〜役者〜
翼はイビデラムの命令でライトニングクローを黒野の間という名前がつけられた部屋(翼が閉じ込められていた牢獄)
に運んだ。そして、気配を完全に消すマントを着せられ、G・フィーストの本部へと向かわされた。
-☆-☆-☆-
荒らされた本部の敷地を歩く。
翼の身体はイビデラムに支配され、意識も飲み込まれかけていた。かろうじて自分が何をしようとしているのかが分かる程度しか意識を保っていられない。
どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
林の向こうに麗音と仁が見えた。
左手が勝手に腰の剣にのびる。
シュラ…
微かに音を発てて長剣が抜かれる。
_やめろ…!
しかし身体は止まらない。振りかぶったその剣を袈裟斬りに一閃、横凪ぎに一閃した。
刃先から放出した翼の魔力が無数の刃となって真っ直ぐに麗音達のところへ飛ぶ。
「がっっ!?」
「う゛!?」
二人はそれぞれ傷口から血を吹き出して倒れる。
翼の剣、“ブルースウィフト”の能力だ。
翼の魔力を消費し、鉄の刃を飛ばす。
その刃は少し変わった形をしていて全く音をたてず、気配も感じさせない。
翼は剣を手に持ったまま、麗音達のほうに近寄った。
その時、誰かの気配を感じた。
「麗音ーどこだ!」
「仁も一緒にいるだろー‼」
麗音達を探すその声は二、三回続くとピタッと止まった。
「麗音!!?」
麗音のところへ駆け寄ってくる。
龍とブラッドフットだった。
刃が二人に向かって飛ぶ。
龍のほうは外れたが、ブラッドフットのほうは脇腹に当たった。
「ブラッドフット‼」
龍がブラッドフットに駆け寄る。
龍の前に歩み出る。
翼は(正確には翼の身体は)ブルースウィフトを一閃させた。刃が龍に向かう。直撃コースだ。
_避けろ、龍っ‼
しかし龍はブラッドフットを見ていて飛来する刃に気付かない。当たる直前で顔を上げた。
ドッ
龍は後ろに吹き飛ばされた。しかし転がってすぐに立ち上がる。
_よかった。当たらなかったのか?
そして翼は気付いた。紅い魔力が刃が当たっただろうところから流れる。魔力で防いだのだ。だが防ぎきれずに右肩に傷を負っている。
龍の視線が翼の左手、ブルースウィフトのあたりで止まった。
「お前は誰だ?」
ダガーを二風抜いて構える。
「その剣は翼のものだ。翼をどうしたんだっ!?」
斬りかかってきた。
_違う、龍‼俺は__
シャッ
龍がつきだしたダガーがマントのフードを斬り裂いた。
龍は目を見開いて一瞬動きを止めた。
翼の剣が降りおろされる。
ザシュッッ
ブルースウィフトは龍の胸に斜めに真っ直ぐな線を残す。
_龍っっっっ‼
脳天に突き抜けるような衝撃がった。
横凪ぎで、 もう止められない剣の角度をかろうじて変える。
ガァンッ
龍側頭部に剣腹が当たった。
また痛みが走り、続いて意識がはっきりしたのを感じた。
「り、龍‼」
しゃがみこんで様子を見る。
龍は目を開けない。でもどうやら気絶しているだけのようだ。
傷口の様子を見ようと手をのばした時、身体を激痛が襲った。まだあの魔術が解けていないのだ。
意識が一瞬遠退く。
「くそっ」
歯を食い縛って耐える。
_早く龍達に治療をしないと…
しかしそれどころではない。少しでも気を抜けばすぐさま引き込まれる。
その時いきなり後ろから殴られて気をうしないかけた。
脳震盪で動けないところを担がれる。
一瞬、藍色の長い布が見えた気がした。
-☆-☆-☆-
目を開けると知らない部屋だった。
どうやら気を失っていたらしい。
「ここは…?」
「ここは俺の部屋だ」
扉を開けてイリアが入ってきた。
翼はそれを見て跳ね起きようとしたができなかった。身体が妙に重い。凄まじい脱力感がある。
それでも翼は身体を起こした。
何しろ相手は敵だ。何があるか分からない。
「そう睨むな。俺はお前にかけられた術を解いてやったんだぞ?」
そう言われれば身体は重いけど痛みはない。意識もはっきりしている。
イリアは入ってきた扉とは違う扉を開けた。
「おい、入って来い。目、覚ましたぞ」
扉の向こうに呼び掛ける。
途端に、バタンッと音がした。
「なんで何も無いところで転ぶんだよ?」
イリアが呆れたように言う。
「翼!」
戸口に現れたのはなんとライトニングクローだった。
「ライ!?」
「翼あぁ」
ライトニングクローはぶわっと涙ぐむと飛びついてきた。わんわんと泣きじゃくる。
もう16歳だというのに凄い泣きっぷりだ。
「泣くなよ」
ぽんぽんと肩を叩いてみたが泣き止むどころではない。
「ちょっ、静かにしろよ!」
あまり大声で泣くので翼は心配になった。
「音のことなら大丈夫だぞ。ここは完全防音になってる。」
顔を上げると、イリアと目があった。
「なんで俺達を助けたんだ?」
戸口のイリアに聞く。
「それは………」
言いかけてイリアは口をつぐんだ。ライトニングクローに視線を移す。
「…泣き虫な狼だな。まずはそいつを落ち着かせろ。話はそれからだ」
部屋を出て行ってしまった。
ライが泣き虫なのを否定できないところがなんか悲しい。
しばらくしてライトニングクローが落ち着くとイリアは入ってきた。
「やっと落ち着いたか」
椅子を持ってきて翼の向かい側に座った。
「何から話そうか?」
「なんで俺達を助けたんだ?」
翼はすかさず質問した。
「…まぁ、ぶっちゃけ俺の気まぐれなんだがな」
「気まぐれ!?」
「ああ。そろそろここから離れようと思ったからな…正直、俺一人だと“逃げる”になる」
「どういう意味だ?…そもそもあんたはあのイビデラムってのの仲間だろう?」
「仲間か…あいつは兄貴の宿敵だよ」
「じゃあなんで?」
「ここに居るか?…情報を集めてる。俺の兄貴は今、行方不明なんだ」
「で、あんたは兄貴の宿敵のところに来て情報を漁ってたが何もなかったと」
「そういうことさ。あの気取り屋を慕うふりしてたけどよ、一緒にいて吐き気がするぜ。それでも収穫は」
ゼロ、というふうにイリアが人差し指と親指で環をつくる。
「そう言うけど、結構様になってたぜ?」
「そうか?まあ昔からこんなことばっかやってたしな」
「諜報員?」
「ああ…それにしてもそいつ全く緊張感無いんだな」
「えっ?」
自分以外にはライトニングクローしかいないのでそちらを見る。
ライトニングクローは翼に寄りかかっていた。
ちょっと待て、もしかしてもしかしなくてもこいつ寝てる?
_もしもーし?…………寝てますね。なんか重いと思ったら…
「おい、ライ」
揺すったが起きる気配さえ無い。
「いつもはこんなんじゃないんだけどな」
翼が起こそうとしているとイリアが
「まあそのまま寝かしといたらどうだ?俺が黒野の間から助け出した時なんかお前の名前を呼びっぱなしで連れて来んのも大変だったんだ。そういやそいつ、名前何ていうんだ?“ライ”ってのは愛称だろ?」
「ライトニングクローだ…それより…悪かった。こいつ怖がりで」
「いいさ。それより本題だが」
「ああそうだ。なんで“逃げる”になるんだ?」
「あの気取り屋は見かけによらず強い。俺一人だとここから姿を眩ましても見つかるのは時間の問題だ。だから斃していこうと思う」
「斃して?」
「そうだ。昔俺の兄貴はあいつを一回斃してる。」
「斃したのにあんな活発なのか?」
「あいつは復活したんだよ。兄貴が戦ったのは千年位前のことだ」
「千年!?あんた年いくつだ?」
「…多分20?」
「語尾が疑問形…」
計算合ってないし。
_この人大丈夫なんだろうか?
「その時から兄貴は行方不明のまま。風の噂すら無い」
イリアは構わず話を続ける。
「あんたの兄貴の特徴は?」
一応訊いてみる。
「なんでそんなことを訊く?」
「G・フィーストはひと探しの依頼も受けるんだ。聞いとけば役に立つかもしれないだろ?」
「なるほど」
「それで?」
「兄貴のことか?…名前はキバ。キバ・クエイス」
「キバ・クエイス?」
_どっかで聞いたような…
「外見は、黒髪に紅い瞳。目が紅いといっても俺と同じで普段は黒っぽくみえる」
イリアの目を見ると、今まで気づかなかったが確かに紅かった。
「珍しい色なんだな」
「まあな。それで柄の紅い刀を二風持ってる」
「二刀流?」
「そうだ」
_あ、思い出した。
「その人、レアルに借りた本に出てくる登場人物にそっくり…」
「レアル?まさか…レアル・フォースザウラクか!!?」
「そ、そうだけど…知り合いなのか?」
「レアルと兄貴は友達だ!」
「でもその本、伝説の話だったぞ?」
借りて読んだんだけど。と付け加えた。
「紅牙の伝説だろ?兄貴の二つ名が紅牙だ」
「ってことは、あんたの兄貴は伝説の男ってこと…?」
「そういうことだな。というか、その本レアルが書いたんじゃないか?」
「…本書きそうには見えないけど」
「は、言えてら。話戻すけど兄貴はエーテリーサって国の近衛兵団の一つ、“黒峰”の団長だったんだ。反乱で姫様を最後まで守った」
「もしかして反乱起こしたのがイビデラム?」
「そう。反乱前からずっと歪みあってたから戦うのは当たり前だった。ついでにイビデラムも四峰だった。“白峰”だ」
もぞもぞとライトニングクローが動いた。どうやら起きたらしい。
そしていきなり立ち上がった。
「びっくりした。どうした?ライ」
翼は聞いたがライトニングクローはキョロキョロと落ち着かなく周りを見渡している。
「どうした?」
「しっ!」
ライトニングクローの様子に質問したイリアを翼は黙らせた。
ライがこうなった時は静かしないといけない。自分達の命に関わるのだ。
「来る」
_やっぱり!
「どっちだ!?」
「み、右下っ」
「イリア!逃げろ‼」
「なんだって!!?」
ドガァンッ
イリアが椅子から立ち上がった次の瞬間、何かが床をぶち破ってきた。
「何だこれ!?」
「俺が知るか!」
「知らないのかよっ!?」
床だった破片を撒き散らしながらそれは天井まで延び上がった。
土埃がおさまって次第にその姿があらわになる。
「こ、これは…?」
現れたものを見て翼は呟いた。
薄緑色の長くて太い胴体?に大きな鋭い棘がある。
「棘のある植物!?」
イリアが言った。
_それは見れば分かるんだけど。
「これほんとに知らないのか?ここにいるの長いだろ?」
翼はイリアに向かって聞く。
「こんなやつ見たことねえ…」
「当たり前ですよ」
どこからかイビデラムの声が聞こえてきた。
「っ‼」
三人とも身構える。
埃の後ろからイビデラムが現れた。
「なぜここが!?」
「ふん…おっと失礼。君がアンチマジックフィールドを創れることを思い出したんですよ。こそこそと秘密部屋を作って周りにそれを張ったってあんなもの役に立つわけ無いでしょう?」
「アンチマジックフィールド?」
翼は耳慣れない言葉に思わず訊き返した。
「おや、そんなことも知らないのですね。アンチマジックフィールドは又の名を対魔法領域と言って、特殊な磁場を発生しあらゆる魔力を防ぐもの。君達の分かる言葉だと…“バリア”がちょうど似たようなものでしょうかね」
頭にくる言い方だが、教えてくれるとは思わなかった。
_だけどそんな力人間が使えるわけ…
「翼とライトニングクロー、お前達翔べるか?」
「まあ一応」
「じゃあ脱出だ」
「何を話しているのですか?」
イビデラムがこちらを指さす。
ヒュッ
植物の蔓が空を切った。
「ヤバイ、避けろっ」
イリアの警告に翼は傍にいるライトニングクローを引っ張って横に跳ぶ。
バゴン!
翼とライトニングクローがいた場所に蔓が振り下ろされた。
〈ライ!ウルフver.だ‼〉
戦闘中のパートナーとの会話は基本的に念話を使う。
ライトニングクローに指示を出した。
ライトニングクローは一つ頷くと狼型に戻った。
バンッッ
蔓の根本で爆発が起こる。
イリアの手から放たれた高密度の光の槍が幾本も植物に突き刺さる。
刺さった槍が爆発を起こす。
「無駄ですよ」
爆音の中でイビデラムの声が異様にはっきりと聞こえてきた。
爆音が止む。
「効いてない!?」
姿の見えないイリアの当惑した声が聞こえてきた。
爆煙が晴れたそこに、植物が姿を現す。
「ウソだろ?」
翼は植物を見て思わず呟いた。
植物には傷一つついていなかった。
「あれだけ受けて無傷!?」
「この子はブラドサカ。超活性細胞の持ち主です。君程度の攻撃では掠り傷もつかないと思いますよ」
「クソッ‼逃げるぞ」
イリアが蔓の向こう側から叫ぶ。
「逃げる?逃げられると思っているのですか?」
イビデラムがまたこちらを示す。
そこへイリアが大量の光槍を放った。同時に特大の火の玉が天井に激突して大穴を開けた。
この火の玉もイリアが放ったものだ。
「翼、脱出だ。翔べっ‼」
〈ライっ‼〉
イリアに言われ、翼はライトニングクローを呼んだ。
走ってきたライトニングクローに飛び乗りそのまま天井の穴へと跳躍する。
イリアは下でまた光槍を浴びせている。
ライが途中、空を踏んで加速した。
ライトニングクローの階級はブラッドフットと同じ渡風。空を駈けることもできるのだ。
そんなライトニングクローの背中から下を見るとイリアが跳んだところだった。
横に跳んだのではない。まっすぐ上、つまり翼達の方へ跳んだ。
ぐんぐんと上昇する。
それは跳躍という域を越えていた。
外まではだいたい七階分の高さがある。
ライトニングクローは外に着くと穴の縁に立った。後からイリアが昇って来る。しかし、そううまくはいかなかった。
イリアのすこし上の部屋から新たなブラドサカの蔓が現れた。
イリアはそれを避けたが蔓は次々と出てくる。
下から跳躍しただけで、空中に止まっていられるわけではないイリアは避けた蔓を踏んで次のを避けていたが避けきれずに下の階まで叩き落とされた。
「イリアっ」
ライトニングクローが叫ぶ。が、翼はそれどころではなかった。
新たな敵が現れていたのだ。
ライから降りていた翼は黒いマントを着た敵に斬りかかった。
〈ライっ!イリアは!?〉
敵を吹き飛ばしてライトニングクローに聞く。
〈わからない。姿が見えないんだっ〉
敵は次から次へと現れ襲いかかってくる。
中には見知った顔が何人かいる。はっきり言ってやりにくい。
〈ライ!ライ、よく聞け。俺はイリアを助けに行く〉
斬りつけてくる敵をかわし、その首筋に手刀を叩き込む。
〈お前は先に逃げろ〉
〈えっ!?〉
〈今なら敵の数も少ない〉
〈やだよ翼っ!〉
〈行け。アースに援軍を頼んできてくれ〉
〈でもっ〉
〈早く行けっ‼〉
翼は叫んだ。
_早く行ってくれ!
イリアは助けないといけない。一応は恩人だ。
俺じゃイビデラムにはおそらく勝てない。
ライなら速いから絶対に逃げられる。
_頼む、ライ。行ってくれ‼
〈俺は大丈夫。イリアを助けて追いかけるよ〉
ライの目を見て言う。落ち着いた声を出すのは意外と難しかった。
ライは涙目でこちらを見ていたが、さっと身を翻して敵に飛びかかった。
翼もすぐ脇の敵を蹴倒す。
ライトニングクローは敵を蹴散らして駆けていく。
その姿に自然と口角が上がるのを感じた。ライは大丈夫だろう。
翼は振り返るとそのまま穴に飛び降りた。
-☆-☆-☆-
〈お前は先に逃げろ〉
〈えっ!?〉
ライトニングクローは翼に言われたことが信じられなくて聞き返した。
〈今なら敵の数も少ない〉
〈やだよ翼っ!〉
_翼をおいていくなんてっ
〈行け。アースに援軍を頼んできてくれ〉
〈でもっ〉
〈早く行けっ‼〉
翼がいきなり声を荒げたのでライトニングクローは驚いた。普段そんなことしないからだ。
〈俺は大丈夫。イリアを助けて追いかけるよ〉
今の叱声が嘘のような落ち着いた声だった。目が合う。
その目からは強い意思が感じられた。
ライトニングクローは泣きそうなのを堪えて駆け出した。もちろん翼とは反対の方向に。
目の前の敵を押し倒す。
振り向くと、翼は微笑んでから穴に飛び込んだ。
-☆-☆-☆-
ライトニングクローは話終わってからアースの顔を見た。
「そういうことだったのか」
アースではなく、麗音が言った。
「まさかイリアがいるとは思わなかったなぁ」
いつの間に来ていたのかレアルが呟いた。
部屋中がそちらを見た。喋るまで誰一人彼がそこにいることに気づいていなかったのだ。
「他に誰が捕まったか分かるか?」
アースが口を開いた。
「第8班の掛川 桃香、第11班のジョン・セロ、鐙 陽斗、第15班のアル・ドレッド。とそれぞれのパートナー…」
ライトニングクローは逃げる途中でわかったことを話しはじめた。
「人間は魔術をかけられて、狼は地下室に閉じ込められてた。イリアに聞いたけど、僕達にはあの魔術は効かないらしい。僕、みんなを助けようと思ったんだけどだめだった」
「いや、よくやった…よく戻ってきた。おまけに情報まで持ってきたじゃないか。それだけで十分だ」
そう言うとアースは立ち上がった。
「待ってアース!」
ライトニングクローは慌てて引き留めた。まだ話さなければならないことがあるのだ。
「あの城には変な生き物がいるんだ。姿形は人間に似てるけど少し黒っぽい色で石像のような石から出てきて。皮っぽくて…それで僕達より速いんだ‼」
自分より速い生き物は仲間の他に見たことがなかったライトニングクローは追いかけられた時のことを思い出して視線を落とした。
頭の上に何かが乗る感覚を覚えて顔を上げるとそれはアースの手だった。
「分かった。対処法を考えよう。お前はもう少し寝るといい」
ぽんぽんと軽く頭を叩かれた。
急に眠くなる。
「“眠りは大いなる医者”だ。だろう?ダリオス」
ダリオスが答える声を聞く前にライトニングクローは寝てしまった。
-☆-☆-☆-
「ここの狼達より速い生き物ねぇ…」
ダリオスがライトニングクローをベッドに寝かせ直しながら呟いた。
「…俺は、そいつらのことを知っている」
レアルが口を開いた。
「イビデラムの手駒の一つだ…“アンデットマリオネット”めったなことじゃ死なない亡者の操り人形…」
「その人形、壊す方法は?」
椅子にあぐらをかいて座っている麗音が聞いた。
「頭部の破壊。それだけだ」
「ふーん…」
「なんだ?何か考えでもあるのか?」
「いや、別に。ただあたしは狼達より速い種族をもう一つ知ってる」
「何だ?」
「麗華姉達、ヴァンパイアだ
「なるほど、彼女らならできるかもしれませんね」
「早速頼んでおこう」
珀の同意に麗音の口角がつり上がった。
「たのもしいな」
レアルが呟く。遠い日を思い出しているのか、ただただボ〜っとしている。
「…イリアか。久しぶりに名を聞いた。聞くと相変わらずの役者ぶりじゃないか。変わってなくて少し安心したよ」
「そうね」
スノーストームがその呟きに同意する。
「さあ、ライトニングクローが起きてしまうわ。話し合いは部屋を出てからにしましょう」
皆スノーストームに従って部屋を後にした。