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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
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襲撃 4 ー休息ー

 

 

 

 ズヴァルトが渡り廊下の片端に立ち、剣を鞘から抜いて立つ。

 黒い鎧をまとった騎士は半透明の剣を軽く持ち上げると目の前の渡り廊下に向け、剣先を定めると一気に切り裂く。

 素材も構造もかなり頑丈な廊下だが、闇の精霊特製の剣とズヴァルトの腕であれば菓子を切り分けるようにさっくりと切り崩す事が出来る。

 切り離しが終わるとそれからさらに細かく切り分けていき、最後に特殊な網を海に投げ打つ。

 切断された廊下は放っておいても海中でゆっくりと分解されるが、錆精霊の食料として活用できるため回収することになっていた。





「あ、やべっ間に合わなかったか」

 廊下の反対側に駆けつけたジェスルは失くなった渡り廊下を見て残念そうに言う。

 海を挟んで見えるくろやみ国の施設部では、黒い鎧をまとった騎士が網を使い海中から廊下の破片を集めて引き上げているところだった。かなり距離があるため声をかけても届きそうにない。

「惜しかったな」

 ジェスルは背後の男にそう声をかける。

「居場所も分かりましたし繋がりも作りました。お互い生きていますし、またすぐに会えます」

 静かにそう言うが、言葉とは裏腹に男の瞳の力は強く、海の向こう側を睨むかのように見つめている。

「建物の向こうに見えるのが例の海竜ですか?」

 ヴィルヘルムスはついでに視界に入った黒い鱗に覆われた小山のようなものについてジェスルに尋ねた。

「ああ、あれが俺達が玄執組船に侵入するのを助けてくれた海竜だ。本で見たものよりでかいし、迫力あるよな。またくろやみ国が呼んだみたいだが、凄いなあ、あいつら」

 面白いものを見つけた時にする喜びと憧れが混じった表情でジェスルも海竜を見つめる。

「やはり底の知れない国ですね」

「まあ、そう言えるっちゃ言えるけどな。……ところでヴィルヘルムス」

「なんですか」

「すぐ会えるって言ったがな、どうなるかわからないぞ。大空騎士団の売り込みついでにあいつらの帰国してからの動きを詳しく教えてもらったんだが、かなり危ない事になるみたいだ」

 そう言いつつジェスルは書類の入っている上着の懐部分を軽く叩く。

「……見せてください」

「白箔国とは無関係なのにか?」

「規模が大きいのなら国家間で影響が出るかもしれません」

「情報漏洩って言葉知ってるか? 何かあったら俺らが行くから大丈夫だって」

「個人的な感情面で無関係ではありません。見せて下さい」

「いや、だって王様は忙しいだろ。詳しく知っても……お、おい、なんでそこで法術を動かすんだよ」

「見せて下さい」





「まぁたうちの隊長は行方不明か」

 本部への連絡を終えて大空騎士団にあてがわれた場所に戻ってきたメールトは、上司の不在を知ってがっくりとうなだれ椅子に腰掛ける。さっきまで一緒にいたはずだったが、少し目を離すとすぐこれだ。

「あの人は自由でいいんじゃないですか? あれはあれで仕事を運んでくるきっかけにもなっていますし」

 そう言ってユミットが保温瓶から温かい茶をコップに注いでメールトに差し出す。

「ところでうちの本部隊の動きはどうなってるんだ? まだ海の上なんだろ?」

 受け取ったメールトは軽く礼を言うと一口飲み、ふぅと息と吐く。

「エクレムが今確認に出ていますが、どうもだいぶ到着が遅れているようです」

「また遅れるのか? それって、あっちの海でも何かが起きてるんじゃないのか?」

「そこまでは……しかし我々は団長達の合流待ちですから、しばらくは待機することになりますね。そうそう、ここの会場に残っている各国の方々とは隊長が既に話をつけているので、滞在延長には問題無いそうです」

 ユミットはそう言うと腰につけていた二本の剣を外して机の上に置き、手入れを始めた。武器の手入れは彼の趣味であり良い時間つぶしだ。

「あーあー、なんだかあちこちで揉めてるなあ。団長達に何が起きてるんだ? あの人達ならそこらの海賊程度ならすぐ処理できるだろ。海に他の脅威なんてあるのか?」

「さぁ? ところで少しはうちの隊長の心配もしたらどうです?」

「あれはなあ、だって心配したって無駄というか、意味がないというか、損するというか……隊長、放って置いた方が元気そうじゃないか」

「そこは同意しますね」





「外の渡り廊下の切断完了しました」

「海竜とハーネスで固定できました。いつでも出発ます」

 ズヴァルトとレーヘンの報告に、海竜がいる側の窓に張り付いて黒い鱗姿を見上げていた私は合図を出す。

「じゃあすぐに出発しましょう」


 レーヘンが窓に近づいて竜の鳴き声とよく似た音を海竜に向かって投げかけると、海竜から返事として低い唸るような声が響き、ざぶざぶと海中に潜りだす。

 同時に私たちのいる住居兼潜水艇も海の中に沈んでいく。

「しばらく潜り続け、ある程度深いところに到達してから一気に移動を開始するそうです。空気や水圧などの対策は万全ですが、窓は絶対にあけないでくださいね。水が入ってきますので」

「私でもそれくらいは分かっているわよ」

「それから、移動が開始されると多少揺れると思いますので、今のうちに酔い止めを飲んでおいてください」

 そう言ってレーヘンはグラス一杯の薬を差し出してくる。

「わかったわ」

 私も酔って気持ち悪くなるのは嫌なので受け取って早速飲む。薬はうっすら青みがかったほとんど透明な色合いの液体で、口に運ぶとさらりとしてほとんど味がしなかった。


「ファムさま、すみません。やはり本国と連絡がつきませんでした。強固に遮断しているようです」

 サユカが沈んだ声で報告する。

「そう……これだけやっても繋がらないのなら仕方ないわ。向こうが遮断しているのはべウォルクト達がまだ攻めこまれていない証拠なんだし、大丈夫よ。頑張ってくれてありがとうサユカ」

 そう言ってサユカの頭の羽毛を指で撫でて労る。

「また接近したら再挑戦してみましょう。今は休んでいて」

「はい」

「ザウトもブルムも、到着したら頑張ってもらう事になるだろうから、しっかり休んでいてちょうだいね」

「はいです」

『わかりましたわ』

 声をかけて、腰高の棚の上に備え付けられたとまり木とふかふかクッションの所へ小さな影霊達を連れて行き、それぞれたっぷりと撫でてあげた。暴れると凶暴なブルムも、私が首筋や背中の鱗を撫でると気持ちよさそうに大人しく目を閉じてじっとしてくれた。


「女王、あんたも休息して疲れを全部取っぱらうといい」

 ソファーに半分寝そべる姿勢で海図を眺めていたマルハレータが言った。

「帰城時の要はあんただからな。そこの竜人とちがって頑丈じゃないんだ。今は何も考えずしっかり休んでおけよ」

 マルハレータに指さされたサヴァも頷く。

「ええ。だいぶお疲れでしょう。俺が現段階で分かる範囲で状況を整理しておきます。具体的な対策を考えるのは本国に接近してからになりますし、移動は丸一日はかかりますから、その間休んでいてください」

 そういえば二回目の会合からずっと動き通しだった。気を張り続けていたからか、マルハレータ達に言われてようやく自分の身体が疲れきっている事に気付いた。

「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうわね。サヴァも誰かと交代でいいからやることやったらちゃんと休むのよ?」

「わかりました」

「マルハレータもしっかり頑張ってもらうから休んでおいてね」

「ああ。わかってる」


 自覚したら身体がどんどんだるくなってきた。すぐにでもたっぷりのお湯にゆったりと浸かって、良い香りに包まれながら全身を洗って、着心地の良い寝間着に包まれて暖かい寝床で眠りたい。

「ハーシェ、良かったら一緒にお風呂に入らない?」

「良いんですか? 実は前から人の姿でお風呂に入ってみたかったんです」

 影霊は基本的に飲食睡眠のような生物的行動を必要としないらしいけれど、疲れるものは疲れるし好きに食べても寝ても問題ない。一人でいると色々不安な事を考えちゃいそうだから誘ってみたら、ハーシェは乗り気になってくれた。

「では準備しますね!」

 そう言ってうきうきとタオルや着替えを用意しに行ったハーシェをレーヘンが立ったまま見送り、それから何か言いた気にこちらを見てくる。

「アンタは大人しくしてなさいね」

「いっしょにお風呂はなしですか」

「無しです」

 なんでがっかりした顔つきをするのかしら

「言っておくけど、浴室前での待機も無しよ?」

「ファムさまの髪のお手入れは」

「それはハーシェと一緒に自分でやるからいいの。アナタは海竜の様子を見ていて。あと、帰国の準備やサヴァやマルハレータと一緒に現状確認をしてちょうだい」

「……はい」

 なんだかまだ不満そうな様子ね。

「……ええーと、レーヘンも疲れるようだったら? 休むのよ?」

「はい!」

 今まで夜も昼も関係なく好きに活動してきた特級精霊に疲労や休息なんて必要と思えないけれど、他のみんなに言った事と似た内容を言えばレーヘンの機嫌が良くなった。


「ああそれから、レーヘン、ちょっとここに穴を開けてもらえない? この紐が通るくらいの大きさの」

 そう言ってナハトの衣裳のポケットから出てきた物をレーヘンに差し出す。

「? はい、できましたが」

「ありがとう」

 穴があいたそこに補修道具の棚の中から引っ張り出してきた頑丈な黒い紐を通す。


「セイレイのオジサン、まだ食べてるの?」

 窓の近くに行き、声をかけると霊晶石の塊をかじっていた錆びついた鎧姿が顔をあげてこちらを見る。

「ああ。ナガイあいだ何も喰ってなかったからな。まだまだ空腹だ。それに、コレも塩気が効いて悪くない味だ」

 味があるの? それ

「ねえオジサン、これあげるわ」

 そう言って手に持っていた紐を精霊の首周りに渡して端を固く結ぶ。なんとか長さが足りて良かった。

「なんダこれ」

「お匙。人間の内ではこれで飢えないお守りになるのよ」

 錆精霊は首から下げられた黒いスプーンを鋭い刃物のような指先で突つき、不思議そうに首を傾げる。

「フーン、飢えないんなら貰っとくわ」

「ここの部屋と同じ素材だから、もしもの時のおやつにもなるわよ」

「ソりゃいいなァ」

「じゃ私休むから大人しくしててね」

「アいよ」

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