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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
89/120

襲撃 1

 

 

 


「ライナ、急いで」

「うん」

 背中越しにシメオンが急かす声に返事をしつつ、ライナは使っていたスコップを置き、手袋に包まれた手でそっと苗ごと土をすくい上げる。用意してきたケースの最後の場所にそれをしまい、しっかりと蓋をするとカートの上に乗せた。

「全部終わったよ!」

「わかった。攻撃がやむ隙をついて戻るよ。カニール!」

「了解した。もうしばし待て」

 声と共に風が舞い、シメオンの肩に大きな羽毛の塊が降りてくる。そのまま翼を広げると周囲に半透明の灰色の壁が生まれる。

 次の瞬間その壁めがけてごうごうと何かがぶつかる衝撃音が響き、ライナは息を潜め、城に戻る時にそなえカートにしがみつく。

「今だ」

 カニールの合図に合わせシメオンがカートの操作部に立ち、ライナを乗せたまま一気に荒野を駆け始める。

 ライナは風圧で放り出されないように背中の羽根を小さくたたみカートの上で身を屈める。移動中にも執拗に攻撃音がするが、背後を振り向くことなく真っ直ぐ進行方向を見つめ続ける。

「これで戻ったらもう外には出ないからね!」

「うん。ごめんねシメオン。カニールもありがとう」

 無茶なお願いを聞いてくれたシメオン達に感謝しつつライナはケースの中身を思いやる。ここが戦場になる前に土地の回復の兆しを野ざらしにしておくわけにはいかなかった。





「うーん」

 目の前に広げた三通の証書を眺め、腕組みしながら深く息を吐く。

 結果として、三国からは三者三様の答えをもらった。


 青嶺国は国として認めるのは国王の承認が必要とのことで、保留。不可侵条約はうちの国内が落ち着くまでという条件で調印できた。


 赤麗国はこちらも国王に確認が必要なので国として認めるのは保留。不可侵条約は無し。ただし今回の騒動に介入するつもりはなく、様子見とのこと。要するに、しばらく放っておいてくれるらしい。


 そして白箔国。まさかの即決で国として承認してくれた。ただし不可侵条約は不締結。そのことについて白箔王から詳しい説明はなかった。

 彼が何を考えているかわからない。今の私には他国の王の考えを読めるほど先読みの力はない。けれどそれなりに親しかったあの人の考えなら少しはわかると思っていた。会合前は国として認めたくなさそうな事を言っていたのに。


 赤麗国と青嶺国との証書はそれぞれ証文を取り囲む装飾紋の半分ほどが色がついていない状態になっている。これは向こう側の証書と繋がっており、あちらの国王が調印するとすべてに色がついて証書が完成する。白箔国との証書はもう完成しているので装飾紋は全て色がついており、片方が証書を破棄しない限りもう変化はない。


「まあとにかく、国として前進したわね。完璧とはいえないけど、一応うまくいったのかしら」

 あとの交渉は目先の問題を終えてからになるわね……考えることはまだ沢山あるけれど、今は疲れた。

 ソファにぐったりと身を預け、温かいお茶を飲む。ああ、おいしい。


 他の三国は各国の細々とした決め事をするために残っているけれど、私たちは先に自室に戻って帰国の準備に入っている。私も休息を終えたら荷造りをしなくちゃ

「セイレイのオジサン。家具はいいけどこの建物は食べないでよ」

「アイよ〜。あと国民だロ? こんだけありゃ他は食べねえよ」

 ソファ裏で錆精霊がごりごりと黒のお皿を囓っている。あれって味はあるのかしら?

「何か言いたそうね、レーヘン」

 向かいのソファにはレーヘンがいて、眠るザウトを抱えてこちらを見てくる。

「こちらが伝えてなかったのもありますが……まさか錆精霊と交流があったとは知りませんでした」

「本気で話せば分かる相手よ。精霊同士だと噛られる危険があるから難しいのかもしれないけど。そうね、白箔国に住む前は親に連れられてあちこち転々としていたから、色々あったのよ」

 そもそもレーヘン達が錆精霊について黙っていたから、 私も昔の事を出さなかっただけだもの。

「なんだか他にも何かありそうな様子ですね」

「ふふ、女は秘密を持ってるものよ」

 不思議そうに首をかしげるレーヘンを眺めつつ、一口大のフルーツクッキーをつまむ。やさしい甘さが口の中に広がって、元気が出てくる。

「ファムさま」

「どうしたの、ハーシェ」

「サユカが本国と連絡が取れないらしいんです」

「え、もう? いつ頃からなの?」

 本国に攻撃が始まれば連絡が取れない状態になる。でもまだ早すぎるわ

 ハーシェの腕に抱えられたサユカを見る。

「今朝からです。ベウォルクトとの通信だけでなく本国との接続全てが断たれています」

 全て? どうなっているのかしら。

「もうそこまで来てるの? 早すぎない?」

 思わず立ち上がり傍に立つ騎士を見る。

「全遮断って……サヴァ、これって」

「銀鏡海を越え、城が攻められている場合です」

 サヴァの中でも想定外の状況らしく、眉間に皺ができている。


「ン?」

 錆精霊が突然皿を囓るをやめ、顔をあげる。

「ファムさま、外に」

 レーヘンの目線の先、ベランダを見ようとした瞬間、激しい波しぶきと何かが霊晶石製の窓に当たる。

「な、何?」

「こちらも想定外の到着ですね」

 レーヘンが素早く動いて窓の鍵を開けると、外から見覚えのある人物が入ってきた。


「よう」

 海のどこから来たのか、外に船のようなものは見当たらない。髪の一部と両手は濡れているのに何故か足元と服は乾いている。

 雫を振り払うように銀色の前髪をかき上げ、雨雲のような色をした瞳がまっすぐにこちらを見た。

「マルハレータ!」


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