の体力も限界になってきた。魔力で止血したうえに人二人担いでいるので仕方ない。体力と共に魔力の残量も少なくなる。

 龍は自分以外の傷の止血に集中した。

「もう少し持たせてくれ。キバ…!」

 自分の傷はキバの止血に頼るしかない。歯を食いしばって歩く。

 大分洞窟が近くなった時、その入り口に煌とソーンテイルが現れたのが見えた。

 二人はこちらを見つけると、すぐさま風渡りでんで来てくれた。

 二人が来てくれた事で気が抜けたのか龍の足は三人分の体重を支えきれなくなった。

「おい、大丈夫か?すごい血だぞ」

 煌が話しかけてきた。

「ちょっとやばいかも」

「いやその状態はちょっとじゃないだろ」

 それ言うなら“大丈夫か?”なんて訊くなよ。

 龍は心の中で突っ込んだ。

「ソーン、こいつを先に運んでくれ」

 煌がソーンテイルに言う。

「わかった」

「俺よりも麗音の方が重傷…」

「さっきはそうだったかもな。でも今はお前の方が重傷だぞ。それにこいつは見かけ以上に頑丈なんだ」

と、いうことで。

 一番最初に仮設診療所に連れていかれた。

 今回は行くしかないけど(重傷なので)正直言ってあそこは行きたくない。

「龍っ!待ってたわよ~」

_出た。

 G・フィーストの名医、ダリオス。皆に名医と呼ばれるだけあって腕は確かなんだが、先に言っておこう。こいつは男だ。しかもゴツい。体格も結構いい。

「さあ、あそこに横になりなさ~い」

 なのにお姉キャラ。…少し苦手。

 横になるというより、寝かされる。

 そして…

「消毒、沁みるわよ~」

 ジュッ

「ぐはっッ」

 この人の治療はものすごく荒い。

 今だって消毒液をぶっかけられた。

 パッと傷口を縫い合わせてしまう。麻酔も使わないのに縫うのは痛く無い。

 なぜかは知らないけど。

 あとは、得体の知れない紫色の薬を塗って治療完了。

「しばらく入院ね」

 そう言うとダリオスは離れて行った。

_しばらく入院、か…

 こうして龍の入院生活は始まった。

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