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くろやみ国の女王  作者: やまく
第五章 海の上の会合
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海上にて 1 ‐七色の精霊‐

 

 

 

「身体の調子はどうだ?」

「まあまあってところよ。薬もきいてるし、だるいだけでふらつきもないわ」

 背後からの声に答えながら目の前のふかふかの灰色毛に顔をうずめる。そっと体をなでるとさらさらの手ざわりが指をつたう。

「あああ、最高にきもちいい。癒されるわぁ」

 コトヒトが説き伏せてくれて、ついにシシの体に触れることが出来たわ!

 

「シシの毛並みは黒堤組の至宝ね! ありがとうね、シシ、それにコトヒト」

 そう言って首周りに抱きつきながら丸い耳の後ろをなでると、シシは私の方をちらりと見て、面倒臭そうにあくびをすると腕に顎を乗せて目を閉じた。

「本来はマヴロしか触れられませんから、お礼ならあちらにどうぞ」

 シシの頬をなでていたコトヒトが言う。

「そうだそうだ。俺の許可があってのもんだぞ」

 灰色の精霊の示した方向に振り返れば、私の反対側からシシに寄りかかっていたカラノスが、ぶつぶつ言いながらちょっとムスッとした顔つきで書類をめくっている。

「ありがとうカラノス。すごく嬉しいわ」

「おう」

 笑顔でお礼を言うとすこし機嫌が直ったみたい。


「せっかくならもっと全身で感謝してほしいな」

 続けてそう言い出すので今度は睨むと、にやりと笑った。

 船旅のあいだ、カラノスは忙しいだろうに何かと私たちのいる部屋にやってくる。他愛ない話も、真面目な話もしているのだけれど、時々こうして話の流れがおかしくなることもある。

「そういうのは受け付けていません。他所をあたってちょうだい」

 逃げたいけれど、シシの毛並みをまだ堪能したいから可能な限り体を離して距離をとる。

「ここは船の上だぜ? 他所なんてないぞ」

 そう言ってカラノスは手を伸ばし、床の敷物に広がる私の髪を一房持ちあげようとする。

「そこまでです。マヴロといえどそれ以上は許可しませんよ」

 カラノスの指先が髪に触れる寸前、銀色の腕がカラノスを防ぐように現れた。見れば片手で部屋の扉を開いた状態のまま、銀色の騎士が立っている。

「ジルヴァラ、アナタどこから手を伸ばしてるのよ…」

 扉と私達がいる場所は部屋の端と端なので、銀色の腕は長く伸びて人間ならあり得ない格好になっているわ。

「ちょっと目を離した隙にもう」 

 銀の兜の奥からカラノスを睨んでいるような声がする。

「別に大したことしてねえってのに。アンタ一応正体不明の騎士なんだろうが。あんまり人間離れした事しないほうがいいぜ」

 カラノスはカラノスで、ジルヴァラにすこし呆れ気味で答える。このやりとりも船旅の間にだいぶ見慣れてきたわね。


「ありがとうジルヴァラ」

「ナハトさま、体はいかがですか?」

 ジルヴァラは音もなく歩いて来るとシシの背中に置いていた私の手を持ち上げ、何かを確認するようにじっと見つめる。

「問題ないわよ」

「今のところはそのようですね。別の薬も調合しましたので後で飲んでくださいね」

「わかったわ」

「ところでズヴァルトは? 護衛についていないのですか?」

「ハーシェが船内で迷子になっちゃったらしくて、連れてきてもらってるの」

「そうなんですか、ではついでに船の後部へ向かうよう伝えましょう」

「どうかしたの?」

「そろそろジェスル王子の離脱ポイントです」


「俺は行かん。コトヒト、代理で見届けて来い」

「わかりました」 




 黒いヴェールを着込んでジルヴァラと船の後部、私達が移動艇で入ってきた所へ向かうと、すでにジェスル達がいた。

「騒がしかったけど、別れるとなると寂しく感じちゃうわね」

 やっかいなお客さんだったけれど最初以外は騒動も起こさなかったし、みんなと仲良くしてくれた。まあ、私は忙しくってあんまり会話してなかったけれど。

 青い髪の青年は来た時と同じ格好で立っていて、黒堤組の人達数人と談笑していた。

 どこにいても周囲と仲良くなるのねあの人。


「俺のこと、良くしてくれてありがとうな。色々すまなかった」

「こちらも始めかなり乱暴に扱ったし、お互い様ね」

 めったにない外からのお客さんだったし、最初以外はちゃんとこちらの指示に従ってくれた。

「あんたらの国、嫌いじゃないぜ。俺も楽しかったよ。ところでどうやって移動するんだ?」

 船がないのでジェスルは不思議そうにあたりを見回している。

「今用意します」

 ジェスルの言葉に答えるようにジルヴァラが海に片手を入れる。

「うちを気に入ってくれたのは嬉しいわ。できればあなたや、あなたの国とは友好的にいきたいものね」

「それは今の俺にはどうにもできないが、まあ会合での結果次第だな」

 そうね。たしかにそう。


 しばらくすると、水平線の方向から水しぶきを上げて猛烈な勢いで何かがこちらへ向かってきた。


「そうそう、白箔王には油断しないほうがいいぜ」

「えっ」

 突然のジェスルの言葉に振り返った。あ、ひるがえったスカートを思いっきりズヴァルトとジルヴァラにぶつけちゃった。

「何かあいつ、あんたらとやりあってるらしいけど、ああ見えてけっこう手強いから気をつけるんだな」

 ちょ、ちょっとそれどういうことよ!

「法術も精霊術もひととおり得意だぜ、あいつ。あーこれ世話になったよしみでの助言だからな。一応俺あっち側の立場だし」

「もしかしてあなた知り合いなの?」

「ああ、友だ「時間です」…うぉおっ!」

 ジルヴァラがいきなりジェスルの胴体を持ち上げた。

「ちょっと! 話の途中なのよ!」

「迎えが来ましたので」

「な、まさか…うおおおっー! “全身”に“防水”と、“撥水はっすい”ぃい!」

 ジェスルは海の中の群れの中に放り投げられた。

「空中でもとっさに法術を複数発動とは、流石は青嶺国の王子ですね」

 コトヒトが感心しながら言う。


「あれは海の生き物ですか? ずいぶん華やかですね」

 ハーシェがよく見ようと背伸びして前にでようとするので急いで腕を捕まえる。

 長い口先に三角の背ビレ、横に平らな尾びれ…あの姿、本で見たことがある。

「あれってイルカ?」

「同じ姿ですが海にいる精霊です。属性に関係なく群れで活動しているのでカラフルなんですよ。通称七色イルカと呼ばれています。ちなみに本物のイルカよりも2.5倍ほどの大きさです」

 確かに、それぞれ派手な色をして七色くらいありそう。

 でも今はそれどころじゃない。なのに話を聞きたい相手はイルカの群れの上でのたうっている。

 しかもそのまま勢い良く水平線へ向かいはじめた。お皿を布でこするようなにぎやかな鳴き声も聞こえてくる。


「近辺に大空騎士団の船を確認しましたので、彼らにそちらへ運んでもらいます。彼は精霊達の人気者ですから、下手に普通の船で運んだら巨大海獣型の精霊に見つかって船ごとじゃれつかれかねませんので」

「あの精霊達に保護してもらったほうが安全に引渡せるでしょうね。七色イルカは海の精霊でも気軽に用事を引き受けてくれる存在なんですよ」

 コトヒトが手を振ると灰色のイルカが顔をあげて回転した。


「そうなのですね。ジェスルさん、気をつけてくださいね〜」

「もう! 色々聞きたいんだけど、今度にするわ。とにかく生き残りなさいねー!」

 聞こえているか分からないけれどハーシェと一緒に手を振ってみた。


「忘れ物だ」

 最後にズヴァルトがジェスルの剣を投げると、橙色のイルカが背びれで器用に受け止めた。

海獣型の精霊に見つかって船ごとじゃれつく…シロナガスクジラ級のサイズが海面ジャンプしてのしかかって「やっほい」してくる感じ。普通の人間の船なら一溜りもなく粉微塵。ちなみに精霊側には悪気はない。

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