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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
69/120

海上にて 2 ‐掃除と設営‐

しばらく恋愛描写のないパートです。

 

 

 


 数刻前―――


  深い暗影の中から浮上するように意識が戻る。

  開いた瞳は何も映さず、そこにはただ沈んだ空気だけがあった


 男はもたれかかっていた椅子から背を起こし、こわばっている身体をほぐす。

「到着は」

「まだ半刻ほどかかります」

「そうですか」

 床を見つめながら額に手を当て、深く息を吐くと机に置かれたグラスをとり、中身を飲む。ぬるくなった水だったが、飲み干すと共にゆっくりと思考がまとまってゆく。


「あのバカを発見しました。海の上にいます」

「迎えに?」

「国法で彼の特別扱いは禁止ですよ。まあ、放置もするつもりはありませんが、今はこちらが先です」

 椅子から立ち上がると緩めていた襟元を整え、ヴィルヘルムスは眉間に皺を寄せた。


「目標を捕捉しました」

「わかりました。上陸の準備を」





 ジェスル王子と別れてからそう時間がたたないうちに会場の設営ポイントにたどりついた。


 船の甲板から見ると、定められた場所には予定通り黒光りする巨大な立方体が浮かんでいる。

 闇を固めたようなそれは磨かれた貴石のように光沢のある表面で、大きさはカラノス達の大型船の半分ほど。浮かんでいるといっても海面の波すれすれの上空に静止している状態。

 うん。ばっちりね!


「おいおい、まだ建ててないのかよ。会合は明日からだろうが。間に合うのか?」

 カラノスが立方体以外何も存在しない海面を見て、呆れたように言う。

「ちゃんと準備してきたもの。余裕で間に合うわ」


 私たちはカラノス達と一緒に小型移動艇に乗って、黒い立方体へと向かう。


「おいで」

 移動艇が近くまで到達したあたりで手を伸ばし、私は立方体の端にいた小さな影に声をかける。波の音にかき消されるかと思ったけれどちゃんと聞こえたようで、影は翼を広げて飛び立った。海風に煽られながらも力強いはばたきで私の手のひらの上までくると、小さな足を開いてちょこんと乗った。

「ザウト、初めてのお仕事ご苦労様」

「おまちしていましたです。ナハトさま」

 ライナの羽根から産み出された影霊のうちの一体、小さい身体と頭部両側に逆立つ羽毛。そしてぱっちりとした目をした灰色の鳥姿のザウトは、サユカより二回りほど小さくて、とても軽い。

「待機中は大丈夫だった?」

「はい。なんどか他所の国の人たちが調べにきましたが、危害を加えてきた者はいませんです」

 言われて周囲を観察すると、今も立方体の上空や周囲に調査用の人工精霊や法術が飛び交っているのが感じられる。ヴェール越しだからか、かなりはっきりわかるわね。

「確かに騒がしいわね」


「皆さん我々の動向に興味が有るようですね」

 ジルヴァラが見ている方向には水平線間際に大きな船がいくつか並んでいる。他国があそこから遠巻きに観察しているってことね。会場ができていないから心配しているのかもしれない。

「ずっと守ってくれたのね。ありがとうザウト。あとで身体を洗ってあげるわね」

「はい」

 額にある逆三角形のりりしい羽毛を撫でてあげると、ザウトは気持ちよさそうに目を閉じた。


「うーん、見られる分には問題ないけれど…このあたりに漂っているのは邪魔ね、あなた達、これ綺麗に出来る?」

「ズヴァルトができますよ」

 私が振り返ると銀の鎧が言い、黒い鎧が頷いた。

「ならお願いするわ。サユカ、ザウト経由で周囲の船に声をかけたいから用意をしてちょうだい」

「わかりました」

 ハーシェの腕にいるサユカに言うと、私は手の上の小さなザウトをそっと左肩に乗せる。

「ザウト、いける?」

「はい。各精霊術、探知系法術の発信元はすでに確保……船の通信設備も把握していますです。続いて干渉を開始」

 ザウトが暗い灰色の瞳で空中を見つめるようにして言う。

「……できましたです」

「わかったわ」

 私はちょっと背筋を伸ばして姿勢を整え、サユカの頭に片手を乗せた。


「ナハトさま及びザウトとの接続……すべて完了。いつでもどうぞ」

 サユカの合図に合わせて、私は声を出した。


『えー、皆様こんにちは、こちらはくろやみ国使節団です』


「うわっ」

 私が喋ると黒堤組の移動艇の操縦席からヴェールで変換されたナハトの声が聞こえてきた。一応この声は通信術に干渉して、術者や通信器具を使っている周囲の全ての船に聞こえているはず。なるべく穏やかに、静かに喋らなくちゃ。


『これから会場設営に入りますので、付近には近寄らないでください。また、皆様方からの探知の術が設営の妨げになる恐れがありますので、我々から距離をとってください。もしどかれない場合は、申し訳ありませんがこちらから排除させて頂きます』


 そう告げて、しばらく待ってみる。けれど半分ほどは残ったままいなくなる様子がない。


「警告はしたし、時間がもったいないわ。ズヴァルト、やっちゃって」

「わかりました」

 ズヴァルトは船の先端へ行くと片足を船縁にかけ、腰につけた剣を鞘から抜いて空へ掲げた。

 薄く色づいた透明な刃が陽の光を受けて明るく光る。それと同時に、空を舞っていた人工精霊達が一斉に静止した。そしてズヴァルトが剣を上空へ向かってひと振り、続けて交差するようにふた振りすると、今度は強い風が吹き荒れる。

「ちょっとこらえていてくださいね」

 そう言うとブルムを頭に乗せたジルヴァラが私とハーシェの肩を押さえてきた。ハーシェはヴェールが飛ばされないようにしつつサユカを抱きしめ、私はザウトが飛ばされないように押さえる。

 船の縁にはカラノス達黒堤組が手すりに捕まってしのいでいるのが見えた。

 よく晴れた空の下でしばらくびゅうびゅうと強風が荒れ狂い、船も大きく揺れた。ふ、船酔いが復活しそう……


「終わりました」

 風の音が弱まり、ズヴァルトが剣を下ろすと海は元通りになっていた。あたりを見渡すと、空を舞っていた探知術達はキレイに居なくなっている。

「ありがとう、ズヴァルト」


「あれだけの数を、い、一瞬だなんて……」

 カラノスと一緒に来た黒堤組の人が何やら驚いている。うちの精霊達が作ったあの剣、やっぱり結構凄いものなのかしら?

 とにかく、これで周囲の掃除は出来たわね。


『これで邪魔されずに自由に飛べますわ!』

 ブルムちゃんが嬉しそうに羽ばたいた。

「ブルム、会場が出来上がるまでおでかけするのは待ってね」

 私は腕を伸ばしてジルヴァラの頭から銀の竜を下ろし、ザウトとは反対側の肩に乗せる。

「みなさんに期待されてるみたいだから、ズヴァルト、ジルヴァラ、派手にやっていいわよ」

「わかりました」「はい」


「カラノス、船を近づけてちょうだい」

「お、おう」


 移動艇が黒い立方体に近づくと、私達に反応して立方体は半分ほど海水に沈んだ。それに合わせて二名の騎士がひらりと飛び移り、上面の中央、腰ほどの高さの台がせり出している所へ向かって歩いて行く。

「ありゃ何だ?」

 カラノスは興味津々の様子で船から身を乗り出し中央の台を眺める。台はうっすらと黒みがかった半透明で、日光に照らされて輝いている。

「今回の会場設営のために作った結晶体よ」

 二色の鎧はお互い結晶体の対角線上になる角と角に落ち着くと、それぞれ結晶体のマーキング部分を確認する。

「カラノス、距離をとってちょうだい。衝撃とか波とかがくると思うから」

「わかった」


 私たちが十分に離れたのを確認すると、ジルヴァラとズヴァルトが向き合った。



「この結晶体は二箇所同時に同量の衝撃を与えると足元の立方体ごと分解し、あらかじめ設定された形にそって再結晶が始まるようになっています。与える衝撃の力は、あなたの攻撃力で計算しました」

 ジルヴァラの言葉に、結晶の表面を触って硬さを測っていたズヴァルトが頷いた。

「手加減はしなくていいんだな」

「ええ。思いっきりやってください。せーのでいきますよ」

「わかった」

 声と共にそれぞれの鎧が両手を組んで頭上に高くかかげる。


「せーの!」

 騎士達は一瞬力を溜めると、一気に結晶の上へ拳を振り下ろした。


 乾いた甲高い衝撃音が青空いっぱいに響き渡り、瞬時に結晶が粉々に砕かれ、はじける。


 騎士達の立っていた立方体にも細かなヒビが入り、一旦海の中に沈み込んでいく。けれど次の瞬間一気に浮上し、余すところなく細かな破片となって砕け、空中を舞い散り、空間一帯が光を反射してきらめいた。


 そして破片は天へ向かって立ち上ったかと思えば、一定の高さになると水平方向に広がり、再び垂直下へと降下し、今度は海面に広がる。

 ちりちりという細かな音と共に結晶を再構成している粒子はふたたびつながり、与えられた指示に従って新たな形をつくりあげる。ある粒子は柱になり、壁になり、また別のものは天井を作って……


「こいつはすげえ」

 勢い良く構成されていく結晶の建造物を眺め、感嘆するようにカラノスが言った。


 最後に再結晶が終わった合図に澄んだ鈴の音がして、会場設営が終わった。

サユカはシロフクロウ、

ザウトはアフリカオオコノハズク、

で、ぜひともイメージお願いいたします。

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