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〜襲撃〜

G.フィーストが襲撃を受けた。

 捕まった翼は暫く真っ暗闇の中に閉じ込められていた。何か部屋らしいのだが、後ろ手に縛られているのでうまく調べられない。しかもどうやらここは魔力を発現できないようだ。

_魔力が使えたら手枷を外す事も灯りを点ける事もできるのに。

 暗闇なので時間の流れもわからない。

_あれからどの位経った?ライは助かっただろうか?

 座り込んで考えているといきなり目の前に四角い光が現れた。

「う!?」

 ずっと暗闇にいたので光が目に浸みて開けられない。後ろ手に縛られているので手も使えないのだ。

 そこを両側から腕を掴まれ無理やり立たされた。

「来い」

 光の方へと歩かされる。

 完全に光の中に出た時、自分の周りに複数の気配を感じた。

 無理して目を開けるとうっすらだが何丁もの銃剣らしきものに囲まれているのが解る。

 ふっと薄暗いところに入った。

 そこは大きめの部屋だった。壁は石壁で窓は無い。ただ、部屋の中心に床から天井まで柱が届いている。

_嫌な予感がする…

 翼は逃げようと思った。

 さっき光の中を通ったからおそらく出口は近くだ。

_銃剣がえーっと、2、4、6…10人か?

 まずは両側の二人だ。

「う…っつー」

 翼は腹が痛いふりをしてしゃがみ込んだ。

 当然皆止まる。

「おい、早く立て」

 右側の奴に引っ張られた。

 翼はある考えを実行した。

 腕を引っ張っている手を振りほどくと後転、その間に後ろに縛られている手を足の方から前へまわす。ついでにブーツの中に隠し持った短剣を取り出した。そして、タンッ

 床を衝いて跳ね起きる。すぐさま攻撃に移るべく駆け出す。

「動くなっ!こいつがどうなってもいいのか?」

 一人目の首筋に短剣が当たる直前に翼は動きを止めた。背後にもはや、馴染みきった気配、ライトニングクローの気配を感じたからだ。

_まさかっ!

「動くなよ?まずは武器を捨てろ」

_まさか、嘘だ。俺が捕まる代わりにライは解放するって…

「疑っているようだな。おい、一言喋れ」

 何も聞こえてこない。

「喋れってんだよっ」

 ドスッ

「いっ…」

 一瞬聞こえた声で確信した。

_ライだ。

 バッと振り向く。

「ライ!」

「翼ぁ…!」

 人型のライトニングクローは後ろ手に縛られて拳銃を突きつけられていた。

「ごめん翼。僕いつも…」

 泣きそうになっている。

「いい。お前は悪くない。大丈夫だ」

「ほら、早くその剣放しな」

 ライトニングクローに銃口を向けている男がナイフを取り出しながら言う。

「お前はっ!」

 キンクアイルの扉の前で戦っているところに現れ、ライトニングクローを捕らえさせた奴だ。

「脅しはこっちの方が効くか?」

 黒髪に黒い瞳。長い藍色の布を首に巻いていた。

その男はライトニングクローの髪の毛を掴むとナイフを首につける。血が滲みはじめる。

 翼は短剣を下げた。

「ダメだ、翼!逃げ___」

 パァンッッ

 銃声が響いた。

「翼っ!!」

 カラカランッ

 翼が放した短剣が音をたてて落ちる。

 放たれた銃弾は翼の左肩を撃ち抜いていた。

 痛みに呼吸がはやくなる。

「ダメですよ、イリア。そんな生ぬるいやり方では。このくらいしても大丈夫ですよ」

 ライトニングクローの後ろの扉から男が入ってきていた。

「すみませんねぇ。君は強いようなのでね、少し手荒くなってしました」

 さっき翼をこの部屋に連れて来た奴らが近づいて来る。

 翼はそいつらから離れようと足を動かした。

 パパァンッッ

 再び銃声が響く。今度は二発だ。その銃弾は正確に翼の両足を貫いた。

 立っていられなくなり、膝をつく。

「私はイビデラム・ド・ウァロムと言います。まあ、覚えなくてもいいですけどね」

 見た目の年齢はアースと同じくらいのその男は、翼の周りの男達に翼を柱に繋ぐように命令した。

 銃剣を持っていない奴に両側から腕を掴まれて引きずり立たされた。

「つあっ…!」

 左肩と足の銃創から血が噴き出す。歩けないのでズルズルと柱まで引きずられて、もたせかけるように縛られた。

「翼!」

 ライトニングクローが自分を呼ぶ声が聞こえる。

「動くなって」

 駆け出そうとして、さっきイリアと呼ばれた男に髪を引っ張られている。

 首に突きつけられたナイフの元で滲み出す血が濃さを増した。

「ライ…大丈夫..だから」

_とにかく落ち着かせよう。

「そう。大丈夫ですよ。少し魔術をかけるだけですから」

「魔術…?」

「ええ。君は私の傀儡マリオネット。操り人形です。私の命令通りに仕事をしてもらいますよ」

「命令通りに…」

「そうです」

「そんなのやだっ!翼!!」

 ライトニングクローが前よりも暴れ出す。

「翼…!」

「ライトニングクローっっ!」

 翼は怒鳴った。

 ライトニングクローはピタリと動きを止める。

「大丈夫。大丈夫だから」

「でも…」

「大丈夫だ。俺が__」

 カッと足元から光りが浮かび上がった。周りの音が全て消える。

 翼を中心に魔方陣が展開されたのだ。

 紫色の光を放つ魔方陣はそれを明滅させながら回転し始める。次第にそれらがはやくなった。

 翼の身体に激痛が奔る。

限界を超えた痛みに叫び声を上げたが、自分の声さえも聞こえない。

 光の外側でライトニングクローがなにか叫ぶ姿が見えた。


-☆-☆-☆-


「いつ襲撃されたんだ!?」

 キンクアイルを駆け抜ける仁の背から麗音がスノーストームに訊いた。

「深夜よ。多分11時頃」

「あたし達がちょうどキンクアイルに入った頃だ」

「なぁ、それからどの位経ってるんだ?時間の流れが違うんだろ?」

「3時間は確実に経ってるわ。もしかしたら4時間経ってるかもしれない」

「急がないと取り返しがつかなくなるんじゃないか、それ?」

 ブラッドフットが走りながら言う。

「その通りだ。スノーストーム、被害はどの位出ている?」

「正確にはわからないわ。でも結構酷いはずよ」

 バッッ

 龍達はスノーストームを先頭にキンクアイルから飛び出した。

「なんてこった…」

 キンクアイルの出口で皆一斉に立ち止まった。立ち止まる事しか出来なかった。

 それほど目の前の情景が酷かったのだ。所々にあった森は轟々と音を立てて燃えているし、その光に照らされた広々とした草原はあちこちで煙が上がっている。

 一番酷かったのは本部の建物だった。ほとんど全壊している。

「み、皆は…?」

 麗音が震えた声を出した。普段の彼女からはあり得ない事だ。

「生き残った人達はレアルの所よ。避難している。案内するわ」

 スノーストームはそう言って歩きはじめた。


-☆-☆-☆-


「ぐぁ…あぁ‥ぁぁああああああっっ」

「ツバサぁあ!!!!!」

 翼が叫び声を上げる。

 魔方陣はだんだんはやく明滅し、だんだん小さくなっていく。満たす空域を電流が飛び交う。

 そして魔方陣は一瞬縮まるとフッと消えた。

「かはっ…」

 翼の身体から力が抜ける。

 イビデラムが翼に近づいた。

「うむ…いいでしょう」

 そう言って手を持ち上げた。

「何する気だ!?」

 ライトニングクローが怒鳴ると、イリアが後ろに引っ張った。

「お前は黙って見てればいいんだよ」

 顔を寄せて囁いてくる。

 チャリッチャリチャリンッ

 軽い金属音が聞こえた。

 そちらを見るとイビデラムの足元に銃弾が三個転がっていた。翼の傷がふさがっていく。

「傷を………?」

 ライトニングクローは困惑した。

「治すのは当たり前だろ?もうあいつは宰相殿の言いなりだぜ?」

「さあ、放してあげなさい」

 イビデラムの命令で翼の縄が解かれる。手枷もはずされた。

「翼っ!」

 ライトニングクローはイリアを振りほどくと翼に駆け寄った。イリアは別に引き止めたり追ってきたりはしなかった。

「翼!」

 翼がゆっくりとこちらを向いた。

 ライトニングクローはその顔を見て思わず息を吸い込んだ。

 翼の瞳には陰しか映っていなかった。ライトニングクローも光も何も映っていなかった。

「翼…?」

 名前には反応するが、それだけだ。

「では翼」

 イビデラムが翼に話しかけた。

「その子を黒野の間に連れて行きなさい」

「…は..い」

 翼はライトニングクロー腕を掴んだ。

「翼!?」

 引っ張られて歩き出す。が、二、三歩もいかないうちに突然翼が立ち止まった。

「くっ‥うぅぅ」

 ドサッ

 その場にくずおれる。

「うあぁぁああっっ」

「翼!どうしたの?」

 なんかわかんないけど凄い痛がってることだけは確かだ。

_どうしちゃったんだよ?翼!

「ぐはっ…はぁ‥はぁ‥はぁ…」

 痛みがひいたらしく、荒い息を落ち着けている。

「命令には素直に従った方が身のためですよ」

 イビデラムがその様子を見て言う。

「なんでこんなことを…!!」

 ライトニングクローはいままでにないくらい自分が怒っていることを感じた。

_狼の姿に戻れればなんとかできるかもしれない。

 ライトニングクローの手を後ろに縛りつけている縄の対魔の呪力のせいで戻れないのだ。だが、切らなければならない。

 ライトニングクローの全身を黄色の魔力が包む。

「無理ですよその縄が切れないのは知っているでしょう?」

「そんなことないっ!」

_龍はこれを焼き切ったんだから!

 …ドスッ

「うっ!?」

 溝尾に重い衝撃が走った。

 顔を上げると翼と目があった。何の感情も無い冷徹な目と。

「翼…どう‥し‥て…」

 ドサッ

 ライトニングクローの意識は絶望の暗闇へと落ちて行った。


-☆-☆-☆-


 レアルの家に着いた。家と言っても山の中にある洞窟の様な所だ。

「これ、だけ?」

 そこに集まっている仲間を見た麗音が言った事である。

 確かに少ない。あんなに沢山いたソルジャー達は半分程に減っていた。しかもほとんどが怪我を負っている。

「麗音!龍!」

 洞窟の奥から煌と昴が走って来た。傷だらけの戦士達の中でこの二人だけは無傷に近い。あったとしても擦り傷程度だ。

「翼は?」

 龍は煌に訊いた。

「一緒じゃないのか?」

 煌が訊き返してきた。

「お前らと一緒だと思ったからそんなに気にしてなかったんだ」

「ちょっと待って下さい。さっき翼を見た人がいましたよ。黒マントと一騎討ちしていたそうです」

「黒マント?」

「敵です。全員黒いマントを着ていました」

「で、その後は?」

「わかりません。その人も違う奴と戦っている最中だったので見てないと言っていました。他にも行方不明者は沢山います」

「くそっ」

 麗音が踵を返した。

「麗音!どこ行く気だよ?」

 煌が引き止める。

「探しに行く」

「探しにって、翼を?」

「当たり前だろっ」

「ダメだ麗音。今は危な…」

「知るかっ」

 麗音は煌の制止を振り切って走り出した。

 パシッ

 昴の手が麗音の腕を捉えた。

「探しに行く前に、アースに会って行ったらどうです?」

 その一言で麗音は足を止めた。

「なんかあったのか?」

 不安そうに訊く。

「完全に無事とは言いませんが、生きてはいます」

「生きてはいる?どういう事だよ?」

「アースは怪我を負っているんです。…左肩から右脇腹にかけて」

「なんでそんなとこ…」

「不意討ちです」

「馬鹿なっ!アースがそんなもんでやられるもんかっ」

 麗音は昴に食ってかかった。

「案内します」

 平然とそう言って昴は洞窟の奥へと歩き出す。

 龍達はその後を無言でついて行った。

 洞窟の中は松明の灯りで照らされている。そこを奥まで進むと木の扉が並んでいる所へ出た。

 その一つを昴はノックした。

「失礼します」

 扉を開けて中に入る。

「アース、麗音達が帰って来ました」

「おう、そうか」

 アースはベッドの上に半身を起こしていた。胸から肩にかけて包帯が巻いてある。その包帯には血が少し滲んでいるのだが、本人はそんなのなんでもないようにしている。

「よく来たな。おう麗音。一杯、どうだ?」

 コップを持ち上げる。

「ばっ…馬鹿野郎っっ」

 麗音は身を翻して出て行ってしまった。

「…俺なんか悪い事言ったか?あいつ今泣い_」

 ドガッ

「_てねえっっっ」

 麗音が瞬間移動したのかと思うような速さで戻って来てアースをぶん殴った。そしてツカツカと部屋を出て行く。

_怪我人を殴って大丈夫なのか?

龍がアースの方を向くと、案の定。

 アース死亡。

「なんちゃって!」

 アース復活。

_じゃなくて。

「あんた大丈夫なのかよ?」

 龍は訊いた。

「大丈夫なもんか。ったくザックリやられちまった」

「俺の忠告を聞かないで一人で出歩くからです。しかも武器も持たずに」

 副司令官の珀が扉を開けて入って来た。こちらは左腕に包帯を巻いている。

「そりゃアース、その傷もしょうがねぇじゃねぇか」

 珀の後から入って来た男が腕組みをして言った。

 白髪にヒスイ色の瞳をした男だ。右目に眼帯を着けている。その眼帯の下から、爛れたような傷が見えていた。

「そう言うなよ」

 アースが照れたように頭を掻く。別に褒められてるわけじゃないだろうに。

「ん?」

 その男が龍の方を向いた。

「お前、スカーレット・ウィンドの新入りか?」

 訊いてきた。

「入ったのは3ヶ月位前…」

「じゃあ新入りだな。俺お前の名前知らないし」

「ああ、それの名前は魅神龍です」

 昴が割って入った。

「龍か…俺はレアルだ。フルネームはレアル・フォースザウラク。この洞窟に住んでる」

「私のパートナーよ」

 スノーストームがレアルの隣に行く。

「今回珀から怪しい動きがあるって聞かされてたんだろ?」

 レアルはアースに向き直って言った。

「まあそうなんだが…」

「うっかりした、と」

「…そんなところだ」

 それを訊いてレアルはため息をつくと珀の肩にポンと手を置いた。

「お前、苦労してるだろう。もうちょっとしっかりして欲しいよな」

「まったくその通りですよ」

「なんだと!」

で、アースが怪我人のくせに暴れ始めたので、龍、煌、昴の三人はそそくさと退室した。


-☆-☆-☆-


「龍、龍っ!起きろ!」

 仮眠をとっていた龍の耳元でブラッドフットが叫んだ。

「ん!?…どうしたんだよ。そんなに慌てて大声出したら耳がイカレるじゃないか…」

「慌てるのも当たり前さ!麗音がいないんだ!!」

 ガバッ

「なんだって!?」

 龍は飛び起きた。耳がイカレるとか言ってる場合じゃない。

「この洞窟の何処にもいないんだ」

「ここから出るなって言われただろ?」

「どこにもいないんだって」

 声が泣きそうになっている。

「仁はどうした?」

「仁もいない。」

「きっと翼を捜しに行ったんだな…でミイラ取りがミイラに…」

「?ミイラ取りが?」

 どうやらブラッドフットはこの諺を知らないようだ。

「あ、気にするな。帰って来ないってことだから。ほら俺達も行くぞ」

 めんどくさいので諺の説明は省く。

「おう」

 ここで真面目に命令を守って洞窟から出ないと言わないところがこいつの良いところだと思う。

 本当はいけないのだが…まあそこは無視することにする。

「でもどうやって抜け出すんだ?」

「考えがある。お前、階級は渡風って言ってたよな?」

「うん」

「この前、渡風は風を渡るって言ってたよな?」

「うん」

「あれ、魔力の風でもイケるか?」

「え?」


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