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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
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海上にて 3 -前日-

  

 

 

 会合用の会場が完成したわ!

 再結晶で構築した海上の施設は波の上に存在しているのが嘘のようにしっかりと建っており、陽の光をうけて輝いている。


 会場施設は大きく分けて二種類。会合が開かれる中央部分と、各国の滞在施設が隣接している周辺部分。

 中央部分は全部で三層構造。海面に接する部分は桟橋と柱しかなくて、桟橋から階段へと進んだ先にはまず第二広間がある。ここは様々な行事に使えるよう何も無い広い空間になっていて、壁も開放感を追求し透明になっていて海面だけでなく水平線までよく見渡せる。

 第二広間の奥にある階段を登ると会合が開かれる最上階の第一広間がある。ここの天井や壁は一面半透明の透かし模様が入っていて、朝昼晩ごとに違う雰囲気になり、それぞれ違った形の影が床に描かれるようになっている。それに日光は入ってくるけれど紫外線は遮断するし、室温も適温に保ってくれるので快適に過ごせる。

 あともう一層、精霊達が使う部分があるけれど、これは海中深くにあるので外からは見えない。

「中央部の第二広間から外へ繋がる渡り廊下が何本か見えるでしょう? 各国が滞在する周辺部へはあの廊下づたいでしか行けないようになっているのよ。警備しやすいように各国の建物に続く廊下はそれぞれ一本ずつになっているわ」

 移動艇が建物に接近するあいだにカラノス達に説明をする。

 中央部分を囲むように建つすこし小さめの建物群をカラノスが指差す。

「屋根飾りの色からすると、あの黒いのがあんたらの国で、両側に見えるのが青嶺国と赤麗国。んでその反対側に白箔国か?」

「そうよ。わかりやすくていいでしょう。他の国の人達は青嶺国か、赤麗国と一緒に来るらしいから、滞在場所もまとめちゃったの」

 移動艇が桟橋部分に到着するとジルヴァラが待っていた。

「今ズヴァルトが中で設備の最終確認をしています」

「わかったわ。私たちは先に荷物を部屋へ運びましょう」

「はい」


 くろやみ国用の滞在施設にたどり着くと、一息つく間もなく私は荷物の中から会場の確認資料が入ったデータボードを取り出し、護衛として肩にブルムちゃんを乗せる。

「じゃあちょっとジルヴァラと第二広間まで行ってくるわね。ハーシェ、サユカにザウト、お留守番よろしくね。知らない人が来ても入れちゃ駄目よ?」

「はい。ナハトさまも、気をつけてくださいね」


 海の上の廊下を歩いていると、ジルヴァラが突然声を上げた。

「あ、今ちょうど赤麗国と青嶺国の集団が到着したようです。遠目ですが姿を確認できますが、どうします?」

「もちろん見に行くわ!」

 ちょっと格好わるいけれど、他国の要人を確認できるなら行かなくちゃ!


 建物の影に隠れ、銀の騎士と一緒にこっそり廊下を見張っていると、赤麗国の建物へ向かう廊下に赤い服を着た集団が現れた。

 集団の中心をすらりと背筋の整った中年男性が歩いて行く。背後には文官と護衛らしき姿が数名。さらにその後ろを布をまといあちこちに飾りをつけた女性数名が歩いていて、荷物を担いだ男性陣と共に従っている。

 赤麗国の衣裳は身体の形があまり出ない、かっちりした印象のものだけれど、刺繍が施された様々な赤色の布地をふんだんに使っているので、遠目から見ても華やかだわ。

 さらに彼らの背後にはオレンジがかった赤色や、ピンクに近い明るい赤色をまとった集団が付き従っている。


「今度は青嶺国ね」

 それからしばらく経たないうちに今度は青嶺国の建物へ向かう青い集団が現れた。

 深い青色のコートを着込み、杖をついて歩く背の曲がった老年の男性を中心に、隣にはレースで飾られた水色の帽子を頭に乗せた青いドレス姿の女性。彼女の背後に二人ほど女性がいる以外は全員男性で、周囲を守るように丈夫そうな青い服を来た人達。

 こちらは赤麗国と違い男女の違いが服の形ではっきりとわかる。どれも実用的で動きやすそうに見えるけれど、様々な青色を使った衣裳は手が込んでいて、装飾もしっかり施されている。

 こちらも色合いの違う青色を身にまとった集団が背後についてきている。自治領や周辺の小国といったところかしら。


「今頃白箔国も来ているのよね……」

「ええ。ちょうど到着したようです。見に行きますか?」

「……別に、いいわ。ここからだと建物も反対側だし。見に行っている間に移動し終わってるわよ。ズヴァルトも待ってるし、さっさと第二広間に行きましょう」

「わかりました」

 第二広間に入ると既に各国の警備担当者が集まってきていた。なのに先に向かっていたはずのズヴァルトが見当たらない。

「どこにいったのかしら」

『ファムさま、あの中にいますわ』

 ブルムに教えてもらった方を見ると、ひときわ背の高い人達がいる集団があった。武装した格好からして騎士が多いみたい。よくよく探してみるとその人たちの間から黒い鎧姿が見えた。


「おうおう、久しぶりだな“くろの騎士”よ、闘技場では世話になったな」

 柄の長い真っ赤な斧を持った、ぼさぼさの赤髪で顔が隠れている長身の男性が腕を組んで話しかけている。

「あの時の優勝は結局俺になったんだぞ。逃した賞金が欲しけりゃまたかかってこいや」


「先程の海上での“掃除”は見事だったよ。君はくろやみ国の所属だったんだな。はは、黒いし、そのままの名前じゃないか」

 ズヴァルトの肩に手を置いて、真っ直ぐな紺色の髪を後ろで束ねた青年が爽やかに言う。


「……」

 ズヴァルトは彼らに対して無言で対峙している。あれは……どう返事したらいいか困ってるみたいね。


「この場は争う場所ではありませんよ」

 声をかけながら集団の中に割り込んでズヴァルトの前に出る。

 正体不明の黒いヴェール姿が突然乱入したためか、その場にいたほとんどの人が驚いた顔をした。

「ほお、また面白いのが出てきたな」

 赤いぼさぼ髪の男性は黒いヴェール姿の私を見て言う。

 ほほほ、うちは愉快で楽しいくろやみ国ですから!


「銀の竜だ! 可愛いなぁ!」

「シャー!」

 肩のブルムが紺色の髪の青年に触られそうになって、牙をむいて威嚇している。なんだかこのノリ、既視感があるわね。


「こほん、私はくろやみ国使節団代表のナハトと申します。この会場の警備についての最終確認をさせていただきたいのですが、赤麗国、青嶺国、白箔国の警備担当責任者の方はいらっしゃいますね?」

 私の言葉にズヴァルトを囲んでいたぼさぼさ髪の赤い男性と、紺色の髪の爽やか青年が手をあげる。それと離れた所にいた丈の長い白い服を着た中年の男性も手を上げた。


「それでは最終確認をさせていただきます」

 周囲が私に注目するのを確認して、データボードの内容を読みあげた。

「現時点の警備は我々くろやみ国が担当しています。日没から深夜までが青嶺国、深夜から明朝までが赤麗国の担当で、明朝からお昼の会合開始までが白箔国。そしてそれ以後の会合中は各国が同時に警備に立つ……というので、よろしいですね?」

 全員が頷くのを見て、私はヴェールの中から腕輪を取り出した。

「では各国の警備担当のまとめ役の方は、認証票をお渡ししますので受け取りに来て下さい」

 それぞれに認証票を渡しながら各国の警備責任者を登録する。

 赤麗国はぼさぼさ髪の男性、紅濫こうらん

 青嶺国は紺色の髪の青年ケセル。

 白箔国は白い服を着た男性テオフィル。

 そしてくろやみ国はズヴァルト。


「認証票は各国それぞれの建物だけでなくこの中央部の警備装置と連動しています。中央部の扉の開閉は今この時間から認証票無しでは出来なくなりますので、気をつけて下さい」

 登録した腕輪型の認証票を全員に配ると、ちょっとほっとした。

 これでナハトの初仕事は無事に終了ね。


「あの、もしかしてこの壁は霊晶石れいしょうせきでしょうか?」

 確認漏れがないか頭の中をまとめていると、おそるおそるといった様子で白箔国の人が尋ねてきた。

 れいしょうせき? 私の知らない単語が出てきたわ。


「一応同じものですよ。霊晶石は霊素を凝縮したものですから」

 入口のところで待機していたジルヴァラが答えた。いつの間にか“黒い姿”になっている。

「“くろの騎士”が他にもいるのか」

 紺色の髪の青年、ケセルが驚いた表情で言った。

「いくらでもいますよ」

「気配がなかったな……いつから居た?」

「ずっといましたが?」

 首を傾げるジルヴァラに、紅濫が面白そうに口元を歪めるように笑った。

「ますます面白い」


「この壁、というか建物についてですが、今回は海水と霊素と少々の気脈を混ぜて構成しています。この海域一帯の霊素をすべて使用しましたので、当分ここで人間が精霊術を使うことは出来ません。あれには霊素が必要ですから」

 ジルヴァラの言葉に、ケセルが顔をしかめる。

「どうりで精霊術が使えないと思ったんだ。それが理由だったのか」

 各国の騎士達も驚いたり焦った顔をしている。

「この規模をあの一瞬で構成なんて……そんなことが可能なのか? 聞いたこと無いぞ」

「いやしかし実際に存在しているわけなんだし……」


「ちなみにこの建物全体はすべて同じもので出来ています。設備の一つ一つも、絨毯もすべて」

 霊素は事前に“指定”すればかなり自由に形を決められる素材で、精霊術にも使われている。大気中にも存在しているので今回の会場設営用の材料としてとても役に立ったわ。

 でも一気に構築するため、それぞれの部品の形や密度、繊維の質などかなり細部まで全部決めなくちゃならなくて、準備はものすっごく大変だった。

 私の言葉に周囲がひどくざわめいた。なんだかやたら興奮している人もいる。

 首をかしげていると隣にいたズヴァルトがこっそり教えてくれた。

「霊素の結晶体である霊晶石は大陸では宝石や貴石と同じ扱いです。あまり出まわらないので高価格で取り扱われているんです」

 え、そうなの? それって、大陸で売ったらどれ位になるのかしら? ……じゃなくて、持ち帰るために壊されたら困るわね。

 もしかして霊素で建物を構成するのって、他国ではあまりやらない事なのかしら?


「あの、会合が終わるまでどこも壊さないでくださいね」

 一応ズヴァルトやジルヴァラが転んだり、ブルムちゃんが全速力でぶつかっても壊れないくらいは頑丈に作ったから、多少は大丈夫だと思うけど

ちなみに、建物の会合後の使い道はすでに決まってます。(by精霊達)


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