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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
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襲撃 2 ー挨拶ー

 

 

 

「緊急事態だからな。急ぎで戻ってきた」

 相変わらずの調子でマルハレータは言う。

「マルハレータ、あなたどうやってここまで来れたの? ローデヴェイクはどうしたの?」

「海じゃ遅いから置いてきた。おれ単体なら海の上でも高速移動できるからな。あいつもどうせ後から追いついて来るだろ。って、おい……」

 マルハレータは言葉の途中で錆精霊を見つけ、鋭く睨む。

「コイツはどうした」

「後で説明するわ。危ない存在じゃないから安心して」

 マルハレータは相変わらずバリバリと食事を続ける錆精霊を見つめ一度舌打ちする。

「ちっ、まあいい。先に風呂を借りていいか。海水がベタついて気分が悪い」

「構わないわよ。着替えも自由に使ってちょうだい。場所はハーシェが知ってるわ」

「わかった」


 マルハレータがハーシェに案内されて浴室へ行くのを見送り、レーヘン達と目を合わせる。

「どうも急いで戻ったほうが良いみたいね」

「そうみたいですね」

 本当は夕方か明日朝出発を予定していたけれど、前倒しで出発した方がいいわね。

「ブルム、ハーシェに私の分の荷造りをお願いしておいて。サユカは引き続きベウォルクト達と連絡がつかないか接続を試みてみてちょうだい。一瞬でもいいの。向こうの状況がわからないか試してみて」

『はい』

「わかりました」

 私は手早く身支度を整え直し、再び黒い霧のヴェールを身にまとう。それからとまり木でお昼寝中のザウトに声をかける。

「ザウトちゃん、休んでいる所起こしてごめんなさい。私の護衛をお願いしたいの」

「ふぁい。わかりましたです」

 肩に寝ぼけまなこのザウトを乗せる。

「サヴァ、あなたも警護に行ける?」

「はい」

 既に鎧を着込んでいた騎士は兜を装着して待機してくれていた。

「ナハトとして帰国の挨拶に行ってくるわ。レーヘン、最速で帰国できる一番良い方法を調べてちょうだい。必要ならマルハレータにも協力してもらって」

「わかりました」


 廊下を渡って第二広間に向かうと沢山の人がいた。テーブルには飲み物や軽食が並べられにぎやかな雰囲気になっている。私達が退出した後に会合の終了を待つ人達で交流会になっているみたいね。

 私達が中に入ったとたん、皆がこちらを見て静まり返った。

 ものすごく目立ってるわね。私の黒ずくめの格好もかなり怪しいし、鎧姿の騎士も一緒だし、うさんくさいのは仕方ないにしても、この視線は少し辛い。お偉方は堂々としているけれど、その周囲にはあからさまに顔をしかめる人もいて、なんだか後で落ち込みそうだわ。


「おう、どうしたナハト代表」

 人々の間を縫って眼帯姿のカラノス含む黒堤組が現れた。

「商談のお邪魔でしたか?」

「いや、世間話ついでにうちを売り込んでいただけだ」

「そうですか、わたし達はもう帰国しますが、マヴロ達は頑張ってくださいね」

 カラノスが目を細める。

「何があった」

 ヴェールから少しだけ手を出し、小さく手招きするとカラノスが気づいて近寄ってくる。

「予定よりも国の防衛戦が早く始まったみたいなの。心配だからもう帰る事にするわ」

 背伸びをしてカラノスの耳元に近づき声を潜めて説明する。

「……だいぶ早いな。大丈夫なのか?」

「まだしばらくは持つと思うわ。でも早く帰らないと」

 カラノスにもあらかたの事情は話してあるので、すぐさま状況を理解してくれた。

「うちの船を使うか?」

「いいえ、他の手段を使うわ」

 そう言うとカラノスは怪訝そうにする。

「ここを設営したのは私達よ? 帰国手段も一緒に用意してあるわよ」

 緊急用のだけど


 第二広間奥の第一広間へ続く階段のところには各国の警備組が揃っていた。

「お、どうしたんだ? 今日はもうここに来ないじゃなかったのか?」

 どの集団からも離れた場所に、大空騎士団らしき一団がいて、その中にいたジェスルが私達に気づいてやってくる。

「帰国の挨拶に来ました」

「明日の朝じゃなかったのか?」

「その予定でしたが、準備が出来次第出発することになりました」

「そうか。慌ただしいな」

「それで、大空騎士団の会合襲撃事件についての調査に協力することができないのですが……」

「ああ、わかった。事件当時のくろやみ国の動きは銀色の騎士から大体聞いてるし、俺から伝えておく」

「ありがとうございます」

 詳しい事情を知らないはずなのにジェスルは何か察したらしく、軽口も言わず手短に話をまとめてくれた。

「気をつけて帰れよ。他のみんなにもよろしくな。あの銀の竜にも」

「ええ」

 ジェスルが背後の階段の先を見上げる。

「ちょうどさっき中の話し合いが終わったところだ。じいさん達もすぐに降りてくるだろ」

 私も階段を見上げると、扉が開かれ杖をつくキョプリュがハーリカに付き添われながら現れたところだった。扉前で警備していたケセルもキョプリュの介助に加わっている。

「あ、そうだ。あんた達、これから荒事になるんなら大空騎士団も利用するといいぜ」

「出来るの?」

「ああ。金さえ払えば色々融通もきくぞ。おいメールト、お前資料持ってないか?」

 ジェスルが他の大空騎士団員に声をかける。

 その間に会合に参加していた面々が階段を降りてくる。

「ズヴァルト、ジェスルの話を手短に聞いておいて」

「わかりました」


「キョプリュ代表」

「おお、ナハト代表、どうしたんじゃ」

 階段の下で待っていると赤麗国の紅衛代表と白箔王と側近の二人も降りてきた。

「帰国の挨拶にまいりました」

「随分と早いな」

 聞こえていたのか紅濫と会話していた紅衛代表も近づいてきた。

「予定が早まりまして、準備が整い次第すぐに出発するつもりです」

「そうか。まだ確認したいことがあるのだが、状況が落ち着いたらまた会うことになるだろう」

「ええ。またお会いできることを願っています紅衛代表。どうか皆さんお元気で」

 そう言って青嶺国と赤麗国の方々に礼をする。


 それから、黙ってこちらを見ていた白箔王と向き合う。

「帰国が早まったのですか?」

「はい」

「緊急事態ですか?」

「……はい。ですので、我々はこれで失礼いたします」

 挨拶とともに白箔国の面々にも礼をする。けれど白箔王だけは納得していない様子でこちらを見つめてくる。

「待ってください。私はまだ……」

「ヴィルヘルムス様!」

 突然、明るい声が私たちの背後から聞こえてきた。


 振り返ると可憐な女性がいた。艶のある紺色の髪は高く結い上げられあちこちに白い花飾りが散りばめられ、派手すぎないけれど上質な生地で品良く仕立てられた淡い黄色のドレスを身にまとっている。輝く笑顔には呼びかけた相手に対する喜びの感情であふれている。

「お久しぶりです、ヴィルヘルムス様」

「……エミナ嬢?」

「エミナ、ヴィルヘルムス王はまだそちらの方と会話が終わっていないんだぞ」

 キョプリュの傍らにいるケセルが言葉を挟む。

「兄様。ご、ごめんなさい、私ったら嬉しくてついはしゃいでしまって、ああっ、恥ずかしい」

 エミナと呼ばれた女性はそう言って照れながら頬を押さえる。

 ケセルの妹さんなのね。髪の色も同じだし、青嶺国の方かしら。

 私より数歳年下の、初々しさのあるとても可愛いらしい女の子。

 ……この人が白箔王の噂の姫君かしら?

「あのすみません、まだヴィルヘルムス様とお話中でしたか?」

「……いえ、わたし達は挨拶に来ただけですので、これで失礼させていただきます」

 そう言って紺色の髪のご令嬢にも軽く礼をする。

「あとはどうぞ、ごゆっくり」

 あんまり長くここにいたくない。

「待ってください。まだ」

「急いでいますので、またの機会にお話しましょう。さぁ、ズヴァルト、行きましょう」

 白箔王が何か言い募ろうとするが、手短に言葉を告げて、さっさと立ち去る。


 足早に退出する途中でカラノスに腕を掴まれ、素早く耳元でささやかれた。

「俺にすりゃいい。あいつと違ってずっと傍で守ってやれる」

「あなたはあなたの守るものがあるでしょう?」

 それとこれとは別の話よ。ヴィルとどこぞのご令嬢との関係なんて、今の私とは関わりがない。それだけの話。

 私を守るのはくろやみ国のみんなと、私自身で充分よ。

「……銀鏡海付近には黒堤組の船団もいる。俺達も追ってそこへ向かうから何かあったら遠慮無く言え」

「わかったわ。規模がどうなるかわからないから、戦闘に巻き込まれないよう黒堤組の船の配置に気をつけてね」

「ああ。あんた達生き残れよ」

「もちろんよ」

 きっぱりと答えるとカラノスはふっと笑みを浮かべ、指先ほどの大きさの黒い記憶ブロックを渡してくる。

「うちに連絡するときに利用するといい。あんたらの技術ならこれで俺達の所まで通信回線を作れるだろ」

「ありがとう。もしかしたらお言葉に甘えさせてもらうかも。その時はよろしくね」

 私の言葉に、カラノスが真剣な顔でこちらを見てくる。

「もしもん時は無理矢理さらいに行くからな。覚悟してろよ」

「来れるもんなら来てみなさい。じゃあ、元気でね」

「ああ」

「コトヒトとシシも、またね」

 言葉を投げかけると、カラノスの腰にある剣のうち2本が「カタリ」とふるえた。





 くろやみ国の使者が騎士を連れて立ち去ると、広間には元のざわめきが戻る。

「あの、ヴィルヘルムス様、お元気でしたか?」

 おずおずといった風にエミナがヴィルヘルムスに話しかける。先ほどから何か深く考え込んでいる様子のヴィルヘルムスに構わず話しかけ続ける妹に、ケセルがまた言葉を挟もうとするが、キョプリュの周囲にも挨拶しようと人が押し寄せてきたので注意する余裕が無くなる。

「……ええ。お久しぶりですねエミナ嬢。青嶺国でお会いした以来ですか」

「何度もご連絡をさし上げたのに返事をいただけなくて寂しかったです」

「すみません、忙しかったもので」

「あ、エミナ、お前何してるんだここで。親父さんにくっついて来たのか?」

「ジェスル! あなたちゃんと仕事してるんですか?」

「当たり前だろ」

 にぎやかに会話し始める青嶺国の面々を放置し、ヴィルヘルムスはナハト代表と顔を寄せあって会話していた黒堤組のカラノスに目を留める。目が合うと向こうは意味ありげな笑いを浮かべてくる。一瞬立ち上った強い苛立ちに思わず軽く睨み返すと、相手の笑みが深まった。それに対しヴィルヘルムスの表情は変わらない。

 カラノスから視線を外し、ヴィルヘルムスは傍らのファンフリートとオレマンスに話しかけられるまで、ナハト代表達が去っていった扉をじっと見つめていた。



2018/02/09:ジェスルの部分に少し加筆。

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