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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
80/120

海の騒乱 7 ―説教―

あの世じゃないです。

 

 

 



「何度も何度も、ワタクシは無茶をなさらないでと、あれほど念をおしたのに!」

 私はベウォルクトに延々と説教されている。

 いつの間にか暗くて薄ぼんやりとした場所で正座していて、目の前にベウォルクトが仁王立ちで立っている。じゃりじゃりした砂が足にあたって痛い……


「アナタだって大丈夫だって言ってたじゃない」

「それは我々の用意した状況の中での話です!」

 口を尖らせて反論すると、精霊はますます怒りだした。


「あんな、無理やり精神を繋げるようなことをするだなんて。あんなことをしたら、本当に人でなくなってしまいます!」

 ベウォルクトは珍しく感情をあらわにしながら早口で喋っている。しかもなぜだか今は顔が布で覆われていない。だんだん怒られ慣れてきて余裕が出てきたので、何とか顔が見えないかと目を凝らしてみるけれど、なぜだか動く口元以外は靄がかかったようによく見えない。


「まったく、こちらが精一杯人間でいられる状態を保とうとしているのに、あなたという人は!」

「ご、ごめんなさいね?」

「ごめんで済むなら治療も薬もいらないんです!」

「そ、そうね」

「まったく、戻ってこられたらどうなるか、覚悟はしておいてくださいね」

「ええ、覚悟しているわ」

 戻って……戻る?

「そういえば、ここはどこなの?」

 周囲を見渡してもはっきり見えない。広いから屋外なのかしら? 

 風もない。匂いもない。地面は砂利みたいだけどなんだかキラキラしている。

 霧のようにぼんやりとした先を見つめてみれば何かの奇妙な影がちらほら見える。山みたいにありえない大きさのものが音もなく移動していたり、小さな影の動きがやたら細部までわかったりと、訳がわからない。わずかに音も聴こえるけれど、金属のようなものを床一面にまき散らしたような音や、砂嵐の中で食器がぶつかっているような音ばかりで、こちらも意味不明。

 理解できないものばかりで、あまり意識を集中させてはいけない気がして、なにもかもがぼんやりとしか認識できない。


「はっ、そういえばファムさま、どうしてここに?」

 私が口答えしなくなったのでベウォルクトは少し落ち着いてきたらしい。

「さあ? なんだか見たことない場所だけど。ここはどこ?」

「ここは精霊界ですよ」

「えっ? なんで私そんなところにいるの?」

 というか精霊界って何?

「肉体から精神が抜けだしているのですね。これ以上ここに馴染んでしまうと非常にまずい。さあ、早く」

「え? え?」

 ベウォルクトに引っ張られて立ち上がり、歩き出す。


 気がつくと巨大な湖のほとりにたどり着いていた。あたりはやたらと薄暗くて、湖面には波もなく、水の匂いもしない奇妙な場所。そのまま背を押され透きとおった水面が見える湖畔まで歩いていく。

「ち、ちょっと」

 もう歩くとこ無いわよ! 足元から水面を覗くと青空が映りこんでいて、白い雲も見えた。それに……

「ちょっと、あれ何よ」

「大陸ですよ」

「どういうことよ!」

「精霊界はこの惑星上の大気中に存在するんですよ。人間の目には見えませんし触れることも出来ませんが」

「見えないのにどうして私がここにいるのよ」

「だから危険なんですよ。まったくレーヘンは何をやっているんだ。アクシャム達もついているはずなのに」

 何かごちゃごちゃ言いながら精霊は私の背をぐいぐいと押してくる。

「ちょっと、危ないから」

「さあ」

「えっ」

 最後にずいっと突き飛ばされ、私は足を踏み外した。

 風が駆け抜け、一気に引っ張られるような感覚と共に真下へと

「ちょっっと、落ちるっ!!」




「なにしてくれんのよベウォルクト!!」

 大声で叫ぶと、寝台の上だった。

 目覚めた勢いのままにあたりを見回すと、またしても知らない場所。壁と天井からして室内。

 どこよここ!


「ファムさま!」

「えっ」

 どこかの寝台の上に寝そべる私をレーヘンとヴェール姿のハーシェが覗きこんできた。

「よかった。戻ってこられて」

 レーヘンはそう言うとすごい勢いで手首と首元に触れてきて、何かを確かめている。

「もう大丈夫ですわ」

 ハーシェがそう言って、ふんわりと抱きしめられた。

「身体は大丈夫ですか、ファムさま」

「うん。今のところ平気みたいだけど……」

 ハーシェに介助されて起き上がると膝に何かぽとりと落ちた。水?

 自分の頬に触れると濡れていた。

「私、泣いていたの? 眠りながら?」


「ファムさま、これを」

 レーヘンが次々と渡してくるなんだか分からない薬を大量に飲んでいると、ぼんやりと意識を失う前の出来事がよみがえってきた。

 折角会えたのに……せめて、一瞬だけでも言葉を交わしたかった。

「ねえ、ハーシェ。私なんだかとても素敵な夢を見た気がするわ」

 あの人に、抱きしめられる夢。

「一言でもいいからちゃんと話をしたかったな」

 思わずそうつぶやいて、涙を拭いて立てた膝の上に額を伏せた。


「誰とですか? ファム」

「もちろんヴィルとに決まってるじゃない……って、えええっ!」

 なんだか扉のところに見覚えのある人が立ってるように見えるんだけど!

 一体どういうことなの!?


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