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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
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襲撃 6 ー救難信号ー

 

 

 

「救難信号? 城の外にライナ達が出ているってこと?」

「いえ、彼女達の信号とは種類が違います」

 私の質問にレーヘンが答える。

「でもくろやみ国のものなのね?」

「そうです」

 得体の知れない不安がよぎるけれど、救難信号は見過ごせない。

「罠とかじゃないわよね」

「大陸の技術では偽造出来ないのでその可能性は限りなく低いです」

「俺の方でも確認しました。進行方向に近い地上のようです」

 ズヴァルトが言う。

「……じゃあその救難信号の地点まで行きましょう。最短距離で案内してちょうだい」

「わかりました」


 薄暗い空間を進むと移動列車までたどり着いたので、乗り込む。ズヴァルトが車体外部のパネルを外して非常用の動力を起動させ、レーヘンが内部の操作パネルに触れる。

「非常用の進路設定が完了しました。この列車で一気に地上地点まで上昇します」

「わかったわ」

 列車は始め斜め上にゆっくりと進み、途中から車内の座席が変形して垂直に進んでいく。地下を進んでいるので、身体にかかる重みで大体の向きがわかるだけで、窓の外は真っ暗な闇の中にちらほらと非常灯が灯っているのが見えるだけ。

 列車が止まった所で降り、これまた暗い廊下を足元の非常灯に沿って歩き、階段をあがった所で天井とぶつかる。

 取っ手のある辺りをズヴァルトが押し上げ力づくで扉を開くと、隙間から強い風と、明かりが入ってきた。

「信号の場所はそう遠くない場所ですが、全員で行きますか?」

 レーヘンが聞いてくる。

「私とレーヘン、ザウトとブルムで行きましょう。ハーシェとサユカ、ズヴァルトはここに残って入口を守っていて。すぐに戻ってくるわ」

「わかりました。くれぐれも気をつけてください」

「ええ。行きましょう、レーヘン」

「はい」


 ひさしぶりに見るくろやみ国の空は相変わらず曇っていて、あの海の上の青空と比べると随分と暗く見えた。

 地上は風が強く、砂埃が舞って遠くの方がくすんで見える。見渡す範囲では玄執組らしき姿はひとつも見えない。


「信号はこちらの方向からですね」

 強風に飛ばされないようザウトとブルムをヴェールの下で抱えこみ、レーヘンに先導されながら歩いて行くと、海にほど近い岩場にたどり着いた。ごつごつした岩は黒っぽくざらざらとして尖っていて、当然だけど虫一匹存在しない。灰色の海の方を見ると、水平線のあたりにぽつりぽつりと敵の船らしきものが広がっている。

 足元の岩場は途中からひざ上程のくすんだ色の茂みで覆われていた。私達が近づくと一斉にざわざわと動きだす。

「やっぱり、信号はイグサ族だったのね」

 以前交流した時に緊急連絡用のペンダントを渡しておいたもの。もしかしてと思ったら、その通りだった。

「ベウォルクトは出来たんだけれど、レーヘンは彼らの言葉わかる?」

「はい、大丈夫です。彼らは我々が来た事で安心しているようです」

「そう。イグサ族が今どういった状況なのか聴きだしてちょうだい」

「わかりました」

 レーヘンが一番手前のイグサ族の前に膝をつき、会話を始める。

「ザウトちゃん、ブルム、何か接近する存在に気づいたらすぐに教えてちょうだい」

「はいです」

『わかりましたわ』

 しばらくは風の音と遠い波の音、それにイグサ族が着込んでいる涸れ草を編んだものがこすれるかさかさという音と、交わされる言葉の低くくぐもった音が続く。

 イグサ族の集団は見たところ以前会った時よりも数が多いように見える。もしかしたら二つの集団が集まって全員いるのかもしれない

「どうやら玄執組が島内部に現れたようです。彼らは警戒して逃げ回っていたそうです」

 レーヘンが立ち上がり、イグサ族の話した内容を教えてくれる。

「やっぱり転移門は使われたのね」

「そのようです。海からの上陸ではなかったので、イグサ族は見つからないように距離をとることができたようです」

「そうなのね。無事でよかったわ。彼らも玄執組に見つかったら何されるかわからないし、一緒に地下に行った方が安全ね。私達と一緒に地下に避難しないか聞いてみてくれる?」

「はい」

 イグサ族の集団を率いている何人かとレーヘンが会話し、みんなで地下へ向かう事になった。

「じゃあ、急いで戻るわよ」

「待ってください」

「どうしたの?」

 レーヘンがまだ何かイグサ族と会話している。

「この先の崖の方に彼らにとって重要な場所があるそうなんですが、避難する前にそこに保管されている大事な物を取りに行きたいそうです」

「……ここに集まる前に持ってこれなかったのかしら」

 いつ玄執組が現れるかわからないから、あまり時間をかけずに戻りたい。

「それが、何やらその場所を占拠している者がいるらしくて、取りにいけなかったそうなんです。取り戻すために一緒に来てくれと言われていますが、どうしますか?」

「うーん……」

 早く戻りたいけれど、協力しないとイグサ族は動いてくれそうにないし、仕方ないわね。

「じゃあ、さっさと行って大事な物を取って来ましょう。レーヘン、案内を頼んで」

「わかりました」


 五人ほどのイグサ族と私達で岩場を歩いていく。靴をヒールのない歩きやすいものに変えておいて本当に良かったわ。

「占拠しているのって玄執組かしら」

「今のところ不明です。ですが人間を二人見たそうです」

「二人ならなんとかなりそうね。遠くから確認して、行けそうなら一気に仕留めたいわ」

『その時はお任せくださいまし』

 しばらく歩いて行くとイグサ族の重要な場所らしきものが見えてきた。

 なだらかな斜面を降りた先の、崖のふもとに低い丘のように盛り上がった砂地が見える。珍しく涸れ草が密集していてひと目で何か変わった場所であることが分かる。

「あれは、煙?」

 その茂みの向こうから煙が立ち上っているのが見える。煙にはなにか特別な成分が混じっているらしく、ところどころキラキラと光っている。

「人間二人と法術の起動を確認しましたです。他の存在は無し」

 左手に抱えたザウトが言う。

『偵察してきますわ』

 そう言うと止める間もなくブルムが高く飛び上がり、茂みの向こうへ飛んでいく。ちょうど煙が出ているあたりに到達すると、何をどうしたのか突然急降下していった。

「いきなり何やってるのあの子!」

 驚いて声をあげると、レーヘンが身構え、私の背を押してイグサ族の背に隠れるように低い姿勢にさせられた。


「うわぁ何だ! あっお前か、何やってんだここで!」

 ブルムが急降下した茂みの向こうから、なんだかものすごく聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。

「……ねえ今の、もしかして」


「キシャ―!(それはこちらの台詞ですわ! どうやって海を渡ってきたのです!)」

 ブルムがなんだか呆れつつ怒っている。

「いてっ、いてっ、頼むから頭突かないでくれ! お前の爪鋭いんだからよ。切れるって、頭が切れる!」

 そう叫びながら出してきたのは、青い髪に青い瞳の知り合いの青年だった。

「……何してるのよ、ジェスル」

 両腕で頭を抱えるようにしてブルムの爪から守っていたジェスルは私の声で顔をあげ、こちらを見ると満面の笑顔になった。

「おっ、あんた達か! 助かったぜ!」

「こんなところで、どうしたのよ……」

 現れたのは数日前に別れたはずの青年だった。大空騎士団の隊服はところどころボロボロになって、腰には剣。あとは手ぶら。

「俺だって聞きたい。何でか知らないがお袋達に無理矢理海に突き落とされてよぉ。そしたらまたあの派手なイルカがやって来て訳がわからないままに島に運ばれて、気がついたらここにいた」

 無人島かと思ってたら知り合いがいて良かったと、ジェスルは笑いながら言う。生死に関わる事故に遭ったはずなのに、まるで大したことない様子で明るく語られ、なんだか一気に疲れを感じてきた。

「ここ霊素は薄いし法術もろくに動かせない。あいつが一緒じゃなかったら流石にやばかったぜ」

「あいつ?」

「おう、ちょうど海に突き落とされる時一緒にいたから巻き込んじまったんだ。お、来た来た」

 そう言ってジェスルが手を振る先を見る。

「おーいヴィルヘルムス、こっちだ、こっち」

「なんですか」

 現れたのは、これまたあちこち擦り切れた格好のヴィルヘルムス王だった。


「な、何なのよ一体……!」

 あまりの事態にめまいがした。


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