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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
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襲撃 3 ー再会と出発ー

 

 

 

 廊下を渡って戻ると、すっかり建物の形が変わっていた。

「かなり様変わりしたわね」

 柱や屋根といった建物らしさは無くなり、巨大な灰色の卵が変形したような形。外側に合わせて中も変わっているはず。

『おかえりなさいませ』

 外を飛んでいたブルムがこちらに気づいてやってきた。片手をあげると腕に乗る。彼女の頭をなでつつ、同じく外で何かしているレーヘンに声をかける。

「外装の準備は完了しているの?」

「はい。あとは推進部の調整ですね。ズヴァルトの手が必要になります」

「俺か?」

「そうです。ちょっと手首のダイアルを最大値にしてここの海中に腕を入れてください」

「わかった」

 ズヴァルトが手首の何かの装置をいじって、それから海中に入れる。

「これでしばらく待ちます」

「じゃあ先に中に戻ってるわね」


 内装は随分と狭くなっていて、圧迫感をなくすために壁も天井もなだらかな流線型になり、前より明るい色味になっている。どの家具も一部が壁や床と一体化してしっかり固定されている。

「戻ったか」

 炭酸水の瓶とグラスを手に持ったマルハレータが声をかけてきた。風呂あがりらしく首からタオルをかけていて、幅広の灰色のパンツと黒い細身のシャツを着てゆったりとしたサンダルを履いている。

 これからソファに座ってくつろごうとしていた所みたい。

「……ねぇ、ちょっとそれちょうだい」

 そう断って目についた炭酸水の瓶をもらうと蓋をあけ、行儀悪く瓶に口をつけそのまま飲む。炭酸の焼けつくような痛みが喉を一気に通りぬけ、もやもやしていた頭の中をゆさぶる。

「げほげほっ」

 そしてむせた。

「なにやってんだあんた」

「けほっ、き、気にしないで……」

 無性にやけ飲みしたかったのよ。


 マルハレータの炭酸水を勝手に飲んでしまったので、食料庫から別の炭酸水の瓶と、ついでに食べやすい果物もいくつか持ってソファに座る。

「そういえば、マルハレータと実際に会うのって久しぶりよね」

「そうだな」

 旅の間も影霊と創造主として繋がっているので、お互いの状況についての会話は何度かしていたけれど、直接顔を見るのは本当に久しぶり。

「ねぇ、あなた達ちゃんと仲直りしたの?」

「した。単に移動速度の関係で置いてきただけだぞ。あっちは今頃必死におれの後を追って来ているだろうな」

 そう言うとマルハレータはどこか楽しげに微笑んだ。

「ちゃんと笑えるようになったのね、あなた」

 以前とは違う微笑み方をするマルハレータに嬉しくなり、思わず彼女の頬に触れる。

「あんたが言うなら、そうなんだろうな」

 彼女はそう言いながら苦笑いし、炭酸水を飲んだ。


「外の準備は終わりました」

 改装で余ったらしいキラキラした霊晶石の山を抱えてレーヘンが室内に入ってきた。

「余ったパーツはそこの壁際に置いてちょうだい。オジサン……錆精霊が食べるだろうから」

「はい」

 レーヘンが霊晶石を置いている間にマルハレータが話し始めた。

「もう島に敵が上陸しているだろ」

「そうみたいね。予想より襲撃が早まってるらしいんだけど詳しい事は……そういえばマルハレータ、どうしてあなたが敵の上陸を知ってるの?」

「襲撃が早まった原因を知ってるからだ。ああ、忘れていた」

 そう言うとマルハレータは丸い形に変化した窓を開けて外のベランダに出ると、何かを抱えて戻ってくる。

「原因はコイツだ」

 そう言うと脇に抱えていた何かを床に落とす。元々ボロボロだったのが落ちた衝撃でさらに壊れ、破片がパラパラと床に転がった。

 それは一見すると人間の大人よりやや小柄な大きさをした、素焼きの人形のようだった。人形といっても動かせる関節はあるみたいで、表面には幾何学的な飾り模様が施されており、全体的に丸みがあってずんぐりとした体型をしている。


「噂は本当でしたか。玄執組の船にあった同型の未使用品は破壊しておいたのですが、もう既に使われていたんですね」

 ソレを見つめ、レーヘンがささやくように言った。


 マルハレータが素焼きの表面部分を足で蹴り砕き、中身がよく見えるように転がす。

「これって……」

 破片の中から出てきたのは意外な存在だった。

「一体どういうことなの? どうして……!」

 まず見えたのは薄い水色の柔らかそうな髪。小柄な体は本来は元気いっぱいで、閉じられた瞳はきっと綺麗な明るい水色をしているはず。いつも笑顔をふりまいてくれた存在。

 かつて白箔国で私を助けてくれた旅の精霊だわ。

 レーヘンがかがんで精霊の様子を確認する。それから中に両手を差し込んで小柄な身体の両脇を掴んで引きずり出す。着ていた服も酷い状態になっており、胸元にはいつも身に着けてあったはずのポーチが見当たらなかった。

 私はレーヘンに近づいて精霊のボロボロになった髪をなで、手で頬の汚れを拭きとる。その間も精霊は目を覚ます事無くぐったりとして全く動かない。

 ずっとあちこち旅していると言っていた。少なくともレーヘンより人間に対して用心深いだろうに、一体どこで捕まったのかしら

 レーヘンが精霊の前髪をかき分け額に手を当てる。

「個体ロックがすべて外れている……。一等級の精霊ですから、身体の分解は難しかったようですね。この人形の形をした兵器の核として使われたようです」

「そんな、どうしてこんなことに」

「どうも、私物のポーチを盾にとられて自分から捕まったようですね」

 精霊の額に手を当てたままレーヘンが答える。

「精霊には死……はなかったはずよね。ねえ、これはどういった状態なの?」

「人間に例えると仮死状態……精霊としては崩壊寸前の状態です。なんとか原型は保たれていますが、外殻のシステムに強制的に組み込まれていたため、体組織より内側の損傷が酷いようです」

「情報も抜かれているぞ。うちのゲート、転移門の鍵を読まれている」

 マルハレータの言葉にレーヘンの目つきが鋭く変化した。

「それは本当ですか?」

「ああ。ソイツの持っている情報はひと通り抜き出されているぞ。精霊間の情報は解読できていないらしいが、他はやばい。うちの国にいたことがあるんだろ、ソイツ」

「はい。なので転移門の鍵だけでなく城内の情報も……あれは解読できなくても読み取ることが出来れば鍵として使う事ができます」

「それって、非常にまずいわね」

「はい。おそらくそれが本国とサユカの連絡が切断されている原因でしょう」

「鍵を使われないために外からの接触全てを拒んでいるってこと? それってベウォルクトがやっているのかしら」

「おそらくそうでしょう。今ベウォルクト達にはこちらと連絡をつける余裕がないのでしょう」

「……一刻も早く帰りましょう。出発の準備はできたの?」

「内側の準備は完了しています」

 ハーシェが温かいお茶を運びながら報告してくる。


「海竜が来ました」

 扉の外からズヴァルトが顔を出して告げてきた。

「まだ近海にいたようですぐに来ました」

「ああ来ましたか。では出発準備に入ります」

 レーヘンが水色の髪の精霊を床に置いて立ち上がる。

「海竜?」

「とっても大きな竜なんですよ、ファムさまが倒れていた間に助けてくれたんです」

 首を傾げる私にハーシェが説明してくれた。

「海竜が私たちの移動に関係あるの?」

「はい。海中で海竜に引っ張ってもらう方式で行こうと思います。多少揺れますが、一番早いルートです」

 そう説明しながらレーヘンが扉に向かう。

「そう、なら任せるわ。一刻も早く国に戻るわよ」


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