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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
93/120

襲撃 5 ー侵入ー

 

 

 

「なんでだ。全部まとめて殲滅すりゃ一発で終わりだろ」

 マルハレータが不満気味に言う。

「島とその周辺の海一帯だろ? あれくらいの範囲ならおれが出れば済む」

 そう言って壁に映し出された画像を指し差す。


 映しだされているのはくろやみ国の本島とその周辺の銀鏡海。そしてそれを取り囲むようにして大規模に展開している玄執組の船団の様子だった。

 レーヘンが空の上の、衛星軌道上とかいう場所にいる精霊に協力してもらって手に入れた、現時点での上空から見た実際の様子。


「でもあなたがやるとこれ全部消し飛んじゃうんでしょ?」

 そう言って私も指差す。示すのは銀鏡海を取り囲むようにして広がる黒っぽい埃のように見える玄執組の船団のあたり。

「まあな」

「その策は使えないわ」

「人を殺すなってことか?」

「ええ」

 甘い考えかもしれないけれど、人死には最低限にしたい。それに

「あの中にどれくらい人間がいるかわからないけれど、生き物が死ぬと濃い瘴気が残るのよ」

 せっかく瘴気を減らしているのに、増やしてどうするのよ。


「船はいいのよ。追い払うだけで」

「追い払うだけというのは難しいでしょう」

 サヴァがそう言ってきた。

「現在、海に広がる船団の数は時間の経過と共に増えています。なので、そのうち手段を得て銀鏡海を渡る可能性があります」

 そう言ってサヴァはテーブルに置いた機械を操作して別の画像を壁に映し出す。

「これが昨日の段階の画像で、こちらが最新の様子です。それで、細部を拡大すると……」

 小さな粒状の船の数がさらに増えているのが分かる。かなり増えているわね。

「こんな大群どこから湧いて出てきたのかしら」

「こいつらは黄稜国の残党と、海賊と、赤麗国の一味が合わさった集団だ。つるんで色々やらかしてたのがなんだかんだで本拠地が潰れたからな。行き場がないから総力を上げてやってきてるんだろう」

 ソファに座って黄色いフルーツソースをかけたヨーグルトを食べながらマルハレータが言う。

「そういえば、どうしてそこまで詳しいの?」

 今回の襲撃情報はマルハレータ達が掴んでくれたものが元になっているけれど、どうやって知ったのかはまだ聞かされていない。

「ちょっと色々あったからな。状況が落ち着いたら詳しく話す」

 マルハレータはそう言うとスプーンを口に運ぶ。


「そういえば、どうして銀鏡海には船が一隻もいないの?」

「あのあたりは霊素はおろか気脈も希薄です。それこそ黒堤組の船でないと渡るのが難しいのでしょう。今の人間が使う船の動力は大体が霊素を必要とするか、気脈を使う法術だそうですから」

 首を傾げているとレーヘンが答えてくれた。


「相手はかなりの規模で迫ってきています。それに転移門を使われた可能性がある以上、銀鏡海を飛ばして既に島に上陸されていることも考えられます」

 サヴァの言葉を聞きつつ、私は腕組みをして考えをまとめる。

「うーん、この人達の集団名がわからないから、とりあえずまとめて玄執組と呼びましょうか」

 勝手にやって来て勝手に襲撃してるんだから正式名称なんて知らないわよ

「それで、現在進行形で玄執組にうちが襲われているということよね。ねぇ、今の段階で最悪な状況ってどういった形になるの?」

「国の乗っ取り……はまだされていないでしょうから、城に侵入されている状況ですかね。ですがこちらはベウォルクトが城の接続を全て遮断しているようなのでその可能性は低いです」

 レーヘンが答えてくれる。

「籠城してるってことよね」

「ええ。つまりは島に上陸され、城が既に襲撃されているということです」

「その確率は?」

「九割を越えます」

「籠城しているとして、それが突破されるまでの時間は?」

「王の間のある上層階までは当分到達できないでしょう。ですが内部に侵入されるまでの時間とすれば、最短で一日、遅くて三日ほどでしょうか?」

 精霊の言葉に思わずため息が出た。

 急いで出発してよかった。本当にぎりぎりで間に合うってところね。

「じゃあ、その状況を想定して動きましょう」

 


 深海の移動はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 海竜に運ばれた私たちは玄執組の船の下もあっさりと潜りぬけ、既に銀鏡海も終わろうとしている。


「もうすぐ海中の射出口です」

 レーヘンがそう言うと窓際に行き、外にいる海竜になにやら呼びかけ始める。

「昔の兵器の射出口って、外から入れるものなの?」

「本来の用途とは違うから普通は無理だ。塞がっている。そこを無理矢理こじ開けて行くことになるがな」

 マルハレータが立ち上がり、肩をほぐしながら部屋の中心へ移動した。

「こっちはいつでもいいぞ」


 遠い位置で海竜の声が響く。

「ハーネスが外れました」

 レーヘンの声に合わせ、マルハレータが法術用のグローブをつけた両手を広げる。

「外装を“捕獲”した。あとはこのまま維持して持ってくぞ」

 窓の外は真っ暗で何もわからないけれど、海竜の牽引は終わり、今はマルハレータによって移動させているらしい。

「レーヘン、海竜にお礼を言っておいてちょうだい」

「わかりました」


「外の法術に干渉して内部の安定を維持しますです」

「ああ。おれは細かい調整が苦手だから色々ぶち壊さないようにしてくれ」

 マルハレータとザウトが連携して、射出口をこじ開けて内部に移動艇ごと侵入していく。

「空気のあるところまでこのまま突っ込むぞ」

 金属がひしゃげるような音が低く連続して響くと、一気に身体に重みが加わる。

「この上昇が終われば到着だ」

 最後にざぶんと音がして全体が揺れた。


「外の状態は大丈夫のようです」

 先に外に出ていたレーヘンが戻ってくる。

 私は自分の服装を確認する。基本はナハトの時と同じ格好だけれど今回はさらに動きやすいように衣装の丈が短くなっていたり、あちこち改良がされている。最後に黒い霧のヴェールをまとうと、準備万端。

「あの水色の精霊は残していって大丈夫なの?」

 マルハレータが連れてきた水色の髪の精霊は、今は毛布にくるまれた状態で移動艇内の床に寝かせたままになっている。

 私の言葉にレーヘンが答える。

「あそこまで損傷が激しいと今の状況では手の施しようがありません。外殻と内部に崩壊防止のロックをかけましたが、人間で言う所のほぼ死んでる状態ですので置いていきます。襲撃を追い払ったら回収しに戻りますから、ファムさまは気にしないでいてください」

「……わかったわ。じゃあ、みんな準備はいいわね?」

 今は家に帰ることに集中しなくちゃ。


 移動艇の外に出ると真っ暗で広い場所だった。

「私達が目指すのはどんな状況であろうとお城の王の間、でいいのよね、レーヘン」

「はい。ファムさまが王座に戻られれば島の全てを掌握できますので、まずそこへ一直線に向かいましょう」

「おれは適当に地上に出て島内の処理をする。ついでにコイツのお守りしてればいいんだろ」

 そう言ってマルハレータが錆精霊を指さす。

「ええ。精霊を使った兵器は破壊していいし、人がいたら捕まえておいて」

「ああ、わかった」

「セイレイのオジサン、マルハレータとお城を攻撃しないでね。精霊兵器は食べてもいいわよ」

「アレはくそ不味いから食わン。腹ごなシに運動すリャいいんだろ」

 数枚のお皿を腕に抱えて、その中の一枚をかじりながら錆精霊が言う。


 マルハレータ達と別れると、レーヘンを先頭にし、ズヴァルトが最後尾についてみんなで暗い空間を歩いて行く。私はヴェールのおかげか、真っ暗なはずなのに薄ぼんやりと辺りを見ることが出来るので歩くのには困らない。

「まず港の真下まで行きましょう。そこから城まで続く地下通路があります」

「わかったわ」

 ズヴァルトの言葉に頷いていると、突然レーヘンが立ち止まったので、思いっきりぶつかる。

「ちょっと、レーヘンどうしたの?」


「地上から救難信号が来ています。くろやみ国のものです」

2018/03/11:移動艇内での描写ちょっと追加。

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