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くろやみ国の女王  作者: やまく
思いと答えの始まり
66/120

7  草原の約束

 

 

 

 思いがけず、勢いのままに出てきた言葉だったがヴィルヘルムスはこれ幸いとそのまま続けた。

「どうか私と付き合ってくれませんか」

「あ、あの、ヴィルさん?」

 先に歩き出そうとしていたファムはヴィルヘルムスの言葉に驚いて振り向いた姿勢のまま固まっていた。

 ヴィルヘルムスはその顔に触れたくてたまらなくなったが、話を続けるために我慢した。

「いきなり、ど、どうしちゃったの?」

「どうもしてません」

「なんで私? ふざけてるの?」

 ファムは震えていた。それから一気に頬を赤らめ、泣きそうな顔になる。首をかしげながら笑おうとしているが、泣き顔に近い。

「ふざけていません。物凄く大真面目です」

 ヴィルヘルムスが一歩近づくと、ファムは一歩後ずさる。

「だって、だって、あなた」

「ヴィルです」

 さらに一歩近づくと、また一歩後ずさる。

「ヴィルさんは……」

「ヴィル、です」

 彼女をまっすぐ見つめながら彼は強く言った。そう呼んで欲しかった。

「ヴィ、ヴィルは」

「私は私です。あなたもあなたでしょう? ファム」

 彼はゆっくりと、ファムと目を合わせたまま、だが確実に一歩ずつ距離をつめ、そして彼女をそっと腕の中に収めた。腰の後ろに手をあて、力を込めすぎないように慎重に引き寄せる。

「あなたの事が好きなんです。ファム、どうか恋人になってくれませんか」

 彼女に落ち着いているように見えるように、震えそうになる声を必死に抑えながら彼は言う。

「もし嫌なら、この腕を振りほどいてください。そうすれば私は大人しくあなたの前から去ります。ただの他人に戻り、会うこともないでしょう」

「と、友達じゃだめなの?」

 ファムはヴィルヘルムスの顔を見つめ、言う。

「駄目です。友人ではこうしてあなたの近くで、あなたに触れられない」

 友人としてファムに対して一定の距離を保つ。それはヴィルヘルムスにとって耐えられそうにないことだった。それならばいっそ彼女から見えない距離まで引き下がり、遠くから見守りつつ改めて時を待つ事を選ぶ。

「さあ、どうしますか」

「うう……」

 ファムは下唇を噛み締めながら潤んだ瞳でヴィルヘルムスを見つめ、それから視線を彷徨わせ、触れるか触れないかどうかの距離にある彼の胸元と、自分の体との隙間を見つめる。

 それはどのくらい時間だったのか分からないが、ヴィルヘルムスにとっては一生のうちで一番長く期待と不安を味わう時間だった。

 最終的にファムはヴィルヘルムスの上着を掴み、額を彼の胸元へ押し付けた。

「……これは、受け入れてくれるということですか?」

「……」

「ファム?」

 上から覗き込んだ彼女の耳は真っ赤だった。返事の代わりに上着をつかんだファムの手に力が入る。


 ヴィルヘルムスは安心と喜びに包まれながら彼女を深く抱きしめようとするが、その気配に気づいたのかファムは腕から抜け出すと、睨むかのようにまっすぐに彼を見つめる。

「い、いいい、いいわ! 私、あ、あなたの恋人になってあげる!」

 ファムの顔は真っ赤で、声はうわずっていた。

「……はい!」

 対するヴィルヘルムスの返事は、彼自身も驚くほど明るく弾んだものだった。


「それで、約束をしましょ!」

 そう言うとファムは目元に浮かんでいた涙を拭い、腕を組む。

「約束……ですか?」

「そうよ。お互いのどちらかが、もう無理だと思ったら別れること。その、事情とかそれぞれあるわけだし」

 そう言いながら、ファムは驚きのあまり取り落としていたカゴを持ち上げ、再び歩き出す。ヴィルヘルムスはあわてて自分の鞄を拾い上げその後を追う。

「あなたが無理だと思うのはどういう時ですか?」

「い、忙しくなった時とか? ほら、仕事で残業とかあるし」

「会えるまで待ちますよ」

 彼女を待たせないよう、時間調整には全力をかけようと、彼は密かに自分に誓った。

「飽きちゃうとか? 他に好きな相手ができたとか?」

「よそ見する暇なく、飽きさせないよう頑張ります」

 ファムは早足で歩き続け、ヴィルヘルムスは必死に答える。お互い会話に夢中で余裕がなかったらしく、二人はいつの間にか帰る道を外れて何もない草原の真ん中に立っていた。

「な、なんでそっちばかり頑張る話になるのよ。あなたが私に飽きちゃう可能性だってあるんだから。その時はちゃんと言ってよね?」

 ファムは振り返り口を尖らせヴィルヘルムスを軽く睨むが、その瞳はやさしさと、さみしさが含まれるものだった。

 彼はたまらなくなって、彼女に駆け寄ると今度こそ目一杯抱きしめた。

「あなたに飽きてしまう事なんてこの先ずっとあり得ません」

 ヴィルヘルムスは確信を持って言った。

 会うたびに違う表情をして、その一瞬一瞬から目が離せなくなる人。いつもヴィルヘルムスに驚きと喜びを与えてくれる女性。彼にとって初めて目があった瞬間から、彼女はただ一人の女性で、そしてまた自分が彼女のただ一人の男性になることを願った相手。

「愛しています。ファム」

 そしてヴィルヘルムスはいつも触れたいと見つめていた彼女の唇に己のそれを寄せた。




なんだかグッドエンディング。

後がいろいろあるのでアッサリくっついてもらいました。

そして過去パートはもうすこし続きます。

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