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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
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海の騒乱 9 ―依頼―

 

 

 

「回復のためにはあと半日はしっかり休んでいただきたいのですが」

 レーヘンが眉間に皺を寄せながらゆっくりと私を抱え上げた。

「この話し合いが終わったらまた休むから」

 寝たままだとちゃんと判断できないんだもの。


 運ばれながら小声でレーヘンに私が眠っていた時間を確認すると、そんなに経っていなかった。もう夜になっていたけれど日付はまだ会合初日。うちの国も含め全員無事に助け出されていて、襲撃相手も国々が協力してしっかり捕縛済。

 私はヴェールが外れていたのが短時間だったおかげで今回は数時間で目覚めることが出来たらしい。

「加えて、緊急時に命脈を休眠状態にするよう衣裳に施してありましたから大事に至りませんでした」

「それ、聞いてないわよ」

「緊急用なので」

 文句を言う前に一人がけの布張りソファに降ろされた。


「ファム、身体は本当に大丈夫ですか?」

 そう言いながらヴィルが私の腰から下にゆったりと毛布をかけてくれる。他国の王に介抱されちゃって、いいのかしらこの状況。

「ええもう随分平気よ。ありがとう」

 私の向かいにカラノスが座る。

「じゃあ現状の説明するぞ。ついでに白箔王にも聞きたいことがある」

「わかりました」

 カラノスの言葉に丸テーブルを囲むようにしてヴィルも席についた。法術士の道具は身につけておらず、白箔王の上着を肩に羽織り、腕には茶色の小鳥を乗せている。


 ハーシェは私の膝の上にちょこんとザウトを置くと、透明な液体の入ったカップを手渡してくる。

「こちらをゆっくり飲んでください。身体を落ち着かせる効果があります。話の途中でも体調に変化を感じたらすぐにおっしゃってください」

「わかったわ」

 カップにそっと口をつけると温かくて甘い味がした。


「ええと、それでまず聞きたいのだけれど、救援要請というのは?」

「ニカノル」

「へい。あっしが説明します」

 カラノスの背後に立つ副官ニカノルが口を開いた。

「現在赤麗国と青嶺国が制圧した玄執組の船の事後調査に当たっているんですが、どうもわけわからないものや見知らぬ設備があるってんで、くろやみ国の手伝いが欲しいと連絡が来ています」

「ああ、それならワタシが行ってきます。ちょうど確認したいこともありますので」

 そう言ってレーヘンが手を挙げる。

『気分転換にお供しますわ』

 そう言ってブルムが飛び上がった。

「他国の人にあんまり失礼な真似をしちゃ駄目よ」

「はい」

『わかりましたわ』

「ファムさま、何かあればサユカに伝えてください。すぐに戻りますから。それと今日は早く寝てくださいね。もちろん薬は忘れずに飲んでください」

「わかっているわ。アナタ達も無茶しないようにね」

 安心させるように微笑んでみせると、レーヘンも微笑み返すが、すぐに真剣な面持ちになりサヴァを見る。

「くれぐれもそこの王から目を話さないでくださいよ」

「ああ。わかっている」

 レーヘンは言うだけ言うとブルムを連れて部屋を出ていった。

 入れ替わりに盆を持った黒堤組の青年が入ってきて、カラノスの耳元でなにかをささやく。



 ふと視線を感じてヴィルを見ると、彼はなぜか私を見て眉間に皺を寄せてなんとも言えない表情になっていた。

「どうかした?」

「……ファムと精霊のやりとりを久々に見たので」

 なんだか含んだ言い方ね。

 彼は何かを振り払うように頭を振ると、カラノスに向きあう。

 ヴィルの雰囲気が一気に変わった。

 視線に重みが増し、冷え冷えとした表情。冷徹で評判の白箔王の顔になる。

「それで、大空騎士団からなんと連絡が来ましたか? マヴロ」

 え、大空騎士団?


「鋭いな。今のはまさしく大空からの連絡だ。どうしてわかった?」

「経過した時間からそろそろ到着する頃だと読んでいました。複数の国が巻き込まれた事件は大空騎士団の担当です」

 青年の持つ盆から自分でグラスをとり、カラノスは口の端をゆがめるようにして笑う。盆に載っていたもう二つのグラスは青年の手でヴィルと私の前に置かれた。

「お察しのとおり、大空がこの騒動の後片付けを担当することになった。そのために事情聴取をしたいらしい。各国から最低一人は来いとさ」

「集合場所は?」

「この船か、大空の船だ。玄執組の船に攻撃されて耐えられるのはそれくらいだろ。まあどっちにしろ俺達も参加させてもらうつもりだ」

「全員が集まるとなると開始までに時間がかかりそうですね。指揮はジェスルあたりですか?」

「そこまではまだわからんが、騎士団長も動いてるらしい」

「そうなるとさらに時間がかかりますね……」

「ずいぶん時間を気にしているな」

「うちの使節団にも内通者がいたんで、さっさと処理を済ませたいんですよ。掴む尻尾は多いほうが後で楽になりますから」

「ほお、それはそれは」

 淡々としたヴィルの言葉にカラノスが意味深な笑いを浮かべる。

 この二人の会話、さっきからやたら早くて割り込めない!

 あと、いつの間にか物騒な内容になってるわ!


「はい! 質問!」

 なんとか隙をみつけて、ようやく二人の注意を引くことに成功した。

「会合用の施設は使わないの?」

「確かにあの会場も安全でしょうが、転移の形跡の調査がまだ終わっていませんし、現在は国精霊達から一時退去の指示が出ていて立入禁止になっています」

「精霊が?」

 国精霊達が指示するって、余程のことよね。後でレーヘンに確認してみないと。


「それって、会合は再開できそうなのかしら?」

 一番重要なのはそこだわ。

「状況が落ち着かないかぎり無理だろうな。あとは開催主要国の判断次第だ」

 カラノスがヴィルに視線を送る。

「現時点では状況次第としか言えません。白箔国は私と補佐官が一人いれば参加可能ですが、青嶺国と赤麗国はまだ混乱している状況ですから」

 

「くろやみ国は会合の続行を希望します。せめて、主要国とだけでも」

 なんのためにここまで来たのかわからないわ

 手ぶらで帰る気なんてないわよ?


「カラノス、いえ、黒堤組のマヴロ。お願いがあります」

「なんだ」

「青嶺国と赤麗国の使節団に面会依頼を」

 私達で伝令を飛ばすより、情報のやりとりに慣れた相手に頼むほうが早い。


「構わないが、日時は?」

「なるべく早く。すぐにでも」

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