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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
99/120

反撃 1 

  

 

 


 ヴィルヘルムスの目が覚めた時、傍らにはジェスルと銀の竜だけがいた。寝ている間に移動されたらしく、目に入ってきたのは殺風景な治療室ではなくそこそこの広さのある客室らしき部屋だった。

「起きたか? あ、俺は休憩がてらお前の警護ってことで今ここにいるからな。サボってるわけじゃないぞ」

 そう言いながらジェスルはブルムを肩に乗せて椅子に座り、野菜の餡がたっぷりつまった顔ほどの大きさのまんじゅうをほおばっている。

「……ファムは」

「女王か? ちょっと前までここにいたんだけどな、忙しいみたいで他のやつにせかされて出て行ったぞ」

 起き上がったヴィルヘルムスはため息を一つつく。だいぶ深く寝入っていたらしく、頭がぼんやりして身体が重かった。

「……どれくらい寝ていましたか」

「だいたい半日ってところだな。今この国の奴らは休息をとりながら体勢を整えてる最中だ。俺もさっきあっちでちょっと寝た。お前だいぶ疲れてたろ? まだしばらく寝てろよ。そのうち準備ができたら誰かが呼びに来るらしいからそれまで可能な限り休め。ほら」

 ジェスルに手渡されたコップに口をつけると、温かい香草茶だった。香りと味を確かめるように少し時間をかけてそれを飲み干すと、ヴィルヘルムスは再び横になった。

「ファムが女王だったとは……ジェスルは知っていたんですか?」

「一応な。何だ、そんなに驚いたのか?」

「流石に予想していませんでした」

 ヴィルヘルムスは横になったまま天井の明かりを見つめる。自国でも他国でも見たことのないパネル式の照明は、窓のない部屋を屋外と変わりないように暖かな光で照らしている。

「まあ会合じゃ正体隠していたもんな。それに俺はお前が探していたのは側近のハーシェだと思っていたから女王については何も伝えてなかったし。あの二人、よく似ているが姉妹か何かか?」

「ファムは天涯孤独のはずです」

「じゃあ影武者か何かか? まあこの国は不思議なもんが多いから、もしかしたらどちらかは人間じゃないのかもな。ははは」

 冗談めかして笑いつつジェスルは食べていたまんじゅうを小さくちぎり、肩のブルムに差し出す。竜は匂いを嗅いで、それからジェスルを睨み、牙を見せながらぱくりと食べる。「うまいか?」と尋ねながらジェスルが竜の頭に触れようとするが、威嚇されて避けられる。

「俺の実家も結構変わってるけど、この国はそれ以上に変わっているぞ。女王はしばらく前まで白箔国の人間だったんだろ? 一体どんな経緯で即位したんだろうな」

 ブルムを撫でようとするのを諦め、コップから茶をすすりながらジェスルが首を傾げると、ヴィルヘルムスの眉間に皺が寄る。

「……面会の約束を取り付けておいてよかった」





「ファムさま、捕らえた玄執組を収容する準備が終わりました。現在ズヴァルトとゲオルギが回収作業に入っています」

 王の間でライナ達と食事をとっていると、涼し気な声と共に新しい衣裳に着替えたレーヘンが報告に現れた。

「ありがとうレーヘン。詳しい話の前に、ちょっとそこで止まって」

 王座の前まで来たところで一回転させて、身だしなみを確認する。時々これをしないと、この特級精霊はボタンを変な方向からかけていたりする。

「いいわ。ちゃんと着れているわね。それで、島内の玄執組の回収はどれくらいで終わりそうなの?」

「収容して人数の確認と武装解除まで含めると本日いっぱいかけたほうがいいかと」

「なるべく急ぐわよ。残りの玄執組が海を渡って島に到達する前に終えなくちゃ。ベウォルクトはまだ戻ってこれそうにないの?」

「ワタシより深く融合していますから、復元までしばらく時間がかかります」

「なら仕方ないわね」


 おまんじゅうを食べ終えると、王座に座り直す。

「ファムさま、食後のお茶です」

「ありがとうハーシェ」

 お茶の温かさと良い香りを楽しみつつ、お城と繋がって海の方へ意識を向ける。

「だいぶ近づいてきているわね……」

 銀鏡海を越えて島に到達されるのも時間の問題ね。そして事前に調べた時よりも確実に数が増えている。これどこまで増えるのかしら


「サユカ、黒堤組との回線は繋がりそう?」

 王座の傍らにある台座にいるサユカに声をかける。台座は透明な石で出来た薄い長方形の板が縦長に立っている形をしていて、中央部分には黒い記憶ブロックが嵌めこまれている。板の上には止まり木があり、そこにサユカが佇んでいる。

「黒堤組の船は補足していますが、回線が安定しません」

「ワタシが補助しましょう」

 レーヘンがそう言ってサユカの頭に軽く手を乗せる。

「めーでーめーでー、こちらくろやみ国のレーヘン。聞こえますか」

『はいもしもし、こちら黒堤組のコトヒトです』

 サユカの下にある石の板が振動して、コトヒトの声が聞こえてきた。

「そちらとの通信回線を構築しました。維持をお願いします」

『了解した』

「回線が安定しました」

 サユカの報告を聞いてレーヘンは手を戻した。


『おう、連絡が来たな。聞こえるか?』

 今度はコトヒトではなくカラノスの声が聞こえてきた。

「よく聞こえるわ。黒堤組は今どちらにいるの?」

『その声は女王か。こっちは銀鏡海の近海だ。ちゃんと帰国できたみたいだな』

「ええ。みんな無事よ」

『そりゃよかった。しかし、おたくらの島は外から完全に包囲されてるぞ。大丈夫か?』

「知ってるわ。思ったより数が増えている事以外は想定内よ。これからその掃除に取り掛かるわ。それで、もし知ってるなら包囲網の内訳を教えてほしいのだけれど」

 カラノスと会話しつつ、王座の前に島周辺の海図を表示させる。半透明の海図上には敵船を示す小さな点が無数に散らばっている。


『それなら調べてある。包囲網を構成しているのは大きく分けて三種類だ。まず玄執組だが、知っての通り黄稜国の残党とやらとその他いくつかの集団が集まった海賊だ。こいつらは確実におたくらの国を乗っ取るつもりだろうな。銀鏡海を積極的に越えようとしているのもそいつらだろう』

 聞きながら、海図を操作して銀鏡海のあたりを拡大すると、確かにいくつかのまとまった集団が確認できた。

『加えて玄執組と手を組んでいる赤麗国の朱家の船団がいる。どうやら紅家に追われてこっちの海まで来たらしい。玄執組と合流してからはあまり動きがない』

「残りの集団は?」

『この騒動のおこぼれを狙ってやってきた近海の海賊船団だ。それぞれはそこまで規模が大きくないが、いくつか集まってきているな』

 じゃあ新しく増えてきたのはよその海賊達ってことね。

『それと、俺達みたいに距離をとって様子を伺っている奴らもけっこういるぞ。大空騎士団や国所属の偵察船も何隻か見かけた』

 思わず王座の背にもたれかかる。思った以上に目立つ事になっているわね。

「それぞれの集団の識別方法はわかる?」

『ああ。船の大きさや形で大体が区別できる。それと船で使ってる術式も国や海賊ごとに違う。まあこれは特殊な法術でないと判別できないが』

「そう……」

 カラノスからの情報を頭の中でまとめながら手元のカップのお茶を見つめる。

「色々と教えてくれてありがとう。助かったわ。また連絡するわね」

『ああ。気を付けろよ』

「ええ」


「玄執組とその他の海賊は置いといて、問題は朱家の船よね……」

 つまり赤麗国の所属って事よね。どう扱えばいいのかしら? 赤麗国とは不可侵条約を結んでいないけれど、お互い余計な手出しをしないと約束した関係。黒堤組とのような通信手段が無いので朱家の扱いについて確認する時間はない。どうしようかと考えながら視線を彷徨わせていると、レーヘンと目が合い、精霊が微笑む。

「全部まとめて跡形もなく消せばバレませんよ」

 それって万一後からバレたら国際問題になるじゃない。

「仕方ないから、不法侵入ということでまとめて捕らえちゃって、あとで引き渡しましょう。うちは朱家と敵対している紅家の方と知り合いなんだし、後から何か言われないように扱えばいいわ。攻撃してきたら、まあそれなりに反撃する程度で。海賊についても同じ扱いでいきましょう」

 うちに喧嘩を売るってことがどういった事なのか知ってもらう良い機会ね。



2018/02/10:少し加筆。

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