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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
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海の騒乱 4 ―遭遇―

 

 

 

 部屋に残っているのはキョプリュを始めとする青嶺国使節団の数名と白箔国のヴィルヘルムスのみ。

「転移直前に見た状況では他の国々も別の場所へ転移させられたようですが、我々だけ別になっているのは事前に参加者の情報が流れていたと考えるべきですね」

「おおかた情報元は赤麗国かの。あとはくろやみ国も見当たらんが、まあ手を組んではおらんだろう。あの国が我々に喧嘩を売るとは思えん」

「どうして断言できるんですか?」

「会合前にナハト代表と話した。あとはアクシャムから少々話を聞いてな。あそこは随分と面白い国だ」

 キョプリュは額に汗をうかべながら微笑む。老人には似つかわしくない危険を楽しむよう表情は、孫のジェスルとよく似ていた。

「赤麗国なら朱家が動いているのかもしれません。会合の赤麗国側の責任者は紅衛です。我々二国に何かあれば彼の責任問題になります」

 ヴィルヘルムスが床を見つめながら言う。遠出している部下からの情報では赤麗国の紅家と朱家の関係はもはや内乱一歩手前だという。

「どちらにしろ白箔国と青嶺国は無事に返してくれそうにないということか。ん?」

 キョプリュの様子を見ていたケセルが立ち上がり、扉を見る。

「覚えのある足音が近づいてくるぞ」



「お、ここは青嶺の爺さん達にヴィルヘルムス王か」

 荒々しく開かれた扉から紅濫が現れた。

 赤い髪を振り乱し、長身をかがめて中に入ってくると口の端を歪めて笑う。続いて先ほどヴィルヘルムス達が話題にしていた紅衛代表が入ってくる。

 紅衛は鋭い目付きで部屋を見渡し壁から法術の“結索けっさく”で拘束されたヴィルヘルムス達を確認する。

「我々と同じ状態だな。ナハト代表、頼めるか?」

「わかりました」

 中性的な声と共に紅衛の背後からがくろやみ国のナハトが現れ、その姿を見てヴィルヘルムスの身体に力がはいる。


 ナハト代表は部屋の中を見渡すと黒い霧のようなヴェールの中から細い腕を出し、肩に止まる灰色の鳥に触れた。その瞬間部屋中に展開されていた“結索けっさく”がすべて解除される。

「見事なものだな。そう思わないかヴィルヘルムス」

 ヴィルヘルムスの耳にケセルの感嘆に満ちた声が聞こえるが、彼はただじっと黒い姿を見つめ続けていた。






 青嶺国の面々と白箔王の拘束を解除すると、肩のザウトがいきなり転がり落ちた。あわてて床とぶつかる前に手で受け止めると、灰色のふくろうは目を閉じて荒い息をしている。

(「大丈夫?」)

 人目につかないようヴェールの内側に隠しつつ小声で話しかけると、頭のなかに弱々しい声が響いてきた。

『すみません。ここの強い結界にずっと干渉していたので、だいぶ疲れました、です』

 ふうふうと呼吸をしながら一瞬ザウトの目が開くが、すぐに閉じてしまう。

(「わかったわ。何かあったら赤麗国の人を頼るから、アナタはしばらく休んでいて」)

 小さな身体をそっとなで、ワンピースのポケットからハンカチを出してぐったりしたザウトをそっと包み、両手で持った。


「やはり朱家か?」

「ああ。それとおそらく玄執組だ」

「そいつは面倒だな」

 紅濫とケセル達の会話を聞きつつ、ほっと一つ安心したところで部屋の外が騒がしくなった。


「いたぞ、紅家だ!」

 荒々しい声が聞こえ、“何か変なもの”が廊下の空間を埋め尽くすように現れた。

「まずい、避けろ!」

 紅濫が声をあげ、全員が扉の傍から部屋の奥へと逃げる。あっという間に扉はぶよぶよした黄色い物体で隙間なく塞がれてしまった。何か制約があるようで一定以上は部屋の中に侵入してこない。

 なにかしらこれ、生き物のようにうごめいて、不気味ね。


「玄執組の道具ですね。略奪行為を行う時に相手の船内にこれを放ち、空間ごと制圧するんです」

 そう言いながら紅梅がぶよぶよの表面に武器を叩きつけるが、強い力で弾かれてしまう。

「おい触るな。毒が仕込まれているかもしれん」

 紅濫が紅梅や触れようとしていた他の部下達に注意する。


「玄執組ということは、これも元は精霊なのか?」

 紅衛の問いかけに私はゆっくりと頷く。

「そのようです。しかも複数使われているようです」

 はっきりとした違和感を複数感じる。どうして分かるのかは謎だけれど、私には嫌というほど“材料”が理解できてしまう。

 

「逃げ道が塞がれてしまいましたか」

 聞き覚えのある声に一瞬心臓が跳ねる。

「キョプリュ前王はどうされたのだ、白箔王」

 紅衛が尋ねる。

「強制転移の影響が出ています。この方には負担が大きかった」

 そう言いながら彼はケセルと一緒にキョプリュの様子を調べている。

「キョプリュ様の容態はどうなんだヴィルヘルムス」

 ケセルはそう言うと真剣な表情で壁際にうずくまり動かないキョプリュの汗を拭きとる。

「血管が複数傷ついて危険な状態です。この身体には法術も普通の精霊術も使えない。我々だけではここで処置できません」

「この体はまだ持つ。そう心配するな」

 二人に対し老人は強気の言葉を投げかける。けれど顔は歪み、滝のように汗をかいている。キョプリュの身体はなにやら変わった気配がするし、原因は高齢のせいだけではなさそうね。今の私でもどうこうできそうにない。


「そういえばハーリカ王妃はどうされました?」

 紅祢が尋ねると、キョプリュが顔を横に振る。

「転移から姿が見えん。他の何人かも同じく行方不明じゃ」

 紅祢が紅衛と視線を交わす。

「うちと同じ状況のようですね」

「まずい状況だな」



「あの」


「なんだ?」

 ちょうど静まり返った所で声を上げたので、一斉に私の元へ視線が集まった。

「私に考えがあります」

 やっぱり緊張するわね。おもわず声が裏返っちゃった。


「この部分の壁に内部を傷つけずに穴を開けたいのですが、どなたか手伝っていただけませんか?」

 壁のある部分に手を触れながら助けを求める。

「どういうつもりかね、ナハト代表」

「脱出の準備です」

 紅衛の訝しむ声に答える自分の声がどこか他人のように聞こえる。

 部屋の全員を見渡すと、深い海のような青い瞳とぶつかった。

「わかった、ケセル」

「は、はい」

 荒い息のキョプリュが指示を出し、ケセルが腰の剣を抜く。

「俺だけだときついです。ヴィルヘルムス王、いけるか」

「……わかりました」


 私が示した場所にヴィルヘルムス王が光の幕を張り、そこをケセルが剣で何度か突く。

「この子、すこしの間だけ預かってもらえませんか?」

「ええ」

 傍にいた赤麗国の紅祢にハンカチごとザウトを預ける。

『ナハトさま……?』

(「大丈夫よ、ザウトちゃん」)

 不安そうに声を上げる影霊の頭をそっと撫で、ヴェールの下で腕の留め金を外し手袋と一体になった上着を脱ぐ。

「出来たぞ」

 完成した穴の中を覗きこむと、予想通りの仕組みが壁の中を走っていた。


「ありがとうございます。すごく助かりました」

 そう言うと、白箔王がじっとこちらを見つめてきた。

 ヴェールで顔は隠れているし、声も変えている。はずなんだけれど…… とにかく今はそれどころではないので、彼にだけ顔を向けそっとヴェールの上から人差し指を口元にあてる。

「どうしたヴィルヘルムス」

 目を見開いた白箔王が何か言おうと口を開く。けれどちょうどケセルが声をかけてきたのでその隙に彼から離れ壁の前に立った。

「それでは皆さん、少し離れていてください」


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