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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
88/120

海の騒乱 15 ―説明―

 

 

 


 私が強い言葉で言い切ると室内は静まりかえる。

 そのまま全員が話を聞いてくれそうなので、背後の精霊に合図してそれぞれの机の上に半透明に光る簡単な地形図を出す。

「これは我が国の本島と、その周辺一帯から大陸沿岸までの地図です。島を中心に周辺海域、銀鏡海一帯までがくろやみ国です」

 私が手を振ると、一箇所に矢印が現れる。そしてさらに地形図の大陸の一箇所から海に線が走り、くろやみ国の島へと続いていく。

「この矢印の地点が相手の現在地になります。矢印から続く線は予想される移動経路。ご覧のとおりまっすぐ我々の島へ向かっています。海流の状況も考えて、彼らが我が国の海域に到達するのは今から早くて三日後。その後確実に防衛戦が開始されます」

 これがわかったのは国を出発する直前。だから事前に考えられる限りの準備をしてきた。


「物騒な話じゃのう」

 キョプリュはそう言って眉の下から青い瞳で私を鋭く見てきた。

「相手はどちらかの?」

「かつて黄稜国の中枢部にいた集団です。彼らは生き残り、大陸を拠点に存在する大規模な組織となっています。その一部は今回襲撃してきた玄執組なのですが、緑閑国で騒動になった秘密組織もこちらと関わりがあったようですね」

 赤麗国の紅衛代表が目を細めた。

「大陸内部の話なのにずいぶんと詳しいな」

「それについては偶然です。運良く手に入った情報のおかげで対応策を練ることができました。しかし、この手の情報は赤麗国も既に手に入れているのではありませんか?」

 はぐらかしつつ問いかけると紅衛は頷いた。

「ああ。玄執組が元黄稜国の者と繋がっているのは知っていたが……だが我が国内に巣食い朱家を抱き込んでいた所までは掴めていなかった。……今回の襲撃に関しては改めて各国に対し謝罪したい」

「それは事態が収拾してからじゃの。それと紅家だけで始末せず、ほど良く大空騎士団を仲介させる事を勧める。外からの印象がよくなるぞ」

 いまだ弱々しさのある声でキョプリュが穏やかに助言する。今回の会合襲撃で一番危険な目に遭ったのはこのおじいちゃんかもしれないのに、責める様子がないのは人柄なのか、それとも器の大きさを見せるためなのかしら。


「それで、なぜくろやみ国がその者達に狙われているのですか?」

 白箔王が尋ねてきた。

「理由をご説明します」

 そう言って、軽く間を置く。大丈夫。公開する情報は選んできたんだもの。ちゃんと説明してみせるわ


「まずお伝えしますと、我が国は他国からみて魅力のある土地ではありません。土地は枯れ水も果て、生物もごくわずかです。ですが我が国には前身となった暗病国の遺産がそのまま残っています。今回の精霊の集めたランキングをご覧になった方はご存知でしょう。くろやみ国の技術水準がひときわ高くなっていますが、これは遺産を保管し、管理するために必要なものだから存在するのです」

 そう言って地図の上に別の画面を出し、精霊の作った例のランキングを表示させる。くろやみ国が最上位にきている技術方面のものと、国土や天然資源などの最下位になっているものをいくつか

 くろやみ国の保持しているものには様々なものがある。危険なものも多くどれも扱いが難しい。これが暗病国という存在が残り続けていた理由。ベウォルクト達は国の遺産の管理を放置するわけにいかなかった。

「そして今回『くろやみ国』として再建国しましたが、過去の遺産を保持している事には変わりありません」

「つまり狙いはそこにあると? ただの移住目的ではないのですか?」

「他の難民ならその可能性もありますが、それならばくろやみ国でなくとも元から彼らのものであった元黄稜国の土地があるはずです。移住目的でしたらわざわざ辺境の島まで来たりはしないでしょう」

 黄稜国のあった地域も暮らすのが大変そうな土地だけど、うちの瘴気にまみれた空と大地よりは遥かにましなはず。


「黄稜国はかつては豊かに栄えておったが、たった一晩で消えてしまった。国土全域が全て砂漠と化した。王族達はおろか王都にいた者は全員死に絶え、国精霊は他の精霊を逃した後、何も言わず自ら消滅したそうじゃ。何かの実験に失敗したせいらしいが、他国は何も知らされておらんかったし、今でも不明な事が多いが、あの辺りはずっと生き物がおらん、砂と石しかない土地になっておるのは事実じゃ」

 そこまで言うとキョプリュは軽く咳込み、ハーリカ王妃から小瓶を受け取って中身を飲んでひと息つく。

「そして運良く逃げおおせた中枢部の者達以外、何故消滅したのか原因を知らん。おそらくその実験が失敗した理由は生き残った者達でさえ知らんだろうな。そして、そこに高い技術力を持った小国が生まれた」

 キョプリュがこちらを見る。彼の説明は精霊たちから聞いていた内容とほぼ同じ。キョプリュ前王は黄稜国が滅んだ頃まだ在位していたから詳しいのね。

「生き残り、失敗を悔いた者たちはその小国に注目するじゃろうのう」

「その通りです。彼らはくろやみ国を利用して再び同じ事をしようとしています。万一にでも島を消滅させるわけにはいきませんから、協力するつもりはありませんが」

 そこでまた一呼吸する。冷静に話し続けられるように

「彼らは我が国を占領して、同じ実験をするつもりだという情報も手に入れています。さらに他にも手を拡げるでしょう。彼らは精霊を捕まえ加工して道具として使用する程『好奇心旺盛』な方々のようですし、精霊達の忠告に耳を貸すこともしないでしょう。そんな集団に国内で保管している危険物に触れられ、無闇に扱われては困るのです。今度は国一つの規模どころでは済まないでしょう」

「あいつらは国を潰すだけで収まらんという事か」

「わたし達はそう考えています」

 そこで言葉を切り、机の上に用意してある水の入ったグラスを持ち上げヴェールの下でふた口ほどゆっくりと飲む。ナハトとしてずっと喋り続けているからか、普段とは違った重たい疲労を感じる。

「我が国にあるものは大陸で発展した技術系統とは違うものが多く、はっきり申し上げますと現在のところ国外の方々の手に余るものばかりです」

 ひとつ息を吐く。さあ、説明の続きよ。

「具体的に例を出しますと、かつて人の手で作られた『細菌』などがあります。これは目に見えない小さな微生物を加工したものですが、人間にとって死に至る危険な流行り病を作り出し、種類によっては建物や大地を腐らせるものもあります。眼には見えず風に乗って運ばれますので、誤って保管している部屋を開かれるだけで地上の全生物にとって命取りになります」

「そんな危険なものを何故保持し続けているんだ?」

「紅衛殿下、理解していただきたいのですが我々はこれを使用するために保持しているのではありません。もし万一他の場所で同じ物が見つかった場合に対処するために治療薬と共に保管しています。かつて存在していたものですので、どこかに残っている可能性はあるのです」

 可能性というか、ベウォルクト達が言うには本当に世界各地に存在しているらしい。今は各地の妖精達が管理していて、本当に危険なものには人間が近寄らないようにしているらしい。

 ちなみにいえばこの『細菌』、城に保管してある物の中ではそんなに危なくない部類に入る。もっと危険なものが城の奥深くにいくつも存在し続けている。もう使い道もなく、なかなか処分できない、やっかいで扱いの難しいものが。


「つまり、彼らの目的はくろやみ国の乗っ取りということですか?」

 白箔王の真っ直ぐな目を私はヴェール越しに見つめる。

「はい。そしてその先にくろやみ国が黄稜国と同じ道をたどる可能性がある以上、彼らに対し私たちは自衛行動をとります。封印している危険物に触れさせないために、そして、我が家を守るためにです」



「しかしそこで何故国としての認可と不可侵条約を希望する事になるのかね? 防衛戦になるのなら大国に助力を求めた方が良いだろう。紅家は玄執組の船から脱出した際にナハト代表に借りがある事を忘れないでいただきたいが」

 紅衛が言う。物言いは鋭いけれど、条件も提示せずに私達に助力を申し出てくれた事は嬉しい。けれど……

「申し出をありがとうございます。ですが、助力は必要ありません」

「他国に介入される口実になるわけにはいかないからか?」

「……それもあります」

「相手は大規模な集団ではないのですか? 国内外が安定するまで多少の介入覚悟で他国の助力を得たほうがいいと考えますが」

 紅衛に続いて白箔王が言う。

「そうかもしれません。ですが我が国は国王を中心とした独立国家でいることを求めます。どこからの支配も干渉もされるつもりはありません」

 一つの国が海賊に襲われるのと、単なる地元集落が海賊に襲われるのとでは後者の方が遥かに部外者が口をはさみやすい。それは内部の状況に介入し、干渉されるきっかけになってしまう。


「今回我々は相手に対して全力で立ち向かいます。侵略されるつもりはありませんし、策は立てています。ですが周囲へ配慮する余裕は無いので、銀鏡海の外側で様子を伺うことは問題ありませんが、戦闘の余波で損害を受けても我々は責任を取れません。戦闘の規模を拡げるつもりはありませんが、国同士の条約があれば万一の場合に皆さんを巻き込むことを防げます」

 お互いに不可侵の条約があれば。

「そして我々が敵側に回ることも回避できるということか」

「そういうことにもなります。我が国は戦力はありますが……ああいった存在もいますので、きちんと条約を結んで『敵ではない』と条件付けておかないと誰でも関係なく攻撃しそうなのです」

 そう言って相変わらずバリバリと音を立てて食事をしている錆精霊を示す。これには誰も反論してこなかった。国精霊でも手を焼いていた存在は説得力があった。

 本当は他にも暴走癖持ちがうちにいるけれど、これは特に説明しないでおく。彼らも条約を結んだ相手国なら攻撃しない分別くらいあるはず。多分

「戦闘が落ち着いた後でしたら、我が国は他国からの交流要請に応じます。なにかしらの問題が起きた場合はまずお互いの言い分を聞き、話し合いによって解決する意思もあります」

 そこまで言い、私は息を吸った。

「わたしからの話は以上です。どうか国として認めていただけませんか?」


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