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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
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海の騒乱 2

 

 

 

「確かに精霊にとって今のこの海域は危険だな」

「どういう意味ですか?」

 カラノスはジルヴァラの隣に立つと海に浮かぶ角張った中型の船の一隻を指さす。

「あの型の船は昨日までこの海域にいなかった。あれを使うのは玄執げんしゅう組という海賊で破壊や略奪をよくやる面倒な奴らだ。さらに精霊を狙う大陸の連中とよく行動を共にしているのでも有名だ」

「はあ、精霊をですか」

「噂じゃ精霊を捕まえて兵器に利用するらしい」

「兵器に? なんでそんなことを」

 ジルヴァラに続いてコトヒトも不思議そうな表情で会話に参加してきた。

「いわゆる“材料”扱いだそうだ。俺も具体的な方法は知らないが、作ったもんはどこぞの国に売ったり、自分たちで使うらしい。……オマエらもっと自分達を狙う奴らに関心持てよ」

 不思議そうに首を傾げている精霊達を見て、カラノスは顔をしかめながら言う。


「ということは、会合を中断させたのも玄執組でしょうか」

「それはわからん。警備は厳重だったはずだ。内通者がいるのかもな……バラバラに転移させられたんだろ? 人間はともかく、精霊は術を仕込んだ海域に落として捕縛するのが狙いなんだろう」

 甲板に散らばる鎖のようなものの破片を見ながら、カラノスは言う。

「そうですね。特に我々くろやみ国は全員正体不明の姿をしていましたし、それぞれ精霊認定されたのかもしれません」

 そう言いながら海を観察していたジルヴァラは、玄執組の船から出てきた小型船が白いカンテラを海から引き上げてようとしているのを見つけた。

「あれは白箔国の国精霊の分体じゃないのか?」

 コトヒトがそう声をあげる。


 ジルヴァラは甲板を見回し、あるものに目を留めた。

「ちょっとこれ借りますよ」

 ジルヴァラはそう言うと船体から飛び出すように取り付けられていた大型のもりを片手で掴み、留め金ごと外して軽い動作で持ち上げる。

 投擲とうてき装置やワイヤーなど余分なものを破壊して外してしまうと、両足を開き足場を安定させて立つ。次いで銛を片手で掲げて目標を定め、高速で腕を振りぬいた。

 一直線に飛び出した銛は海から引き上げられた白いカンテラだけを見事に撃ち抜いた。

 中心部を射貫かれたカンテラは衝撃で粉々に破壊され、細かい粒子となって空中へ飛び散り消え去る。


「おいおい、勝手によその国精霊を破壊して大丈夫なのか?」

 カラノスが望遠鏡で確認しながら問う。銀の騎士があっという間にやらかしたのは人間の肉眼では見えない、はるか水平線間際の出来事だった。

「問題ありません。先ほど本体から破壊を依頼されました」

「依頼だと?」

「現在、国精霊の間で緊急個体回線が開かれ情報が行き交っています。分体とはいえ国精霊を分解と材料目的で捕らえられるのは流石にまずいとの判断です」

 ジルヴァラはまとっていた黒のケープを手早く脱ぎながら答える。

 銛を投げた際にできたケープの裂け目を確認しようとするが、海中で襲われたこともあり、黒い生地は穴だらけで既に原型をとどめていなかった。

「他の国精霊は無事なのか?」

「……今のところは。それ以外の精霊では何名か音信不通が出ていますね」

 コトヒトの表情が暗くなるが、ジルヴァラは続ける。

「良くない事態ですが、我々の最重要事項は精霊ではありません。ナハト代表の安全確保です」

 ジルヴァラの言葉の直後、海面が山のように盛り上がる。

 次いで高音の轟音が響き渡ると同時に、そこから巨大な姿が現れた。

 小山のような巨体から続く長い首と長い尾、鋭い刺を持つ背びれと、口元に隙間なく並ぶ細い牙が割れ、再び轟音が辺り一帯の空気を振動させる。

「こいつは……まさか、海竜か?」

 青黒い鱗の上を海水が滝のように流れ落ちていくのを見上げながらカラノスは叫ぶ。

 海竜の鋭さのある頭部のその先端、額の上に灰色のケープをまとった黒い人影が立っているのが小さく見える。

「竜脈を信号にして竜を呼びました。ズヴァルトならどの竜も懐いてくれますから」

「海竜なんて伝説の生き物だぞ。はっ、本物なんざ初めて見たぜ」

 驚きでカラノス顔はひきつるが、同時にあまりの状況に笑いがこみ上げてきていた。


 海竜の頭部に立つズヴァルトは周囲の船の位置を確認し、海水で重くなったケープを脱ぎながら海竜に話しかける。

「移動が助かるには助かるが……意思が通じるのか? なあ、あっちへ行きたいんだが、向かってくれるか?」

 海竜は鼻息を一度吹き、示された方向へざぶざぶと移動を開始した。





「そういえばナハトさま、ブルムは転移直前にナハトさまにしがみついてきたので一緒にここへ来ています」

「ええ? そうなの?」

 とにかく下層へ向かえば人は少ないだろうと見当をつけ、暗い階段を降りていたところでザウトが言い出した。そういえば人工精霊に飛びつかれる直前に何かが背中に当たった覚えがある。

「さきほど周囲の様子を探りに行きました。現在はこちらへ向かっています」

「ブルムちゃん! いまどこにいるの?」

『ナハトさま!』

 呼びかけるとブルムちゃんの返事が聞こえるけれど姿は見えない。

「あと五秒で合流します」


『こちらですわ』

 返事と共にすぐ傍の壁から小さな影が勢い良く飛び出してきた。銀の竜は空中でくるりと方向転換して私たちの眼の前に躍り出る。

「ブルムちゃん、無事ね?」

『ええ。傷ひとつありませんわ。この船、もろいんですもの』

 ブルムが作った壁の穴は最小限の大きさしかあいておらず、彼女がかなりの勢いで飛んできたことがわかる。怪我をしている様子もなく、むしろ自由に飛び回れるのが嬉しいようで元気いっぱいに羽ばたいている。

 そしてブルムの背後、穴の開いた壁の向こう側からは複数の人間の声が聞こえた。

「様子を見にでかけて、ついでに見つかっちゃったのね」

『通りすがりを演じてたんですけど、なんだか精霊と間違えられて、やたら捕まえようとしてくるんですの』


「急いでここを離れたほうがいいわね。ザウトちゃん、周辺の法術や結界の仕組みにも干渉するのってできる?」

「術の位置と構成を把握できれば、なんとか」

 私の肩にとまるザウトが足元を踏み直しながら答える。

「じゃあ私達の進行方向に探知系の術があったら、片っぱしからはぐらかすようにいじって。それと、遠くにあるものを誤作動させてそちらへ注意を向けるようにもしてちょうだい」

「はい」

『ナハトさま、他の会合参加者達がいる場所を複数みつけましたの』

「わかったわ。様子を伺いに向かいましょう。近い所から案内をお願い」

『わかりました』


 ブルムの案内での移動中、ザウトの干渉のおかげか、追っ手と遭遇することも誰かに発見されることもなかった。

 立ちふさがる重厚な扉もこれまたザウトの干渉で解錠して中に入る。

「この先を曲がると目的地です」

 足音を立てないように歩き進み、曲がり角で壁に隠れてそっと様子をみる。これまたかなり頑丈そうな扉があり、扉の前には剣を持ち法術用の腕輪をつけた男が2人立っている。

 あの中に会合に参加していた誰かが捕らえられているみたいね。

「どうします? あの人間達がいなくなれば周囲の術はどうにかできますが」

『あれくらいなら始末できますわよ』

「始末はしなくていいけれど……」

 今どんな状況なのか情報が欲しいから、どんな形であれ中の人には会っておきたい。


 一人と二匹で話しあいがまとまると、私は着ていた丈の長いベストを脱ぎ、きっちりと畳んで細長い形に折り曲げるとブルムの首にぐるりと回し端をしっかりと結ぶ。

「これ、精霊が感知しやすくなっているらしいから持って行きなさい。私にはザウトちゃんがいるから」

『はい。外に出たらすぐに助けを呼んで参りますわ』

 そう返事をして、ブルムはひらりと飛び出すと扉の前にいたうちの1人の肩を両足で掴み、暴れるのも構わずそのまま勢い良く引きずって移動する。

 それを見たもう1人が慌てて追いかけ、扉の前に誰もいなくなると、私はそっと壁際から離れた。


「さあ、行くわよ」

「はいです」


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