〜異世界へ〜
チームの仲間数名と異世界へ行く事になった龍。
通路を抜け、初めてまだ来た事のない世界へと足を踏み入れたが…
翌朝、朝食を食べている龍の所に翼がやって来た。
「龍、後でアースのところに行ってこいよ」
持って来た朝食を龍の隣に持って来て座った。
「ん…なんでアース?」
「異次元に行くには通行許可証がいるんだ。まだもらってないだろ?」
「もらってない‥通行許可証?」
「行けばわかる。午前中にもらって来いよ。今日の夜異世界に行くことになったから」
「わかった」
ということで、食べ終わった龍は、本部に向かって歩き出した。
ブラッドフットは昇級試験があるとかで、朝早くから出かけている。
総司令室に着くと、一応ノックをして中に入った。
「おう、龍。呑むか?」
アースが酒瓶を突き出して言ってきた。
_うわ、朝っぱらから呑んでる…
「要りません」
「ってか、なんでこんなとこ来たんだ?」
「今日の夜、異世界に行くとかで…何かの通行許可証とかをもらって来いと翼に言われました」
「ああ、キンクアイルのか」
アースは手元のコップに酒を注ぐ。
「キンクアイルって何なんですか?」
「世界と世界をつないでいる道のことだ」
コップの酒を呑み干して掌サイズの箱を取り出した。
「ほら、これだ」
「ありがとうございます」
龍は受け取った箱を開けて見た。なかには何やらピンポン球の様な物が入っている。
「…なんですか、コレ?」
「だから、許可証だ。卵だがな。魔力を込めてみろ」
言われた通り、魔力を込めてみる。すると、ピンポン球に変化があった。何ともなかったそれはだんだん暖かくなり、ヒビが入る。
最終的に割れて中から小鳥が出て来た。
真っ赤で尾が長い。しかし一番の特徴はその羽だ。なんと四枚も羽を持っているのだ。
「キンクアイルの通行許可証、通行鳥だ。名前を付けてやれ」
アースはまた酒を注いだ。
「名前ですか…」
[かわいいのがいい!]
_喋った!
「お前、喋れたのか」
[あたりまえでしょ]
「じゃ、名前何がいい?」
[だからかわいいの!]
「お前雌か?」
[やだなぁ、おんなのこっていってよ]
この言葉を聞いてアースが噴いた。
「はっはっはっ、ませてんなぁ」
小鳥はアースのところまで飛んで行き、その頭を突っついた。
「痛てっやめろ!」
アースは頭を抱えてうずくまる。
「おーい、ホムラってどうだ?」
龍はアースの頭を突つきまくっている小鳥を呼んだ。
[なまえ?]
「そうだ。炎って意味だぞ」
[え~、あんまかわいくないじゃん。ほかのがいい~」
「そうか?俺は炎って綺麗で好きだけどな」
[そうなの?…やっぱホムラでいい!…あ、べつにあんたがほのおがすきっていったからじゃないから!」
何というか、ツンデレ?
_変わった奴だな。…かわいいけど。
-☆-☆-☆-
アースのところから自分の部屋に帰って来た龍をブラッドフットが出迎えた。何か、とても嬉しそうにしている。
「おかえり龍!」
「おう、ただいま。どうしたんだ?何かすごい嬉しそうだけど」
「ふふふ、驚くなよ…ナント、昇級試験に受かって渡風の上級になったんだ!」
「へ~、良かったじゃん」
「リアクション薄っっ!」
「だって驚くなっていっただろ?」
「そーゆー意味じゃないもん」
_あ、何か拗ねたっぽい。
[あんただれ?]
ホムラが龍の首の後ろから顔を出して訊いた。
「龍、この子は?」
「俺の通行鳥…だ」
[ホムラ]
「へぇ、ホムラちゃんって名前なの?いい名前だね。俺はブラッドフット。 よろしく」
[リョウのあいぼう?]
「そうだよ」
[うふふ、よろしく!]
「ホムラちゃん、遊びに行こうよ」
[いいよ~]
「んじゃ龍、行って来るね」
二人は出て行った。
「おう、行ってらっしゃい」
_前から思ってたけど、ブラッドフットって歳のわりにやることが若いよな…さて、夜出発するんだったな。準備しよっと。
龍は準備をし始めた。
-☆-☆-☆-
「龍、そろそろ行くぞ」
夕飯を食べ終わって暫くしたころへ麗音が声をかけてきた。
「おう」
龍は返事をすると立ち上がった。
「あたしと翼も行く」
麗音が歩き出した。
龍もついて行く。
「歩きながら説明する。通行鳥は連れてるか?」
[ホムラだよ]
ホムラが飛んで来て龍の肩に止まる。
「かわいいな。あたしのも紹介しよう」
麗音は口に手を持っていき、ビュイーッビュイーッと達者に指笛を鳴らした。
バサバサッ
小さめの鷲が麗音が伸ばした腕に舞い降りて来た。
それを見たホムラはサッと龍の首の後ろに隠れた。
「怖がんなくていいぞ。こいつは何もしない。紹介しよう。こいつがあたしの通行鳥。名前はカイ。見た目は鷲よりも鷹に近いな」
と、龍では無くホムラに向かって言う。
ホムラは龍の首の後ろからそろそろと顔を出したが、カイと目があった瞬間、また隠れてしまった。
[なんや、おれがこわいんか?]
カイがしゃべった。
_まさかの関西弁?
[だいじょーぶやて、なんもせぇへん]
_関西弁だ…
カイはまたバサバサと飛んで来ると龍の左肩に止まった。
ホムラが慌てて右肩に移動する。
「おーい、龍。俺を置いてくなよ」
遠くからブラッドフットが駆けて来た。今は狼型だ。
龍の左肩からカイが飛び上がった。ブラッドフットめがけて一直線に飛んで行く。
「おお?」
ドンッゴロゴロベシャッッ
正面衝突。
_ベシャって、音がしたぞ…何したんだ?こいつら。ブラッドフットひしゃげてるしカイは消えたし。
「よっこらしょ。おーいカイ、大丈夫か?」
ブラッドフットが立ち上がると、なんとその下からカイが出て来た。
[う、なんとかな。しかしひさしぶりやなぁ]
「そうだね、この前龍を連れて来た時以来だもんね」
これを聞いて龍は不思議に思った。
「そういえば、キンクアイルを通るのには通行鳥が必要なんだろ?何で俺はこっちに来れたんだ?」
「あぁ、それは」
麗音が思いついたように話し出す。
「お前魂だけだったし、荷物扱いにして申請出したから」
何事でも無いように言う。
_もっとなんか他の言い方ないのか!
龍の心の叫びである。声に出すと麗音がどう動くか心配なので。
「ほら、何してんだ行くぞ」
麗音がブラッドフット達に向かって言った。
「ちょっと待て」
麗音は行くぞと言ったくせにすぐに立ち止まった。
「翼の事忘れてた」
「そうだよ。何で俺に声かけずに行こうとしてるんだよ?」
翼とライトニングクローが建物の陰から現れた。
「よーし、そろった」
麗音が歩き出す。
_おーい、リアクションそれだけですかっ
龍も歩き出す。
_あれ、ホムラ何処行った?
さっきまで首すじに居たホムラがいなくなっている。
辺りをを見渡すと、ブラッドフットの耳の後ろに止まっていた。カイの方を窺っている。
[きみ、なまえなんていうん?]
[ホムラ]
[ホムラか。ほのおちゅういみやね。なんや、いいなまえやないか]
[リョウがつけてくれたの]
[そうか、そらよかったなぁ]
[うん!]
[ま、なかようしてや~]
どうやら仲良くなったようだ。
「行くってさ」
龍は二羽と一匹を呼んだ。
[うん]
ホムラが飛んで来て肩に止まった。
_羽有るんだから飛べばいいのに。
-☆-☆-☆-
「これがキンクアイルの入り口だ」
目の前には大きな扉。
麗音が扉を開ける。
中はまるで雲の中のように霧状の物が渦巻いている。
[そやホムラ]
仁の上に乗っているカイがホムラに話しかけた。
[あっちについたらはねにまいにしい]
[えー。なんでぇ?]
[あっちにはそんなとりいいひんからや。つかまったらいっしょうかごんなかや。わかったか?]
[…うん。わかった]
籠の中と聞いてホムラも納得したようだ。
「よし、行くぞ」
麗音がキンクアイルに入りかける。
「ちょっと待った。まだランが来てないんだよ」
「まだ来てないのか?」
キンクアイルに片足を入れたまま麗音が振り返る。
「もうすぐ着くらしいけど…あ、あいつ通信機着けてるから」
最後の方は何故来るのがわかるかの説明なのだが、その説明をしている途中でやけに青いツバメが飛んで来た。そのツバメはスイーッと滑空して来ると、翼の頭の上に止まった。
[ごめん!ツバサがむかえにきてくれないからきにぶつかりそうになったんだよ!]
「俺のせい!?」
[ワタシたちがよるよくみえないのしってるでしょ?]
「あ…」
[まさか…]
ランの目がキラーンと光った(ような気がした)。
[わすれてたっていうんじゃないでしょうね!?]
翼の頭を突つく。ツバメのくせに突つく速度がキツツキ並に速い。
「いてっ、やめ痛っっ悪かった。悪かったよ!突つくのは止めてくれ!」
翼は頭の上からランを除けようとするがランもなかなかしぶとい。
「ったく、先行くぞ。行こう、カイ」
翼とランのドタバタ劇を見ていた麗音だが、とうとう踵を返した。
[よっしゃ]
カイが仁の背中で羽を広げた。
その羽が二つに分かれなんとホムラと同じ様に四枚になった。ランも同じ様に羽が分かれる。
[いつでもええで?]
「よし、出発だ」
麗音の合図とともにカイはキンクアイルの靄の中に飛び込んだ。
麗音と仁がそれに続く。
[リョウ、ついてきて]
ホムラも四枚の羽をはばたかせて靄に向かう。
「おーい翼、行かないのか?」
龍は一応まだ突つかれている翼に声をかけてからキンクアイルに入った。
中に入るとホムラは紅い光を放ちはじめた。少し前を麗音と仁、そしてオレンジ色の光を放つカイが進んでいる。
後ろを振り向いたが、翼達らしき影は無い。まだ突つかれてるのか。
紅く光るホムラについてひたすら歩いていると、突然靄の外に出た。
前方に麗音達が立っている。
カイは既に普通の鷹の姿になっている。
ホムラもいつの間にか羽を二枚にしていた。
「ここからは少し急ぐぞ」
「着いたのか?」
周りの景色は思いっきり山の中だ。
「一番近いところに出た。仁、どうだ?」
「ああ、いい風が吹いている」
「じゃあ行くか」
麗音は仁にまたがろうとして止まった。
「そういえば、翼はまだ来ないのか?」
「来る気配さえ無いぞ」
「ちょっと待つか」
-☆-☆-☆-
「ちっ、何してるんだか」
麗音が舌打ちをした。
翼を待ち続けて既に一時間は経った。
そろそろ心配になってくる時間だ。
「置いて行こう」
_え、心配じゃないのか?
麗音が再び仁にまたがろうとした時、キンクアイルから何か飛び出して来た。純白の狼だ。
「スノーストームっ!!」
ブラッドフットが駆け寄る。
どこか嬉しそうだ。
_純白の狼なんて珍しいんだよな?
「なぁブラッドフット、もしかして…」
「大変よっ!!」
龍の声はスノーストームの声にかき消された。
「G.フィーストが襲撃されたわ!」
スノーストームが叫んだ。
一瞬の沈黙。
「「なんだって!?」」
そこに居た全員の声が重なった。