精霊と国土 1
「アンタ達は個別に名前あるの?」
銀色の精霊たちはお互いに顔を見合わせた後、
「精霊同士でのよび名はありますが……『 』といいます」
と、銀色その二が答えた。名前を発音してくれたらしいんだけど、私には聞き取れなかったわ。
「じゃあ私の配下として、人間に発音出来る名前を貰ってくれない?」
「はい」
「よろこんで」
私は精霊達をしばらく眺めて、名前を決めた。
「まず私をここに連れて来た方がレーヘン」
「はい」
レーヘンがうなずいた。
「私を出迎えた方がベウォルクト」
「わかりました」
ベウォルクトがお辞儀をした。
「じゃあレーヘンとベウォルクト、これからよろしくね」
そう言って私が両手を差し出すと、レーヘンとベウォルクトはおずおずと握手してくれた。
あら、もしかして王さまが配下に握手求めるのって変だったかしら?
「ずっと気になっていたんですが、ファムさまは精霊についてお詳しいですね。ワタシをひと目で精霊と見抜かれましたし」
レーヘンが握手した自身の手を珍しそうに眺めてから言った。
「うちによく現れたのよ、精霊。だからいろいろ慣れちゃって。両親が精霊関係の仕事をしていたらしいの。二人とも私が子供の頃に死んじゃったから詳しくは知らないけど」
そのうち調べようかと思っていたけれど、全部燃えちゃったわ。
「だから属性とかのあんまり真面目な知識はないの」
まあ人間と言葉を交わせる精霊のほとんどがすっとぼけた性格してるってくらいは知ってたけれどね……。
「ねえ、アンタ達人間の姿にはなれないの? 仮面と布巻いた顔じゃ人形を相手している気分になるわ」
ベウォルクトがちょっと考えてから答えた。
「じつはこの布の下は人間の姿なんです。大昔の人物の模造ですが」
「え、そうだったんですか?」
レーヘンが驚いた。アンタも知らなかったの。
「もしかしてベウォルクトの方が年上なの?」
「我々には年齢の概念はあまりないのですが……そうですね、ワタクシの方がかなり古いです」
聞けば、ベウォルクトは数千年単位で、レーヘンは千年ちょっとだそうよ。
私がこの国の最年少ね。
ちなみに十九歳よ。
「ワタクシは大昔の尊敬していた王の姿を借りています。ですが人の体はメンテナンスが面倒なので、こうして保存布で覆っているのです。もしご覧になりたいのでしたら、数日お待ち下さい。準備しますので」
「今その布の下はどんな状態なの?」
「ずっと放置していたので色々溶けて癒着してます」
聞かなきゃ良かったわ……
「レーヘンは?」
「ワタシは持っていません。人間と同じ外見を持つには、人間の手伝いが必要なのですが、ワタシが生まれた時はすでにこの国にはほとんど国民がいませんでした」
ちょっとうつむき加減でレーヘンが言った。
「ファムさま、レーヘンの姿を創ってみませんか? 王座での力の使い方の練習として」
ベウォルクトが突然言い出した。
「ワタシは実験台ですか。よろこんで!」
なんで実験台で喜ぶのかしら……
「では王座に座り、大まかで結構ですので希望の姿を思い浮かべて下さい。あとは王の間が補正してくれます。言葉に出すとさらに具体的になりますよ」
「わかったわ。ちなみに、アンタの希望はある?」
私がレーヘンに尋ねると、精霊は両手を握りあわせて祈るように言った。
「はい! どうか筋肉隆々で、大熊と見間違えるような雄々しい猛者の姿に」
「却下!」
「どうしてですか!」
「そんなの、むさくるしいじゃないの! はい、決めましたー。細身の体格で銀髪が似合う、顔の綺麗な青年!」
「わっ」
私がそう宣言すると、レーヘンの全身が一気に黒くなり、それが溶け消えるようにして新しい姿が現れた。
肩先にかかる程度の流れるような銀の髪、中性的な輪郭にすらりとした鼻すじと薄い唇。白くきめ細かな肌。そして銀のまつげにふち取られた、うっすらと青みがかった灰色の瞳。穏やかな星夜を思わせる美しい青年が現れた。
「んーいい出来。この顔なら側にいるだけで良い癒しになるわ」
私がにこにこしながら近寄って頬をなでると、レーヘンは眉間に皺をよせてこっちを睨んできた。
「どうして猛者はだめなんですか……」
落ち込んだ声を出す。それもまたイイ。
レーヘン=雨
ベウォルクト=曇り
です。オランダ語で、今まででてきた人名や爵位も同じくです。
2018/02/21:少し加筆。